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第104話

「まあ、捕まったのは自業自得だし、そのうち自力で脱出するか組織を破滅に導くと思ってたんだけど、生徒達も捕まってるなら話は別になるわね」

 冴江はそう言い、小さなあくびをした。

「お父さんがドジ踏んだせいで、私もちょっとだけ危なかったのよ。あそこで見捨てなかったら、私も捕獲されていたかもね」

 だから疲れている、と言って、冴江はもう一度あくびをする。

「見捨てて逃げたんだ……」

 美緒の非難するような視線に、冴江は鼻を鳴らした。

「当然でしょう。二人で仲良く捕獲されてどうするの? 自分の命は自分で守るのが基本よ」

「はい。もっともな意見です」

 冴江に少々強い口調で言われ、美緒あっさりと謝った。

 蓮が、冴江の耳元にノミがいないか確認しながら訊く。

「ご主人の匂いを辿って、組織のアジトまで行けませんか?」

「ああ、無理。一応やっては見たけど、途中で分からなくなった」

 生徒達を襲った者達と同じで、何らかの臭い対策をしていたのだろう。

 落胆する美緒をチラリと見て、「だけど……」と冴江は続ける。

「まあ、そんなことしなくても、麒麟と龍が監禁されている場所は、もう既に特定しているかもしれないよ。――理事長がね」

「理事長先生が?」

 どういうことなのか、と訊こうとした時、車が止まった。冴江が立ち上がってさっと車から降り、職員室へと向かう。

「あ、ちょっと待ってよ」

 そのまま職員室に入ると、職員が集まっていた。重苦しい雰囲気の中、三好が机を蹴る音が室内に響いている。

「何てことだ、クソが」

 うわ、と美緒が思わず一歩引く。美緒達に気づいた愛がやってきて、生徒達に柔らかい笑顔を見せた。

「大変だったね。でももう大丈夫だから。こっちに来て」

 生徒は一か所に集められ、そこで騒ぎがおさまるまで保護するらしい。愛が生徒達を連れて行った。

 職員室では、また三好が机を蹴る。

「三好先生、落ち着いて」

 肩を叩いて諌めようとした木村を三好は睨んだ。

「これが落ち着いていられますか。理事長とはまだ連絡が付かないのですか?」

「……まだです」

 非常時だというのに、理事長は行方不明らしい。

 美緒が眉を寄せた、その時、

「大上姉弟、ここへ」

「はいい!」

 三好がこちらをチラリとも見ずに美緒と優牙を呼んだ。美緒達が三好の側に行く。

「来たか。生徒達の救出ご苦労だった。だが龍と麒麟がまだ捕まったままだ。上空は天狗が捜索している。お前たちは地上だ。急いで生徒達の匂いを辿れ」

 厳しい表情で言われ、美緒が困ったなと頭を掻いた。

「いやぁ、それが……」

「なんだ? 何が不満だ?」

 不満じゃなくて、と口の中で言い、美緒は三好を見上げる。

「臭い、全然分からなくて、辿れないみたいなんです」

 そこで初めて、三好が美緒に視線を向けた。

「……なんだと?」

「ヒィィ! お許しを! 仕方がないじゃないですかぁ!」

 殴られるとでも思ったのか、美緒が頭を両手で庇う。しかし三好は舌打ちをして大きめの指し棒を肩に担いだ。

「行くぞ」

「は、はい」

 美緒を引き連れて職員室から出て行こうとした三好の腕を、木村が掴む。

「三好先生、闇雲に動いても危険なだけです」

 三好が木村の手を振り払い叫んだ。

「どうしてそう冷静なんですか!」

「冷静ではありませんよ。怒りで溢れています」

 三好が木村を睨み、木村がそれを受けとめる。と、その時、冴江が二人の間に割って入った。

「お取込み中申し訳ないんだけど」

「あ?」

「……はい? なんですか?」

 冴江が前足で窓の方を指す。

「飛んでくるよ」

 何が、と皆の視線が一斉に窓に向けられる。その直後、

 ガシャーン!

