第11話
待ちかねていた昼休み。
美緒はヨロヨロとした足取りで、愛のもとへ行った。
「愛ちゃん・・・、助けて・・・」
涙を浮かべて腕に縋りつく美緒を、愛は振り払った。
「嫌よ。何やらかしたか知らないけれど、私を巻き込まないで」
「そんなこと言わないで・・・」
「ほら、ダーリンが迎えにきたわよ」
「ヒィイッ!!」
悲鳴をあげる美緒の襟首を掴んで、愛が突き飛ばす。それを蓮が受け止めた。
「どこに行くのかな、大上さん?」
「あ、愛ちゃんとお弁当を食べに・・・」
「じゃあ僕もお邪魔させてもらうよ」
美緒の目に涙が溢れた。蓮は一向に離れようとしない。トイレにまで付いてくるのだ。
「二人で食べに行けばいいでしょ。私のことはお気になさらずに」
「酷い・・・愛ちゃん、見捨てないで・・・」
美緒が愛に手を伸ばした時、大きな音を立てて、教室のドアが開いた。
「佐倉蓮は、どこだー!!!」
教室にいた全ての者が驚いて、一斉にドアの方を見る。
「ゆ、優牙っ!」
突然現れた弟に、美緒は驚いて、思わず蓮に縋り付いた。
「・・・姉ちゃん、そいつが佐倉蓮か?」
優牙は美緒のもとまでゆっくりと歩いてくると、美緒の襟首を持って引き離し、蓮の胸ぐらを掴む。
「てめえか!うちの姉ちゃん誑かした野郎は!!」
「姉ちゃん・・・?」
「しらばっくれてんじゃねえよ!二人が付き合ってるって、すげー噂になってんだからな!」
美緒は目を見開いて、優牙の腕を揺すった。
「ゆ、優牙!噂って何!?」
「ああ!?姉ちゃんは、引っ込んでろ!」
優牙は美緒を、愛の方に突き飛ばした。
「てめーみたいな『人間』に、うちの大事な姉ちゃんやるわけにはいかねーんだよ!」
「・・・君、大上さんの弟?」
「だったら何だ!」
蓮は優牙の手を両手で掴んで、怖い程真剣な表情になる。
「君の家、犬が居るよね」
「はあ!?」
優牙は意味が分からず、眉を寄せた。
「茶色の、柴犬位の大きさの、とっても可愛い女の子、居るよね」
「・・・・・・・・」
優牙が振り向いて、美緒を見る。
「ヒィイッ!」
美緒は、嫌がる愛の後ろに隠れた。
「会わせてくれ!知っているんだぞ、あの子が君ん家の飼い犬だって!!」
蓮は強い力で優牙の手首を掴み、揺さ振る。
「・・・ちょっと待て」
「待てない!」
「いいから、ちょっと手を離してくれ」
優牙は蓮の手を無理矢理引き剥がすと、愛の後ろに隠れる美緒の襟首を掴んで引き摺り出した。
「・・・どういうことだ?」
「わ、私は何も知りましぇん」
目を逸らす美緒の顎を掴んで、ギリギリと力を入れる。
「痛い痛い痛いっっ!!」
「俺の目を見て答えろ」
優牙は美緒の額に自分の額を引っ付けて、低い声で問う。
「お前、何をやらかした?」
「あうぅ、優牙、目から殺人光線が出てるよ・・・」
「あいつと付き合っているんじゃないのか?」
「ち・・・、違うでしゅ」
「・・・・・・・・」
優牙は美緒から手を離すと、愛を睨み付けた。
「おい、どうなってるんだコラ」
「知らないわよ」
愛も優牙を睨み付ける。
「一緒のクラスにいるくせに、何でちゃんと監視してないんだ!?」
「私は美緒のお守りじゃないの。勝手なこと言わないで」
二人の間に見えない火花が散った。
「―――――チッ!使えない女だな!」
「何ですって!?」
優牙は美緒の襟首を掴む。
「取り敢えず場所移動するぞ。目立ち過ぎだ。愛、お前も来い」
「命令しないでよ」
そう言いつつも、愛は歩きだす優牙に付いていく。
その後ろを蓮が付いて歩く。
「・・・おい、佐倉蓮」
「なんだい?」
優牙は振り向いて、蓮を睨み付けた。
「何でお前が付いてくる?」
「場所を移動するんだろう?」
「お前は付いて来るな!」
「何でだい!?僕はあの子に会わせてくれるまで、離れないよ!!」
「とにかく、付いて来るな!」
「そうやって、僕とあの子を引き離すつもりか!」
「意味、分かんねえよ!」
優牙が美緒の襟首を掴んでいる手を振り回した。
「く、苦しい!優牙、苦しい!!」
「いいか、佐倉蓮!」
優牙は人差し指を蓮に突き付ける。
「今から俺達は、この馬鹿と大事な話があるんだよ。邪魔するな!」
「嫌だ」
「何だと、この野郎!」
睨み合う優牙と蓮。
「・・・喉笛咬み切ってやろうか」
優牙は小さく呟くと、美緒を引き摺るようにして、歩きだす。
その後ろを愛が続き、更にその後ろを蓮が付いて、四人は興味津々の生徒達に見送られ、教室を出て行った。