第12話
「・・・お前達、先生は弁当が食べたいのだが?」
突然研究室に来た美緒、優牙、愛、の三人を、三好は椅子に座って腕組みした姿勢で見た。
「仕方ねーだろ、佐倉蓮が付いて来るんだよ。ここならあいつに話聞こえないからな。担任なんだから協力しろよ」
教室を出た三人の後を、蓮は付いて来た。
そこで優牙は防音になっている三好の研究室に、美緒と愛を連れて入り、蓮が入る前にドアの鍵を掛けたのだ。
「オラ、ここ座れ」
優牙が美緒をソファーに座らせる。
「あうぅ・・・」
涙ぐむ美緒の耳を愛が引っ張った。
「ほら、しゃんとしなさい」
「うぅ・・・」
優牙は腕を組んで、美緒を睨み付けた。
「・・・で?何がどうなってんだ?」
「あうぅ・・・」
「答えろ!」
美緒がビクリとして、目に涙を浮かべた。
「早くしなさい。お弁当食べる時間が無くなっちゃうでしょ?」
「う・・・愛ちゃん冷たい・・・」
二人に睨まれて、美緒は涙を指で拭った。
「聞くも涙、語るも涙の物語・・・」
「いいから、さっさと話せ!」
優牙が拳を振り上げる。
「ヒィイッ!」
「ほら、早く!」
愛が耳を数回軽く引っ張った。
「うぅ・・・。昨日、学校で変身して、帰ろうとしたら佐倉君がいて、クリームパンで、ペロペロで、運命って言われて・・・」
「何だそれ!?分かるように話せ!」
優牙の拳が美緒の頭に振り下ろされた。
「痛いー!痛い痛い痛いー!」
「うるせー!!」
優牙がもう一度拳を振り上げる。
その時、三好が溜息と共に立ち上がった。
「大上弟、そのくらいにしてやれ。折角覚えた授業内容を忘れるだろう?もうすぐ期末テストなんだからな」
三好は冷蔵庫を開けて苺牛乳を取り出すと、それを持ってソファーの前に行く。
「ほら大上、苺牛乳だぞ。これ飲んで、ちょっと静かにしてろ」
三好は美緒の手に苺牛乳を握らせ、頭を撫でた。
美緒は一瞬キョトンとしたが、直ぐに嬉しそうに苺牛乳を飲み始める。
「美味しー!ヨシヨシ先生、これ美味しー!」
「そうか、良かったな」
「餌付けされてんじゃねーよ・・・」
優牙がガクリと肩を落として呟く。
三好は美緒の頭に手を置いたまま、優牙を見た。
「佐倉は無類の犬好きなんだ」
愛と優牙は三好の言葉意味が分からず、顔を見合わせた。
「・・・・・だから?」
「・・・・・何だ?」
「昨日大上は、学校で変身してな。狼の姿で帰ろうとしたところを、偶々佐倉と鉢合わせになったんだ。大上は逃げたんだが、その時鞄を忘れて帰って・・・。それでまあ、佐倉は狼の姿の大上を、大上の飼い犬と思い込んでしまったんだ。な、大上、そうだよな」
三好の言葉に、美緒がぽかんと口を開けて、首を傾げる。
「あれ・・・?何で?」
三好は笑って美緒の頭を撫でた。
「・・・その話、本当なのか?」
優牙が眉を寄せて、三好を胡散臭げに見る。
「嘘は吐いてないぞ」
「・・・でも何か隠してるでしょ?」
三好は優牙と愛の頭を撫でて笑った。
「疑い深い子達だなあ。でも先生、お前達のそういうところ、好きだぞ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
優牙が溜息を吐いて、三好の手を振り払った。
「・・・で?そんだけ知ってて、何でほったらかしにしてんだよ。俺達が狼人間だってばれたらどーしてくれんだ。あんたそれでもこの学校の先生か?」
「そうね。美緒の正体がばれたら、うちにも影響があるかもしれないじゃない。迷惑よ」
「人外を完璧にサポートしてくれんのが、この学校の売りだろう?」
三人が通っているこの学校、『悠真学園』は、幼稚園から大学まで揃っており、一般的には優秀な成績のものしか入れない学園として有名である。
しかしその裏で、人外の受け入れをしている学園として、一部の者達には知られているのだ。
一般の生徒達は気付いていないが、教師陣はそのことを把握しており、密かに人外の手助けをしているのである。
「あのなぁ、確かに先生はお前達の手助けはしてやるが、問題が起こった時は自分達で解決するのが基本だぞ」
「何だよそれ。話が違うぞ!」
「普通クラスに通っている以上は・・・だがな」
三好はしゃがんで、美緒と視線を合わせた。