第80話 とんでもない情報を仕入れた
馬車はのんびりとトファンガの町に進んでいた。
今回の旅は、トファンガの町への幻覚ちゃん親子の護衛という形になっている。
またギルドを通さず依頼を受けちゃったけど、食べ物をご馳走になる程度なら受付のお姉さんも怒らないよね。
何しろ奢られる食べ物がハンバーグステーキという話になれば、受付のお姉さんも満面の笑みになるはずだ。人類は皆そういう風にできているのである。
受付のお姉さんを怒らせて、パーティーのみんなで膝小僧を抱えながら空の雲を数える仕事だけは回避したいものだ。
そんなプロフェッショナルにはなりたくない。
「大丈夫ですよ、一度アルバイトで数えましたけど、こつさえ掴めば空の雲のカウントは簡単なのです」(メガネくいっ)
誰に需要があるアルバイトなのよそれ!
まさか仕事が無くて膝小僧を抱えて空を眺めてた知り合いのパーティーって、あなたたちの事じゃないでしょうね。
「ち、違うよリン、ちゃんとした依頼でやったんだよ」
「大きく繋がってる雲は、一つに数えてしまうんだブヒ」
疑惑の目をモブ太君たちに向けてしまう。
私が入るまでの数年間、最低ランクのEランクパーティーだっただけはあるわね……
気を取り直して道すがら、幻覚ちゃんのお母さんから宿で集めたという噂話を仕入れた。雲の話よりはよほど有益である。
あちこちからお客さんがやってくる宿屋という職業は、とかく色んな情報が集まるらしいのだ。
隣の宿屋のご主人が、浮気がばれて宿の二階から逆さ吊りにされたらしい。魚屋さんのご主人も、浮気がばれて店の二階から逆さ吊りにされたとか。
二人とも奥さんに泣いて謝ったから許したそうだ。
その他にも、肉屋のご主人にメガネ屋のご主人、服屋のご主人にネギ屋のご主人が悪事を働いたようである。
おいこらおっさんたち、お前ら浮気しすぎだろ。ネギ屋って何よ?
ふむふむ、恐ろしいけど違う意味でも恐ろしくどうでもいい情報だったわ。
どこの奥さん同士の井戸端会議情報なのよ、宿屋があんまり関係ないよね。
「ああそう言えば、王女殿下が突然行方不明になったそうです。王女様の部隊が血眼になって探しているようです」
さっきまで浮気のおっさんの情報だったのに、次元を超えたとんでもない情報が出て来たよ!
「ごめんなさいねえ、私は町のおばちゃんなので政治経済の話には疎いんですよ、おほほほ」
おい町のおばちゃんに謝れ。
王女失踪なんてとんでもないスキャンダルじゃないの、浮気よりそっちに食いつけよ!
王女殿下には一回しか会った事が無いからどんな顔かも思い出せないけど、一国の王女が消えたってそれやばくない? この国のポンコツ化とやらが影響しているのだろうか。
「王女殿下ってお姫様じゃないですか、何故またそんな事態に」
「この地方に訪れている時に行方知れずになったらしくて、滅多な事は言えないけど政変がらみのごたごたに巻き込まれたんじゃないかという話です。最近この国の状況はおかしいですからね」
一度に色んな事が起きないでもらえるだろうか。
王侯貴族のいざこざに巻き込まれるのは毎回平民なんだから、こういうのは他人事にもできないんだよね。
「巻き込まれないように大人しくしていよう」
「敢えてフラグを立てるスタイルだね、リン」
ち、違うよフィギュアちゃん。今のはナシだから。
ここは何もかも忘れてお昼ご飯にしよう。
さてお昼ご飯だけど、食材は当然! ……モグラである。
幻覚ちゃんに目をキラキラさせて期待されたら、モグラを獲ってくるしかないじゃないのよ。
モブ太君が獲って来たモグラにみんなで噛り付く。
モブ太君はすっかりモグラ獲りの名人になってしまったようで、いつの間にかモグラを獲ってくるのだ。
「モグラ美味しい~」
幻覚ちゃんが感動にうち震えているからまあいいんだけどね。
これでますますモグラ絆が強固なものになったね。
「これでますますモグラ絆が強固なものになったね」
私が思った事と全く同じ事を幻覚ちゃんが被せてきた。なるほどこれがモグラ絆というやつか。
モグラ絆で結ばれた私たち一行に、太陽がそろそろ夕刻を告げてきた。
今日はこの辺りで野宿だろうか、晩ご飯もモブラなんだろうなあ。もうモピラ味に飽きたなあ、たまにはウサギ味もいいのになあ。
「リン、いろいろ言い方を変えてもモグラはモグラだよ」
「ちょっと行ったこの先に村があるよ、そこで今夜は休ませて貰おう」
出ましたモブ男君の村発見スキルだ。こういう時に役に立つスキルってやっぱり素晴らしい。
「いや地図に載ってたのを見ただけなんだけどね。そっちの方が早いし」
私の感心を速やかに返してもらおう。
しばらく進むと本当に村が見えてきた。地図を作った人にご苦労様と言いたい。
今まで通ってきた町の小さい版の村と違って、ここは農村という言葉がしっくりくる。
広い畑と点在する数軒の家、のんびり歩く牛と人と猫。棒の先にうんこを突き刺して走る子供。どこにでもある村の風景だ。
森からは離れたので、モンスターもよほど暇じゃないと現れないのだろう。
もうそろそろ晩ご飯の仕度に入るのかな、見える人々は家路についているみたいだ。もうすぐ空は夕焼けになっていくだろう。
近くの大きな家から人が出てきた。老人とその孫だろうか、お爺さんと男の子である。微笑ましい光景に思わず笑みがこぼれてしまった。
二人は散歩でもしているのかと思っていたら、真っ直ぐにこちらに向かって歩いてきた。
「ようこそおこし下さいました、あなた方の到着をずっと心待ちにしておりました。この村に来て頂いてありがとうごさいます」
は? 私たちを待っていたとな?
次回 「私を待っていたという謎の老人」
リン、神話を聞かされる
お待たせしました。
加筆しながら投稿していきますので、時々一日開いたりするかもしれませんがよろしくお願いします!




