第85話 地下ワールドでの死闘
穴に落ちた私は思いっきりお尻を打った。
私のお尻から脳天に強烈な電撃が走ったのだ。
思わず私は発電できるようになったのかと、勘違いしてしまったじゃないか。
大慌てで自分のお尻に初等治癒魔法をかける。
乙女がお尻を押さえて身もだえる姿は、とても他人に見せられるものじゃない。しかし誰にも見られていないから幸いである。
「私が見てるんだけどリン」
しまった、まさかこんな所に目撃者がいたとは。
フィギュアちゃんは私の胸元に常駐しているのだ、正に灯台下暗しである。
どうやってフィギュアちゃんの記憶を消し飛ばそうか。
いやいや、フィギュアちゃんは秘密を守れるとても良い子なので大丈夫なのだ。
「ねえフィギュアちゃん。フィギュアちゃんは何も見てないよね、私がお尻を押さえてたとこなんて見てないよね」
「うん、見てないよリン。リンが鼻水を盛大に噴き出してる所しか見てないよ」
しまった、乙女として違う汚点を見られてた。乙女は鼻からお花くらいしか出してはいけないのだ。
「鼻水もだけど、頭から電撃も出てたよね。発電できるようになったの?」
可視状態な程、強烈な痛みが出ていたか。どうりで一瞬記憶が飛んだと思ったわ。
ほ、他には見られてないよな?
と思ったら目の前にくそでっかいモグラがいた。
なんてこった! モンスターに目撃されたわね!
こいつの口封じをするべきか、でもどうせ『モグ』しか言わないだろうし真実は闇の中かな。見られたのがモンスターだけで良かったわ。九死に一生を得た感じね。
「あ、リンも加勢しに来てくれたんだね、ありがとう」
「こいつなかなか強いモンスターで手こずってたブヒ」
モンスター以外にも見られてた!
いや待て、ここでモンスターと戦っていたらしい彼らは、お尻を押さえてもんどりうつ私の秘密の姿は目撃していないに違いない。やれやれ驚かせてくれるわね。
「お尻は大丈夫だった?」
「お尻痛かったブヒか?」
しっかり目撃してんじゃねーわよ!
よそ見しないで前見て戦え! 事故の元だよ!
「い、いつの間にここに来てたの、さっきまで私の後ろにいたよね? メガネ君もいたし」
「ずっとここで戦ってたブヒけど?」
「ごめんリン、僕たちはリンの後ろにはいなかったんだ」
いつの間にか後ろにいた、の逆バージョンをかましてきた!
次から次へと新技を披露してくるわね、このモブニンジャたちは!
私が地上でおかしな物語を進行していた下で、こっそり別の物語が行われていたとは思わなかったよ。
「つまりこのモグラのモンスターが、お芋泥棒の真犯人という事でいいのかな」
「間違いないブヒ、前足の爪の間にお芋が挟まってるブヒ」
こいつも証拠隠滅できないタイプだったか。
「あんたがお芋を盗んでたのね?」
『モグ』
うむ、わからん。
私を見て眩しっ! って顔したぞこのモグラ。
「なんだこの眩しい姉ちゃんは、こりゃたまらんモグ。マイホームから出て行ってもらえないか、ふざけんなモグ。サングラス、サングラスはどこだと言ってますね」(メガネくいっ)
モグしか言ってないよねこのモグラ。
それに何故メガネ君がここにいるのよ、さっきまで地上で私の後ろにいたよね?
「地上世界からこの地下ワールドに召喚されたのですよ、メガネ師も忙しいのです」
メガネ師はこの際置いといて、つまりメガネ君も穴から落ちたというわけか。
「実はリンさんと一緒に落ちて、お尻を押さえてのたうち回っていたのですよ。あまりにも痛くて、メガネから電撃が出ました」
全然気が付かなかったわね!
「その時の様子を書き留めておきました」(メガネくいっ)
痛くてのたうち回っていた割には、ノートを書く余裕があったんだ。
見せてくれたメガネ君のノートには、倒れている私とメガネ君の図が描かれていた。
「そんな記録残さなくていいから! それにどうして私は骨格だけなのよ!」
まあいいか、骨格図なら誰かわからないしね。
「おーい」
二メートル上の穴からは幻覚ちゃんがこちらを覗いてるよ、随分近いわね地上世界と地下世界は。
「お尻大丈夫だった? リンお姉さん」
「やったブヒ! 遂に仕留めたブヒ!」
ん? 私が色々と涙目になっている間に戦いは終了していたみたいだ。
「強いモンスターだったけど、リンが来てくれたお陰で一気に形勢が逆転したよ!」
「さすが姫だブヒ!」
私、お尻コントをやっていただけなんですけど。
モグラが勝手に私を眩しがって自滅しただけなんだよね。
目も眩む美少女って事でいいのかな? さすが私、地下世界で無双できるかも。
倒したモグラモンスターは村人たちの協力を得て、地下世界から無事引き上げられた。
向こうでお爺さんと孫がぎっくり腰コントをしているけど、私の安全の為にスルーである。
「モグラきたー! 凄い凄い! こんな大きなモグラ初めて見たよ!」
幻覚ちゃんの喜びが凄い。
これただのモグラじゃなくてモンスターだもの、そりゃでかいよ。
「わしらもこんなに大きなモンスターなんか初めて見た」
「こんなのが地面の下にいたなんて、あな恐ろしや」
村人たちも感心しきりだけど、あなたたち、モグラどころかそこに巨大なドラゴンがいるんですけど?
私が穴に落ちてからちょっとモブ化してしまったけど、デカブツモンスターならそこにいるっての。
「あらあらこれは猫ですよ」
猫じゃねーよ!
何を言ってるのこの子って顔で見つめないで欲しいんだけど。
そんなお姫ちゃんと私たちは村長さんの家に上がらせてもらう事になった。一仕事終えたので朝ごはんなのだ。
「わはは、わしの屋敷の床が抜けたわい。愉快愉快」
笑ってる場合じゃねーわよ!
お姫ちゃんに言ってドラゴンには帰ってもらった。その巨体でどうして家に上がろうと思ったのか、軽く説教である。
「私はもう大丈夫だからお前はお帰り。ごめんなさいね、この収納小屋はお前には小さすぎたわね。これでは私の寝間着だって入りはしないもの」
おいこら王侯貴族。いくらなんでも村長さんに謝っとけよ。
「わはは、わしの家の庭に巨大な穴が開いたわい。愉快愉快」
笑ってる場合じゃねーわよ!
迷惑だからもっと離れた場所に穴を掘りなさいよ! 私が落ちたじゃない!
ぷんすか怒る私を地上世界に戻すと、ドラゴンは私にお芋をくれて去って行った。
オヤツをくれたから許そう、私は心が広いのだ。咥えられた時は食べられるかと涙目になったけど。
次回 「王女がとんでもない依頼をぶち込んできた」
リン、王女から事情を聞く




