第98話 さらばだポンコツ王子
「な、何を言っているのだお前は……?」
王子がさすがに目を白黒させている、いや、王子だけじゃなくその場にいた全員だ。
こんな重大な場面は平民の私たちじゃ絶対に拝めないよ。
「私を廃すなど、お前の一存でできるわがなかろう?」
「確かにそうですね。私としましては、兄上に王位を諦めて頂ければそれでいいのです。兄上ご自身も理解しているはず、自身が最近とんでもなくポンコツ化している事に。ポンコツが国のトップになったら国自体がポンコツになってしまう、国の為、国民の為、お引きください」
周りの人たちがうんうんと頷いている。
相当思う所があるのだろう、王子の側近らしい人までうんうんだ。ついでに私もフィギュアちゃんもうんうんだ。
王子までうんうんと頷いて、はっとなってる。
「わ、私はポンコツ化などしていない!」
叫んだ瞬間に王子の腰のベルトが切れてズボンがずり落ちた。
幻覚ちゃんが顔を覆った指の間から見てるよ。
「こ、これはたまたまだ、たまたまベルトが切れただけだ」
「たまたまとタマタマをかけたわけですね」
こらこら幻覚ちゃんの前ですよお姫ちゃん。
家庭教師のなんとか先生がいたら、顔を真っ赤にしてブチ切れてそうな発言ですよ。
幻覚ちゃんがめちゃくちゃうけてる! だめだって幻覚ちゃん、乙女がそんなので笑っちゃ、くそ、面白いな。
「こんな事を父上、いや陛下がお許しにならないだろう」
「あらあら、陛下が兄上を見限りつつあるのをご存知無いのですか? 兄上は最近やらかしてしまったのでしょう? 国家の存亡に関わるような、とんでもないやらかしを」
「う、そ、それは」
何で王子はこっちをチラチラ見たの?
「兄上はそのやらかしを誤魔化す為に、王都から逃亡中だったのでしょう? 陛下に問い詰められたら、兄上の事だからうっかり白状してしまいますからね」
「くっ」
だから王子は何故に私を見るのか。
「兄上のやらかしはもう陛下にバレているのですよ、そうなれば次期王座は私にというのは自然な流れではないですか。そして今の私は味方も付いてくれて怖いもの無し、そうなればもうこの国を守れるのは私しかいないでしょう」
「お、お前がリンナファナ嬢を味方に付けたというのか!」
「兄上も愛するリンナファナ様が相手では手も足も出ないでしょう」
何言ってるのかなこの子。
「リンナファナ嬢! 本当に私よりもルーアミルを選ぶのですか!」
王子の問いにコクンと頷く。
当たり前だよね、可愛い女の子と王子を天秤にかけたら女の子に傾くのは自然の摂理よね。百人いたら百二十人は王子より女の子だよ。
それに女の子云々は置いておいても、王子に付いたら私土の中じゃん!
「リ、リンナファナ嬢、考え直して頂けませんか、どうか私のもの(妻)になって下さい」
「私はあなたのもの(サンドバッグ)にはなる気はありません」
当たり前だろ、誰が好き好んで土の中に埋まりたいんだよ。
前も思ったけど、私はこれからも美味しい物を食べて楽しく冒険して、将来は素敵な旦那様を見つけたいのだ。できれば金持ちと、もっとできれば一国の王子様なんかが最高だ。
地面の下でモグラと家族になっている場合では無いのである。
「に、二度目の拒絶……こ、これは堪える」
ふらふらになった王子。どれだけ私を埋めたかったのよこの人、怖すぎでしょ。
「わかった、リンナファナ嬢に敵に回られては私に、いや私が治める国に未来はない。私がやらかしたのは事実だ、王座なぞお前にくれてやろう」
「わかって頂けましたか」
「うむ、妹よ。王座なんてこの際めんどくさい事この上ないからな。実は幼少の頃よりめんどくさいなと思っていたのだ」
おいこら王子、いくらなんでも正直に言いすぎだろ。
「だが、例え王座は諦めても私は諦めんぞ、リンナファナ嬢は必ず振り向かせて見せる! 私はもう、リンナファナ嬢しか眼中にないのだ!」
諦めてくれよ――! 王座と私を埋める事の比重がおかしいでしょ!
「ではまたお会いしましょうリンナファナ嬢、いつかやって来る私たちの輝かしい未来を信じて、私は一旦引きましょう」
「お、おう」
王子がおかしな一言を残して部屋から退出した。
去っていく王子の背中は――
特に何も感じなかった。
ガックリきてるのか、肩の荷が下りたのか、私に執着してこれからも頑張ろうと張り切っているのか、王子に興味無いから何にもわからない。
ただ言えるのは、王子がポンコツでもまだ話が通じるだけましな相手だという事だ。
こんな事で王座を巡って血で血を争う血みどろの内戦なんかに突入していたら、本当に国は終わっていたのだろうから。
王子が王座を完全に諦める程の、自身のやらかしとやらの存在がそれだけ大きかったのだろう。
一体王子は何をやらかしてしまったんだ?
お姫ちゃんを見つめると、王女もその首を傾げた。
「ところで兄上がやらかした事って何でしょうね?」
知らないのかよ! 私も知らないわよ!
すげー、内容を知らないのにそれを切り札として使って、キッチリ勝利したよこのお姫様。
「これで良かったのですか? 王座に就くのは本意だったのですか?」
お姫ちゃんに聞いてみた。王子じゃなくても王座ってめちゃくちゃめんどくさそうなんだもん。
この姫様は以前会った時は、何にもやる気がなさそうな感じだったもんなあ。今も飄々としてよくわからない子だけど。
「私は以前は諦めていたのです。この国の行く末、私の未来。兄上が王座に就くと思っていたし、政略結婚でも侵略されてもろくな未来が待っていない。でも先日のアルメーレル様のクーデターを見て決意したのです」
「え? 私ですか?」
突然名前を出されて、金髪縦ロールちゃんがポカンとした。
王家のとんでもない重要なシーンを見せられて固まっていた所で、突然現実に引き戻されたのだ。
「国がポンコツ化するのを憂えるくらいなら、自らの未来を諦めるくらいなら、国と自分の為に自身が動けばいいのだと。あなたには感謝の言葉しかありません」
「私は全部引っ被ろうと……いえ、なんだか私はとんでもないビンの蓋を開けてしまった気がします」
もの凄い炭酸ビンだったよね。
「それにあのままだと、兄上ご自身も破滅の未来しか見えなくて怖く感じていました」
なんだかんだ言いながら、兄を慕う妹というのは嘘じゃないんだね、お姫ちゃん。
「兄上には愛する女性とのんびりと暮らして行って欲しいのです。私の将来のお姉さまとなる方と、ですね」
うんうんなるほど、どうして私を見たのかな?
「まあ今すぐに王座に就くわけではありませんしね。父上も健在で、私もまだ若干十五の身の上ですし色々と準備を経て、十年後くらいでしょうか」
うん、このお姫様ならいい国王になってくれそうな気がするよ。
このまま国のポンコツ化も終われば、これでめでたしめでたしだ。
そう、めでたしめでたし。
だがめでたしとはならなかった。兵士の一人が飛び込んできて、こう叫んだのだ。
「報告します! 昨日、隣国のダスキアルテ王国軍が我が国との国境線を越境! 我が国と隣国は交戦状態に入りました!」
次回 「隣国軍には光姫がいるらしい、どうすんのこれ」
リン、怒られてしょんぼり
次回から隣国と光姫編
明日は一回お休みします
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