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第72話 妖精の子が知らせてきた緊急事態


 私たちの目の前には、ロリっ娘ちゃんがワンパンで倒したモンスターがカクンと横たわっていた。


「この熊、向こうでドラゴンと大物モンスターが格闘してるのから逃げて来ただけで、そもそも私たちなんか眼中に無かったみたいですね。だから私でも倒せたんですよ、幸運でした」


 いつもこうやってロリっ娘ちゃんは謙遜するけど偉いよね。自分の力を過信しない、正に冒険者の鏡みたいな子だ。


「皆さん治癒魔法かけますね!」


 ジーニーちゃんが覚えたばかりの中等治癒魔法をかけて周った。使いたくて仕方無いのだろう。

 お陰で私の足の筋肉ガクガクが治ったよ、ついでに抜けた腰も治ってようやく立ち上がる事ができた。中等治癒魔法、便利すぎ。


 これで今回冒険に来た子たち全員出番はあったわけだね。

 は! 私だけ何もしてない!



「さてこの熊、倒したのはいいけどどうしましょうかリンナファナさん」

「お肉に解体するとしても私たち女の子だけで運ぶのは無理よね」


 さすがに三メートル級のモンスターを運ぶのはしんどそうだ。

 しかも上り坂なのだ、足じゃなくて腰をやられそうで怖い。抜けた腰は治っても、外れた腰は中等治癒魔法で治るだろうか。


「いつもならドラゴンが見つけて運んでくれるんですけど」


 その彼はさっきよりも少し離れた所で、まだどったんばったん怪獣戦争をしている音がするので邪魔しない方が良さそうだ。


「どうしようか」

「僕たちが運ぶよリン」


『ひいいいいいいいい!』


 突然真後ろから声をかけられた少女四人の悲鳴である。事案だ、事案が発生したのだ。

 何も無いと思っていた空間からモブ男君たち三人が、まるで最初からいたかのように普通に現れたのだ。


「いや、僕たち最初から後ろにいたけど」

「女の子四人の生足合計八本を眺めてたブヒ」

「皆さん実に素晴らしい骨盤です」(メガネくいっ)


「はい、リーダー以外アウトです」


 さっきまで私は少女パーティーだと信じて疑わなかったのだけど、実際はいつものモブパーティー+アルファだったようだ。


「モンスターが出たんで前に出ようとしたら、コムギちゃんが速攻で倒してしまったから出番無かったんだよね」

「とぼとぼと帰るところだったブヒ」

「私たちにも活躍の場を残してくれてありがとうございます」(メガネくいっ)


「そ、それは良かったわね」


 さっきまで少女パーティーに浮気していた私なので、ちょっと気まずい。でもついて来てくれていたのはちょっと嬉しい。


 モンスターの熊はいくつかのお肉に解体して、殆どをモブ男君たちが運んでくれた。もちろん女の子組も残りを分担して負担だ。


 フィギュアちゃんが『私も手伝う』と健気に熊の手を一本持ってくれたんだけど、私の胸元に入っているフィギュアちゃんが持っても、それは結局私の負担なのではないのかという疑問がわいて仕方無いのは気のせいだろうか。


 熊のツメが顎に刺さるんですけど。

 熊のツメが顎に刺さるんですけど。


 痛いので二回言いました。


 子供たちの楽園までお肉を運び終わると子供たちが大歓迎してくれた。お肉はみんな大好きなのだ。


「わーすごいよお姉ちゃんたち! お肉一杯だね!」

「わーいお肉お肉! 沢山ある!」

「さすがお姉ちゃんたち!」


 ふっふーんと私たちがドヤ顔になった時である。まあ、私がドヤ顔になるのもなんだけどね。


 ド――――ン!


 真後ろに何かが落ちてきた衝撃でその場にいた全員がひっくり返った。向こうでは洗濯物を取り込んでいた女の子たちもひっくり返っている。迷惑な話である。


 四つん這いで振り向くと、目の前に巨大なモンスターの顔があって腰が砕けた。

 中等治癒魔法をお願いしますジーニーちゃん。


 私たちの真後ろに十メートル級の巨大なモンスターの死骸が転がっていたのだ。

 上空にはキャットドラゴンの姿が見える。落とした犯人はあいつか。


 なるほど、さっきまでドラゴンが戦っていた獲物がこれか……私たちの獲物の数倍はあるよ。


「わーすごーい! 大きいー」

「お肉の山だー! 猫ちゃんすっごーい!」

「猫ちゃんの優勝!」


「にゃー」


 子供たちの尊敬の眼差しも歓声も優勝も、全部毟り取られたわね。


「モンスターのお肉はなかなか腐らないからね、暫らくは狩りしなくてもよさそうだね」

「ようし、今日はステーキ大会にしよう!」


『やったー!』

「猫ちゃんの優勝!」


 子供たちの歓声の中に、私の歓声が混ざっているのがお判りいただけただろうか。




 その緊急情報がもたらされたのは、ステーキ大会でモリモリお肉を食べている時だった。


「大変大変! 大きい子ちゃん! 緊急事態だよ!」

「何がだいひぇんなろ、もぐもぐ」


 飛んできたのは利根四号ちゃんである。

 この妖精の子にはお饅頭探索の傍らで、時たま山の周辺を飛んで偵察してもらっていたのだ。


「この先の村で、おまんじゅうの新作が出てたんだよ!」

『村娘が泣いていたので身代わりにサイクロプスを倒してみた件~村を救った勇敢な女神饅頭~』


 商品名長いな。

 あのサイコロステーキの村が、早くも観光名物饅頭を仕上げてきたか。商売は勢いが大事なのよね。


「裏の台紙にはあらすじも載ってるんだよ」

「ふーんどれどれ、私の名前とか載ってたらどうしよう、照れる」



 ――村は危機に瀕していた! 若い娘を差し出せぐへへと言う一つ目の悪魔により滅びの道を進んでいた。

 そこに一人の女神様が降り立ったのだ。女神様に出会った村の村長にその時を振り返って語ってもらった。

 村長は村の百二十代目の村長で、御年六十九歳。四十年前に村一番の美女のタマさんと結婚後は二児のパパとして……

 四十代では村の畑拡張を指揮し、五十代で初めての王都観光。そして待望の孫が生まれたのだ、その可愛さときたら……

 ――



 何の自叙伝かな?


 読まなくてもいいやつだこれ。恐らく読んだ人全員の目が滑って行くと思う。

 しかも手書き? こんな小さな台紙に書き込む技術が凄すぎる、こっちを売り物にしなさいよ。


「で、これが緊急事態なの? まあ妖精の子からしたらお饅頭情報は緊急なのかもしれないけどね」

「あ、間違えた、こっちじゃないや。もう一個の情報だった」


 あはは、利根四号ちゃんもうっかりさんよねえ。

 私はやれやれといった感じでステーキにかぶりつく。


「この山の麓に人間の軍隊が集まってるよ! この山の頂上を攻め滅ぼすんだって!」


 い、息が。

 私の喉にステーキが詰まって、窒息しかけたのだ。


「大丈夫リン? どんどん顔が紫色になってるよ」


 ジ、ジーニーちゃん、中等治癒魔法をお願いします。


 次回 「相手は軍隊かー」


 リン、窒息しかけてフィギュアちゃんに怒られる

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