第83話 勇者パーティーが勝負を挑んできた
意気揚々と入ってくる村長さんの後ろから、ぞろぞろと見知った顔が三人。
「どうも、俺たち勇者パーティーが来たからには大船に乗ったつも……」
三人同時に私の顔をじっと見つめている。
改めて美少女ぶりに驚いているのかしら。
「大船じゃなくて泥舟にした方が良くない?」
「「「リン!」」」
三人がすぐさま出入り口を固める。
何それ、私を逃がさないって意思表示かな?
「見つけたぞリン! ――」
「見つけたぞ勇者パーティー!」
「――今日こそはパーティーに戻ってもらうからな! え?」
私が勇者パーティーがやって来るのがわかってて、それでもここで悠然と座ってお茶を飲んでいた理由がわかるかな。正座してて足が痺れたからじゃないんだよ、痺れてるのは事実だけど。もちろん立てないのは言うまでもないけど。
勇者パーティーを指差して叫んだ、その十歳の女の子の顔を忘れたとは言わせないわよ。
「アレンタ君たちは私なんかよりもまず、反省して謝らないといけない人たちがいるんじゃないのかしらね」
「う……」
ジト目で見つめる幻覚ちゃん母娘にさすがに気が付いたようだ。普通の人はこうやって気づかれる、モブとの最大の違いである。
「し、仕方ねえだろ、大人数の盗賊相手に殺されなかっただけましだろ」
「ちゃんと反省して謝らないといけないんじゃないかしらね」
「う……」
私もジト目になった、ついでにフィギュアちゃんもである。
女性四人からのジト目は、どんどんアレンタ君たちのヒットポイントを削って行くだろう。
あ、お婆さんもジト目になってくれた。状況はわからないまでも、女性同士の助け合いに加勢してくれたのだ。
どうだこれで女性五人のジト目だ、これはキツくて謝らないとって泣きたくなったでしょう?
「うらやましい……ブヒ」
なんだかおかしな呟きが聞こえた気がするけど、空耳かな?
「まあまあ過去は過去、謝っていただかなくてもいいんですよ。代わりに今度、私共の宿屋でちょっとお酒なんかを召し上がってくださいな、サービスしますから」
「そうそう、ちょっとペロニャンしてくれればいいからね。楽しいペロニャンゆかいなペロニャン。ペロペロニャン」
「ペ、ぺろぺろぺろにゃん」
おお、早速地獄の高級酒ボトルキープ作戦が始まっている。幻覚ちゃんの呪文攻撃にアレンタ君も『ペロニャン』され始めたぞ、なかなかできる子ね!
「じゃ、私の事は諦めて大人しくペロニャンという事でいいわよね。お疲れさまでした、お帰りはあちらです」
「よくねーよ! リン、お前には戻って来てもらうからな!」
チ! まだペロニャン完成度は百パーセントに達していなかったか!
もう大人しく帰りなよ、ポンコツ勇者にはもうこの世界で出番無さそうだよ。死んじゃうよ。
「私の事はもう見逃してよ、新しいパーティーで静かにこっそり生きていこうとしてるんだからさ。アレンタ君たちはもう冒険者辞めて芸人さんやった方がいいよ」
「誰が芸人だよ!」
「よしわかった。じゃあ俺たちとそのモブパーティーで勝負をしよう。モグラのモンスターだったか、そいつを退治した方が勝ちだ。俺たちが勝ったらリンは大人しく俺たちのものになれ。俺たちが負けたらいくらでもペロニャンしてやるよ」
どうしてそうなった!
あーもう! 〝隣国との戦争〟〝もう一人の光姫〟〝消えた王女殿下〟〝カリマナの仇のクソ貴族〟〝モグラのモンスター〟〝めんどくさいお爺さん〟〝ハンバーグステーキ〟と、色々と重要案件が目白押しなのに、ここでそんなどうでもいいつまらないイベントを持って来ないで貰えるかな!
