席替え
夢から覚めることなく、カナタは小学生の頃に登校していた星ヶ丘小学校に到着する。この時のカナタは5年2組で、教室は3階にある。
(うわぁ、学校だ)
カナタは2組の教室に入り、懐かしい風景に少しだけ胸が躍る。綺麗に並べられた机がカナタを迎えてくれ、沢山のクラスメイトが彼の方を向く。
(……懐かしいな。昔のまんまだ)
ちょうどその日は机の席替えをしたばかりで、クラスメイトはソワソワしている。クラスの担任である金澤先生が男女のペアができるように席を組み合わせ、黒板に書いておく。それに準じ、生徒はその席に着くというシステムだ。
(……席替えか。俺は一番後ろの端っこだな)
カナタは黒板に記された名前を眺める。懐かしい感覚だった。女子と席をくっつけて座るなど、中学校以来無かったのだ。
「えっ……」
その時、カナタは黒板に記されたことに驚く。それは、自分の隣にいる人間の名前を見ての事だ。カナタは自分の席を見て、ゴクリと息を飲んだ。
(……瀬良!)
――隣席の女子の名は、瀬良! 未来で自殺してしまうあの瀬良だ!
(隣の席になったことがあったなんて……全然覚えてないぞ! いや、あったかもしれないな)
カナタは確かに過去にあったことを思い出した。カナタは一度だけだが、瀬良の隣の席になったことがあったのだ! しかし、彼は瀬良と流暢に話せるようなコミュニケーション能力はなかったために全く会話することはなかった。
(とりあえず、話しかけるしかない! 何せ、ここは夢なんだから!)
カナタは唾を飲み、ゴクリと喉を鳴らす。短髪で、小さな花のついた髪留め――。まつ毛が長くて頬が微かに桃色だ。どう考えても小学校の中で一番美人で、上学年ですら瀬良のことを知っているほど。そんな子が、カナタの隣にいるのである。
「やぁ。よろしく」
カナタは平然を装い、瀬良に話しかける。彼は高校生になり、ある程度のコミュニケーション能力は得ている。『女子だから話せない』と言う事はなくなっていた。
「うん。よろしく」
瀬良は驚いている様子だ。この頃の小学校では、男子と女子がフランクに話すことは珍しい。思春期が始まりだすこの頃は、男女が仲良く話す光景はなかなかレアなモノなのだ。
「可愛い髪飾りだね」
「えっ……ありがと」
カナタは突然、瀬良に向けてそう言った。対する瀬良は顔を赤らめ、そっぽを向いた。――なぜそんなキザなことを言えるのか。それは、カナタがまだこれを『夢』だというメンタルで居るからである。
(素直に反応する子だな。当時の頃の俺なら、絶対にこんなキザなことは言わないなきっと)
カナタは恥ずかしがってこちらを向いてくれなくなった瀬良を隣に、黒いランドセルをパカリと開けるのだった。
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