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第8話 あらやだ、魔物が何故か自滅したわ


 恐る恐る地下迷宮の入り口に踏み込む。どうやら勇者パーティーはもう先に進んでしまっているらしい。


 まあもう、ここまで来てしまったものは仕方無いからずんずん進みますか。強力なモンスターが出たら全力で逃げればいいし。

 一旦覚悟してしまえばもう怖いものなしだ、私たちはどんどん奥へと進んでいく。


「へーリン、ここがダンジョンなんだね、初めて入ったけど所々壁が光ってて暗くないんだね」


「ああ、これ光り苔が光ってるのよ、緑色に光って綺麗よね。あ、食べちゃダメだよ、全身がピカーって光ってポックリだから。猛毒なのよね」


「あ、危なかったブヒ」

「実に危機一髪でした」


 草とか苔とかまず食べようとするのやめようよ。


 実はまだ猛毒だって知らない頃に勇者もこれを食べようとして、顔面にたまたま躓いた私の頭突きを食らって事なきを得たのよね。


 アレンタ君のやつ、鼻から盛大に鼻血を噴出して焦った焦った。

 よく考えたら私命の恩人じゃないのかな、他のメンバーにめちゃくちゃ怒られたけど。


「ふむふむ、これはノートに記載せねばいけませんね」(メガネくいっ)

「とりあえず歩きながら書こうよメガネ君」


 メガネ君はちょっと目を離すと、石の上に石が乗って落ちていただの、光り苔が二つ並んで生えていただの、どうでもいい事をノートに記述している。

 毒の事を書きなさいよ毒の事を。


「それにしてもダンジョンてもっとモンスターがわらわらと襲ってくるもんだと思ってたけど、全然いないんだね」

「うーん、そんな事ないんだけどなあ。本当に誰も挨拶に来ないわよねえ」


 そうなのだ、入り口から結構進んだのに一向にモンスターが現れる気配が無いのだ。

 勇者の光にでも吸い寄せられてモンスターが向こうのパーティーに集中でもしているのか、こっちのパーティーには全然来ない。


 モンスターにまで相手にされないとは……

 フフっ……悲しくて涙目になったよ。


「モンスターが出て来ないのは楽と言えば楽だね、このまま何も出ずに終わったりして!」

「ダ、ダメだよ、そういうフラグは立てちゃダメよ。そういうのはモンスターはきっちり拾ってくるんだからね」


 能天気なモブ男君に注意している時、前方の暗闇がゆらりと揺らめいた。何かがこちらに向かって歩いてくる。


「ほら、あんな風に出てきちゃったから。フラグっていうのは素人さんが簡単に扱っちゃダメなのよ」

「ご、ごめんリン。ひとつ勉強になったよ。フラグは立てちゃダメ、と」


「ふむ、それは興味深い、是非ノートに記載せねばいけませんね。ところでフラグは三角ですか、四角ですか」

「どっちでもいいでしょ! 来るわよ!」


 ズシーズシーンと近づいてくるにつれ、それの姿が露になってくる。

 このメンバーで戦える相手ならいいんだけど、と祈るように見つめたそれは――


 凶悪モンスター! ミノタウロスでした!


 試合終了のお知らせです。

 手に巨大なこん棒を握り締めているそいつは、いわゆるくっそやばいモンスターに分類されるのだ。


 ミノタウロスの登場に皆が一斉に武器を持って構えた。

 リーダーのモブ男君以外の二人も一応武器持ってたんだね。私もロッドを構える。


 リーダーが剣でメガネ君がクロスボウのようだ。

 ちょっとメガネ君、矢と間違えてメガネをセットしてますから。


「失敬、私とした事がうろたえてしまいました。これは是非ともノートに」


 記載するのは戦闘が終わってからにしよう!

 で、モブ太君が持ってるそれは何なのかな。


「魔法少女のステッキだブヒ。武器屋に作らせた特注品なんだ、そこそこ重いから打撃は有効なんだブヒ」


 魔法のステッキなら魔法で戦え。


 モンスターは獲物を見据えると、ゆっくりとこちらに近づいてくる。戦力差を考えて余裕と踏んだのだろう。


 やばい、ミノタウロスはやばい。上級の冒険者でも手を焼く凶悪なモンスターである。

 このEランクパーティーだと、一瞬で壊滅する自信があるのだ。


 どうしようか、よくわからないけど私がこのダンジョンに皆を引き込んだ事になってるみたいだし、私がモンスターに突撃してその間に皆に逃げてもらおうか。


 私は帰れないだろうけど、変な縁で知り合ったこの人たちには何故か死んで欲しくないんだよね。

 なんだろう、この人たちを怪物の餌食にしたくないこの気持ち。


 私を庇って笑ってくれたリーダーのモブ男君も、ノート魔のメガネ君もアイドルの無駄な知識を植え付けてくれたモブ太君も、私は初めて仲間を得たんだって気がするからかな。

 一緒に冒険してて凄く楽しいんだ。


 この仲間の為なら前に出れるよ私! 短い間だったけど、ありがとうみんな。そしてさよなら!

 よし行くか! 私はミノタウロスに向かってダッシュした!


「みんな! 私を置いて逃げ――!」


 あらやだ、走った時にポケットからお財布が飛び出して落ちてしまったわ。お財布の中からこの前貰ったビール大ジョッキ五杯券が飛び出している。


 これは乙女としては見逃せないわね、財布の中は空っぽなのにそんな物だけが後生大事に入っているとか、これは証拠隠滅を図らないと。


「おお! ミノタウロスのヤツ挟まったぞ! 凄いぞリン!」

「は?」


 ミノタウロスは突っ込んで来る私をこん棒でフルスイングしたが、私が突然しゃがんだ為に空振り。

 その勢いで体勢を崩して、運悪く地面に開いた亀裂に落ちて挟まってしまったのだ。


「今だ!」


 身動きが取れない哀れなミノタウロスを、パーティーの男衆メンバー全員でボコボコにした。

 カクンとなったモンスターの前でガッツポーズを取る三人の冒険者たち。皆がキラキラとした笑顔である。


 眩しい、眩しいぜキミたち。


「凄い! 俺たちミノタウロスに勝っちゃったブヒ!」

「さすがだよリン! すかさず周囲の状況を判断して相手を罠に追い込むなんて、リンの作戦勝ちだね。さすが第一線パーティーにいた冒険者だけはあるよ!」


 いえ、私女の子として見逃せないブツをこの世から消し去ろうとしただけなんですけど。


「ふむ、今回の記念すべき戦いは後世に伝えるべくノートに記載せねばなりませんね。タイトルは〝リンのモーモーやだモー大作戦〟でどうでしょうか」

「〝モー大変モーレツうし太郎作戦〟も捨てがたいね」

「〝牛が出た出たウッシッシ〟はどうブヒ」


 あなたたち本当に二十歳よね?


 次回 「あらやだ、魔物が何故か吹き飛んだわ」


 リン、蜘蛛がお肉にならなくてガッカリする



 本日夜に投稿します

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