自殺
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瀬良が自殺をしたというのはつまり、彼女の周りの環境が悪かったのだとカナタは考えた。瀬良が死に追い込まれるようなことになったのは、間違いなく周りの人間の思想や体裁に納得ができてなかったからだ。彼女は少なくとも孤独ではなかったはずだ、と。
「――俺が瀬良さんと友達だったら、何か変えられたのだろうか?」
二三時。カナタはベッドの上で一人、そんなことを呟いた。高校三年生の夏。この時期は勉強が大事だというのに彼の体はもう動かない。耐えがたい眠気に襲われているのだ。
カナタは瀬良について全く知らないが、遺影の表情から楽しそうな感じはしなかった。常日頃から悩みを抱き続けていたのだろうかと、カナタは目を瞑って考えた。
虐められていた彼ですら、自殺はしなかった。人間には等しくチャンスや楽しみがあるとカナタは思っている。だから、いつの日か誰もが幸せになれることを願って今日も眠るのである。
「瀬良さん――。なんで自殺したんだ?」
◆
「にぃ! 起きろ!」
妹の久遠の声が、カナタの鼓膜を震わせる。
「にぃ! にぃにぃ!」
(――にぃにぃ?)
随分とロリっ気の強い呼び方をするな、とカナタはゆっくりと目蓋というシャッターを開く。カナタのことをにぃにぃって呼んでたのは小学生の頃だ。
「にぃにぃ! おきろぉー!」
「おぶっ!」
突然、クオンがカナタの胸にダイブ! カナタはイラついてクオンの顔を掴む! しかし、何か様子がおかしいとカナタは妹の顔をマジマジと見つめる。
(随分とクオンが小さい……と言うか、俺の手が小さい!)
「にぃにぃ! やっと起きた!」
「……あ、どう言うことだクオン? これは夢か?」
「夢じゃないよ! ほら早く起きて! ママが怒ってるよ!」
クオンはそう言い、カナタの部屋からちててと出て行った。
(間違いない、クオンは小学生くらいになってる。そして、俺の体も小さくなっている)
「夢か?」
カナタはそう呟き、状況把握のためにベッドから飛び出した。
◆
少なくとも、カナタは元素記号を全て覚えている。漢字検定準一級並みの熟知、ある程度の数式の暗算、アメリカでも生きていけるレベルの英語力も軒並みだ。
カナタは小さくなった身体で凡ゆる思考を巡らせ、この事案に対する解答を見出そうとする。しかしながら、事態は幻想レベルのもので、東大に挑むレベルのその脳ですらサジを投げた。解読不能、常理から逸脱していると悟ったのだ。
「にぃにぃ! 早く学校に行こうよ!」
「あ、あぁ。クオン、お前は今何年生だったっけ?」
「ピカピカの、3年生!」
「ほぉ、そうか」
「どうしたの? なんか喋り方が変だよ? 『拙者』とか『イモウト殿』って言わないの?」
「えっ……あぁ。すまんクオン」
カナタは妹のクオンの発言を聞いて恥ずかしくなって顔を赤らめた。
(そうか、この時期はゴリゴリのヲタク! クオンをイモウト殿って呼んでたとか……黒歴史もいいところだ!)
高校1年生だったはずのカナタの妹のクオンが、今は小学3年生。つまるところ、カナタは今小学5年生と言うことになる。
「結構リアルな夢だな。過去の風景をそのまま見るだなんて」
カナタは呟きながら自室から荷物を取り出す。懐かしい間取りだ、とカナタは部屋を見渡す。この頃は彼がヲタクになり始めていた時期で、周りには二次元の女の子のキャラのポスターを沢山貼っている。高校生のカナタはそれらを全部ビリビリにして捨てたというのに、過去に来てその覚悟は無意味にされてしまった。
(なんて夢だ! ヲタク魂が戻ってしまう前に、早くこの夢から目覚めなければ!)
カナタは可愛いショタッ手で、二次元の少女の際どいポスターを剥がし取り、ビリリと破いた。
「ほら、早くにぃにぃー!」
「分かった分かった! 行くって!」
カナタは急かすクオンの声に反応して大声を張り上げた。
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