 と、大きな音がして窓が割れ、大きな黒い塊が床に転がった。

「ヒイイいい!」

「あいたたた……」

 美緒の悲鳴と塊の声が重なった。

 塊は奇妙に蠢いて、

「え……! り、理事長先生!?」

 ぼろぼろの黒いマントを身につけた理事長の姿になり立ち上がった。

「ああ、着地成功」

「全然成功じゃないでしゅ! なんで窓突き破って入ってきてるんですか!」

 美緒が思わずつっこみ、木村が眉間に皺を寄せる。

「暫くぶりですな、理事長」

「木村先生、復帰おめでとう。元気になったようで良かったよ」

 三好が美緒と木村を押しのけて、理事長の前に立った。

「緊急事態だというのに連絡もつかず、いったい今まで何処で何をしていたのですか?」

 返答によっては鉄拳制裁も辞さない、という表情の三好に、理事長は笑った。

「すまなかった。ちょっとニンニク投げられたり十字架掲げられたり、銀の弾丸ぶっ放されたり杭で胸を打たれたりしていたから、ね」

 職員が「え?」と一斉に首を傾げる。

「ひどくやられたよ。ほら、服にも体にも風穴が開いて……」

 そう言いながら理事長はマントで隠れていた身体を見せる。それを見た美緒が、ヒュッと息を吸い叫んだ。

「ぎゃあ! グロイでしゅ! なんでその状態で生きてるんでしゅか!」

 身体に無数の小さな穴が開いて、心臓部分にはそれよりも大きな穴がぽっかり開いている。

「元気な血を補給しておいてよかった。助かったよ、優牙先生」

「え? 優牙?」

 理事長が優牙に視線を向け、優牙が鼻を鳴らして顔を背けた。理事長は笑って、職員を見回す。

「さて、攫われた生徒達の居場所は我が眷属が突き止めたことだし、派手にいこうか。――協力してもらえるんでしょう? 狼さん」

 冴江が小さく尻尾を振って頷く。

「そうね」

 職員達が一斉に動き出す。

「え? え? 蓮君」

 無言で職員室を出た蓮。三好が感触を確かめるように指し棒を振り、木村は新しいマントを理事長に差し出した。そして――、

「銃刀法違反っていう言葉なかったっけ?」

 美緒は周りを見回して呟く。

「さあ、知らないよ」

「知らないね」

「知らないな」

「知らないわね」

「初めて聞く言葉だねぇ」

 美緒は腰を屈めて冴江に顔を近づけた。

「お母様……一番とぼけちゃ駄目でしょ」

 あきらかに所持してはいけないモノを手にしている職員達。いいのかなぁ、と思わず呟く美緒の肩を梶が叩いた。

「軟弱な。男の武器と言えばやはり肉体だ。なあ、大上」

「おおう、梶先生。服着ましょうよ、公然わいせつ罪ですよ。写メ撮っていいですか?」

「大事なところはちゃんと隠しているだろう」

 そんな梶を、「原始的だ」と首を振りながら押しのけて、毒島が美緒に紫色の液体の入ったコップを差し出す。

「プレゼントだよ、大上先生」

「……葡萄ジュース?」

「スライムのながれ君の身体の一部を貰って培養したものだ。とてつもないパワーが手に入るぞ」

「……遠慮します」

「じゃあ仕方ない。梶先生にあげよう」

 飲む飲まないで揉め始めた梶と毒島から、美緒が逃げるように離れる。

「先生、頼んでおいた鞭は出来ていますか?」

「ああ、それなら画霧えむ先生が……」

「防御! 防御!」

 慌ただしく準備する職員達の間を背中を丸めて歩き、ドア付近まで辿り着いたところでちょうど蓮が職員室に帰ってきた。

「美緒、どうしたんだい?」

「ああ蓮君、先生たちのやる気がすご――それって、日本刀?」

 蓮が手に持っているものを見て、美緒が訊く。

「そう。武器庫で見つけたんだ」

「へえ……。ねえ、銃刀法って知ってる?」

 蓮はニッコリと笑った。

「先日廃止されたらしいよ」

「はうっ、言い切った!」

 準備が整ったのを確認し、理事長が手を鳴らす。

「さて、行こうか」

 職員達がぞろぞろと職員室から出て、更に建物から外に出る。

「ものすごく目立つんじゃないの? この集団」

 いくら夜と言っても人目を避けることは難しい。どうやって移動するのか、と美緒が心配していると、

「先生!」

 建物の陰から人外の生徒達が現れた。


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