第92話 (青年よ奮い立て編 終了)
「先生、最近なんかいいことあった?」
声を掛けられた美緒が笑顔で振り向き、屈んで生徒達と視線を合わせる。
「あれ? 分かる?」
「分かるよ! だって先生すっごく楽しそう! ねえ、何があったの?」
興味津々の生徒達に美緒はフフンと自慢げに鼻を鳴らし、腰に手を当てて胸を反らした。
「先生は、大人の階段を一歩上ったのです!」
生徒達が首を傾げる。
「なにそれー?」
「先生分かんないー!」
「さ、もうすぐ授業が始まるから国語の教科書出して」
「えー!」
口を尖らす生徒達の頭を撫で、美緒は背筋を伸ばした。
「今日は漢字の成り立ちについてやりますよ。席について」
はーい、と渋々ながらも自分の席に戻っていく生徒達。と、その時、少し離れた場所で生徒と美緒の会話を聞いていた愛が、美緒に近づき声を掛けた。
「先生らしいじゃない」
「先生ですから」
愛が美緒の背中を軽く叩く。
「良かったわね」
「愛ちゃんもね」
美緒も負けじと愛の尻を叩いた時、三好が教室に入ってきて、授業が始まった。
◇◇◇◇
授業が終わり、生徒達を見送った美緒が、教科書片手に校舎へと戻っていく。軽い足取りで廊下を歩いていると、別の教室で実習を行っていた蓮とばったり会った。
「美緒、帰らないのかい?」
蓮の問いかけに、美緒が頷く。
「明日の授業の資料を揃えようかなぁと」
蓮が片眉を上げた。
「ふーん、手伝おうか?」
美緒は蓮を見上げ、微笑む。
「うん。ありがとう、佐倉先生」
一瞬目を見開き、蓮が美緒の肩に手を置いた。
「どういたしまして、大上先生」
蓮が美緒の腕の中の教科書を持つ。
二人はクスリと笑うと、一緒に資料室まで行った。