第13話
「大上・・・、十組にかわるか?」
美緒はキョトンとして三好を見た。
「人外専門の十組なら、完璧に守ってやれるぞ。大上は変身のコントロールが出来ないのだから、十組で学ぶべきなのかもしれないな。むしろ、今まで何事もなくこれたことの方が不思議なくらいだ」
愛がパンッと手を叩いて、それに同意する。
「そうよ。そうしなさい。十組に行けば問題は全て解決するじゃない」
優牙も頷く。
「そうだな、姉ちゃん十組行けよ。そしたら俺も安心出来る」
美緒は皆の言葉を聞くうちに、段々と事の重大さが分かり、持っていた苺牛乳をポロリと落とした。
「じゅ・・・十組って、十組って、愛ちゃんパパが通ってたクラスだよね」
「ああ、そういえば、河内のお父さんも十組だったらしいな」
美緒は涙目になり、三好に縋りついた。
「せんせー・・・」
「何だ?」
「嫌ぁ・・・十組は嫌ぁ・・・。だって愛ちゃんパパみたいなのが一杯いるんでしょ・・・?」
「失礼なこと言わないで!この馬鹿狼!」
愛が美緒の耳を思い切り引っ張った。
「大上、見た目で判断するのは駄目だぞ。十組の生徒達は一組以上に優秀だ。文武両道に秀でた者ばかりの、いわば『超エリートクラス』なんだぞ」
「うぅ・・・じゃあ愛ちゃんも一緒に十組に・・・」
「それは出来ないな」
「何でですかー!」
「人間としてやっていける者は、出来るだけ普通クラスに通うと決められているからだ。普通クラスは、人間に混じって生活していく為の、練習の場でもあるからな」
「うぅ・・・」
「どうする?大上が頑張れるなら、一組のままでもいいんだがな」
美緒は三好の服をぎゅっと掴んで、顔を上げた。
「せんせー、頑張るからぁ、一組で頑張るからぁ、十組に行けなんて言わないで」
「えー!何だよそれ。姉ちゃんの『頑張る』なんて、口先だけに決まってんだろ。十組に行け!」
「そうよ。迷惑よ」
「うぅ・・・言葉の暴力」
優牙と愛の非情な言葉に涙ぐむ美緒の頭を三好が撫でる。
「大上弟、河内、頑張るって言ってるのだから、少しは信用してやれ」
優牙と愛が、眉を寄せて、嫌そうな顔をする。
「・・・今夜の職員会議で、この件について話し合う予定だ」
三好は床に落ちた苺牛乳を拾い、立ち上がった。
「予定が早まってしまった上に、佐倉の反応が思ったより激しかったからな。今後の対応について、検討する」
優牙と愛が一瞬顔を見合わせた後、三好を睨む。
「どういう意味だ?」
「先生、何を隠しているの?」
三好は困ったような表情をして、首を少し傾げた。
「お前達が『特別』なように、佐倉にも学園として『特別』な事情があるんだよ。今日の職員会議で正式決定したら、お前達にも教えるから、明日の昼休みにまたここに集合してくれ」
三好は美緒の手を引いてソファーから立たせ、ポンポンと背中を叩いた。
「もし本当に大上が駄目な時や、危険と判断した時は、先生が必ず助けてやるからな。ちょっと頑張ってみろ」
美緒は三好の言っていることの意味が分からず、首を傾げた。
「せんせー・・・、何がどうなっているのか、さっぱり分かりましぇん・・・。危険ってなに?怪我したりとか?」
三好は笑って美緒の頭を撫でた。
「まあ、お前にとっては『ある意味危険』かな。でもな大上、先生は今回の件が、お前に良い影響を与えると思っているんだ。少しやる気を出してみろ」
三好は冷蔵庫のところに行くと、中から何か取り出して戻って来た。
「ほら、これをやるから頑張れ。さあ、昼休みが終わってしまうぞ。教室に帰りなさい」
美緒は三好がくれたものを見て歓声を上げた。
「わーい!フルーツ牛乳だー!」
「頑張るんだぞ」
「はーい!」
優牙と愛は、そんな美緒を見て、呆れ果てた。
「だから、餌付けされてんじゃねーよ・・・」
自分に災難が降り掛かってこないことを祈りつつ、優牙と愛は溜息を吐いて、ドアに向かって歩きだした。