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第98話

 授業後、美緒たち職員が職員室に集まった。今日は非番だった職員も急遽呼び出されたようだ。

 いったい何があるのか。

 眠い目を擦りながら待っていると、理事長が職員室に入ってきた。

 理事長は職員を見回し、スッと息を吸って話し始める。

「深夜の緊急呼び出しにもかかわらず、集まってくれてありがとう」

 挨拶と同時に一瞬口元に笑みを湛えたが、それはすぐに消えた。

「ではまず、一つ目の報告。人外の転校生を、二体受け入れることになった。十五歳の龍と麒麟だ」

 理事長の言葉を聞いた職員達がざわつく。目を見開き、小さく悲鳴を上げる者までいる。

 美緒はキョロキョロと周りを見た。

「え? なに?」

 美緒には他の職員達が何故動揺しているのか分からなかった。

 理事長、と職員の一人が手を挙げて立ち上がる。

「龍と麒麟を一度に、ですか? しかも同い年ということは、同じクラスで?」

 理事長は頷いた。

「そうだ」

 理事長の答えに、職員達は騒ぎ始めた。

 美緒の側に座っていた三好も腕を組んで唸った。

「うーむ、これはきついな」

 美緒が首を傾げて三好に訊く。

「事情がさっぱり分からないのですが」

 同じように事情が分からない蓮が、美緒の横に椅子を持って来て座り、三好に視線で説明を求める。

 三好は眉を寄せて理事長を見つめたまま、二人に教えた。

「龍や麒麟のような、いわゆる『神獣系』は、人外の中でも特殊なんだ。プライドが高く、チカラも強い。バックに大物崇拝者が居る場合が多いから、扱いも非常に難しい。それが同時に二体とはな。……これは荒れるぞ」

 神獣系の人外が原因で学園がパニックに陥ったことが過去にある、と三好は続けた。

「そんなに厄介なんでしゅか?」

「……そうだな。対応を間違えれば、大変なことになるだろう」

「おおぅ、それはヤバいでしゅ」

 理事長が咳払いを一つする。すると、騒いでいた職員達が一斉に静かになった。

「それから、もう一つ。実はある情報が入ってきていてね。――人外売買組織の動きが活発になってきている」

 先程よりも更に、職員達がざわつく。

 人外を捕獲し、密かに売買する組織がある。人外は高値で取引され、『普通』に飽きた者達の元へと送られる。売られた人外がどういう扱いを受けるのか、奇跡的に『ご主人様』から逃げることに成功した人外は決して口にしない。つまりはそういうことなのだろう。

 だからこそ学園は、そういう組織に生徒達が捕獲されないように細心の注意を払っている。

「生徒の安全を最優先に、学園内だけではなく学園外にも注意するように」

 はい、と緊張した面持ちで職員達は頷く。

「緊急事態に備え、武器庫を解放する。各々自分に合った武器を見つけて持って行くように」

 美緒が「え?」と首を傾げ、理事長から三好に視線を移した。

「……武器庫?」

 この学園には、武器庫などというものがあるのか。初めて知る事実に美緒は驚く。

 三好は唸りながら顎を撫でた。

「武器庫を解放するとは、かなりマズイ状況なのかもしれないな」

 三好が立ち上がる。それと同時に、他の職員達も慌ただしく立ち上がる。理事長はいつの間にか、職員室から姿を消していた。緊急職員会議はこれで終わりらしい。

 歩き出そうとする三好の袖を美緒が掴む。

「何処に行くんですか」

「武器庫だ」

「武器庫って何処にあるんでしゅか?」

 三好は美緒の顔をじっと見つめ、それから頭を撫でた。

「大上には武器は必要ないな」

「なんで私には必要ないんですか!」

 歩き出した三好に、くしゃくしゃにされた髪を手櫛で整えながら美緒が付いて行く。蓮も三好の後に続き、それから少し離れたところに居た愛も合流した。

「ヨシヨシ先生、武器庫にはどんな武器があるんですか?」

「まあ、いろいろだ」

「ちなみにヨシヨシ先生はどんな武器にする予定でしゅか?」

 うーん、と少し考え、三好は頭を掻いた。

「どうするかな。手に馴染んでるって意味ではアレが一番だが……」

「アレって何……? 蓮君は?」

 蓮は苦笑して首を振った。

「まだどんなものがあるか分からないからね。でもまあ、扱いやすいものを選ぶつもりだよ」

「そっか。愛ちゃんは?」

 愛が意味ありげな表情で笑う。

「内緒」

「おおう、絶対ヤバいものでしゅね」

 楽しそう会話する美緒と愛の頭を、三好が指先で突いた。

「冗談言ってる場合じゃないかもしれないぞ。大上と河内も人外なんだから、十分警戒しろ。一人にはならないように」

 真顔で言われ、美緒と愛は笑顔を消して頷いた。

「はい」

 それにしても、と三好は溜息を吐く。

「神獣系人外に、人外売買組織――か」

 よりによって、面倒事が重なってしまった。

 三好が足を速める。他の職員達の足音と真剣な話し声が廊下に響く。どうやら、本当に大変な事態になっているらしい。

 美緒達は気を引き締め、三好に付いて行った。


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