「だ、大丈夫かなカスキース、最近僕たち不運続きだけど。ペロニャンする事になったらどうすんのさ」
「はん、相手はモブパーティーだぜ? いくらなんでもカスザコパーティーに負けるわけがねえわ」
「あはは、それもそうか、ペロニャンしなくてよさそう」
私の事を馬鹿にするのはいいよ。でも私の大切なパーティーを馬鹿にするのだけは許せない。
「わかった、その勝負受けてあげるわ、その代わりあなたたちが負けたら盛大にペロニャンしてもらうからね」
「リ、リン。きみを賭けの対象にするなんて」
ごめんモブ男くん、でもこの勝負は勝てる気しかしないよ。
モグラ獲りなんて地味な仕事が、勇者にできるわけがない。モグラなんて私たちみたいなモブのお仕事だよ。
「それ、ドヤ顔で言うような事なのかなあ」
「ようしそれでいいだろう。負けて俺たちがペロニャン? はは、ありえねえ」
「フフ、僕たちがペロニャンとかないわー」
「俺の辞書にペロニャンは無い」
見てなさいよポンコツパーティー共。
この戦いはモブパーティー VS ポンコツパーティーの史上稀に見る大決戦……小競り合いになるかもしれないわね……
「ところでペロニャンて何だ?」
「あら、ペロニャンも知らないの? 勇者パーティーともあろうものが残念ですわね、お可愛いこと」
私も知らないけどね、ペロニャンて何だよ。
お酒なんてあんまり知らないし、中身が売れるか、売れないかの価値くらいだよね、確か。
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村長さんの家に一晩お世話になった次の日は、朝からモグラ退治である。
張り切った幻覚ちゃんに朝の四時に叩き起こされたのだ。ね、眠い……気合入りすぎだよ幻覚ちゃん。
「リン! こんな朝早くから抜け駆けしようったってそうはいかないよ!」
「正々堂々と勝負しろ!」
めんどくさい事に、勇者パーティーも起きてきたようだ。
モグラ獲りに抜け駆けとか、もう意味がわからない。
「リンお姉さん、何なのあの人たち。神聖なるモグラ収穫祭に勝負だなんだと、昨夜からわけがわからないんだけど」
「そ、そうね」
可愛い女の子にジト目で見られるなんて、勇者ずるい。
「全くだブヒ」
なんだかおかしな同意が聞こえた気がするけど、空耳かな?
そんな勇者パーティーは早速地面に開いた大きな穴を発見したようである。発見というより、アレンタ君が落ちたんだけど。
「はははは! モグラの巣を発見したぞ! これで勝負は俺たちの勝ちだな!」
そう宣言して穴に飛び込んでいく勇者パーティーは、数秒後に『出たあああああああ』と叫んで転がり出てきて、そのまま転がりながら撤退していった。
お早いお帰りお疲れ様です。
アレンタ君たちには、もう既に勝負イベントですらまともに遂行できる力が残されていなかったのだ。
「結局あの人たちは何しに出てきたの?」
「転がる為じゃないかな」
「皆さま、ペロニャンよろしくお願いしますねー」
村の出口で幻覚ちゃん母に念を押されてるよ。
勇者パーティーとの勝負に勝った。
まさかモグラ獲り勝負で、モグラを一匹も捕まえないうちに勝利するとは思わなかった。
そして私たちの目の前の地面には、大きな穴がぽっかりと口を開いている。
勇者たちが転がって行った事といい、穴の大きさといい、これ絶対モグラじゃないよね。
今のアレンタ君たちならモグラでも転がるんじゃないかと言われれば、否定できないのが悲しい限りだ。
「さて、無事イベントも終了したし、朝ごはんにしましょうか」
「そうだねリンお姉さん! じゃあ、あそこに朝ごはんを取りに行こう!」
ひいい! 幻覚ちゃんが満面の笑みで地面の穴を指さしてる!
「さあ出てこい朝ごはん!」
だ、ダメだって幻覚ちゃん、挑発禁止!
大体、お前は朝ごはんと言われて出てくるアホなんていないわよ。
うわー出たー!
何で出てくるのよ! 帰れ!
おろおろする私の前に現れたそれは、案の定モグラなどではない。
そいつは――
やっぱり土ドラゴンじゃねーのよ!
次回 「土の中から二体出てきた」
リン、フィギュアちゃんにつっこまれる




