第70話 夢の楽園生活、ここは天国か
次の日から私の楽園生活が始まった。
昨日の夜はロリっ娘ちゃんと一緒に寝たのだ。これを楽園と言わずして何が楽園かと、私は声を大にして言いたい。
「声に出てますよリンナファナさん」
ロリっ娘ちゃんにジト目で見られた、うむこれも悪くない、悪くないぞ。
こういうご褒美があるからこそ楽園なのだ。
「だから声に出てますって、ご褒美とか何を言っているのかわからないんですけど」
ここに住む子供たちの数は全部で三十四人、それにロリっ娘ちゃんと三十歳女性である。
二十歳の女性は山を下りている、賢者様の祠にお参りに行ったのだろう。帰って来る約束はしていたけど、彼女の二百年ぶりの人生は彼女が決めればいいのだ。
因みに送り迎えはドラゴン担当。
子供たちは料理班、洗濯班、焚き木拾いに小動物の狩り、山菜摘みその他と役割を分担しているようだ。共同生活の場としてちゃんと機能していた。
モンスターのお肉は、ドラゴンがたまに大物を仕留めて運んでくるらしい。
ドラゴンはお肉以外にも色々と物資をかっぱらって来るみたいである。ドラゴン頑張れ!
水場もあった。モンスターが登って来ない山の中腹よりも上に湖があるのだ。
水浴びはそこで。
子供たちが屋敷に水を運んだりするが、重労働なのでめんどくさい時はかっぱらって来た浴槽を使ってドラゴンが運ぶのだ。
湖に水棲モンスターがいたりしないのかという疑問が湧いたけど。
「ドラゴンがくまなく探して、危ないモンスターや危ないおじさんが居ない事は確定しています。小さな湖ですからね」
とはメガネ君。相変わらずどうやってドラゴンと意思疎通しているのかは謎である。
「モブのお兄ちゃん、剣の使い方教えてよ!」
「ようしみんな、訓練の時間だ」
モブ男君は冒険者志願の子供たちに大人気だ。
屋敷内には武器や防具もあったのだが、危ないのでしばらくは封印。今は棒切れを使って稽古をしている。
「とても助かります、私が冒険者志願の子の面倒を見るっていっても、やっぱり剣を使う方の指導は必要でしたから」
ロリっ娘ちゃんは格闘少女なのだ。ナックルパンチでモンスターを倒すので、普段剣は使わない。
冒険者を目指すのなら、体術以外にも剣の使い方はマスターしておいた方がいいだろう。と剣を使えない私がドヤ顔である。
私のパーティーメンバーがこの楽園で人気で、子供たちから尊敬の眼差しを向けられている事がちょと嬉しいのよね。
モブのお兄ちゃんと呼ばれてる事につっこみたい気分ではあるけど。
「モブのお兄ちゃん、メイプリーちゃんの話教えてよ!」
「ようしみんな、アイドル講座の時間だブヒ」
でもこっちの方はなんとかしようか。
子供たちの将来に不安がよぎるし、三十歳女性まで講座に混ざってるし。
いやアイドルはいいんだよ? でもみんな胸ポケットに人形を入れるのはちょっと待って欲しい。
「でもそれって、リンナファナさんの影響もあるんですよ。いつも胸に入れてるフィギュアちゃんが大人気ですから」
「フィギュアちゃんはあっという間に子供たちに馴染んだからねえ」
「一緒にけんけんぱとかして遊んでるの見るとほのぼのしますよね。でも踏み潰されないか心配で、はらはらしますけど」
「いや実際に何回か踏まれてるけどねフィギュアちゃん」
「メガネのお兄ちゃん、メガネの使い方教えてよ!」
「ようしみんな、メガネくいっの時間だ」
あっちの方はもはや何をつっこんでいいのかすらわからない。
メガネをしている子は一人もいないのに、一体何の訓練をしているのよ。
「でも人間の骨格講座は子供たちの勉強になってますよ」
「うぐぐ、まあ確かに」
「メガネさんのノートには、詳細な骨格のイラストが描かれてあるんですよ、あれどうやって調べたんでしょうね」
それたぶん私の骨格ぅ!
メガネ君の恐らく私の骨格であろう図は、子供たちの勉強に役立っているみたい。
将来子供たちの中からお医者が育ったら、それは私の骨格が発端だと胸を張ってドヤ顔してやろう。涙目の私はそう自分の胸に誓う。
「ガイコツ師も育つかも知れませんしね」(メガネくいっ)
ガイコツ師って何だ?
「お姉ちゃん、手を擦りむいた」
「はいはい、腕出して」
訓練で付いたかすり傷を癒すのは私の役目だ。
剣の訓練はわかる、しかしアイドル講座とメガネくいっで何で怪我してるのか意味がわからない。
「アイドルのコンサートは戦場なんだブヒ」
いかに良い場所を確保するか、終わった後さっさと帰って欲しいと願うスタッフとの心理戦。
物販の列での戦闘に、お釣り無しでお金を取り出す素早さ。推しメンの違いによる確執等、熾烈な争いの場らしいのだ。私は近づくことはないだろうから安心である。
メガネくいっに関しては、何度も眉間を指で押す子がいてその部分が赤くなるのである。
「お姉ちゃん、治癒魔法の使い方教えてよ!」
そうなのだ、私に教えを請う私の生徒もちゃんといるのだ! 一人だけだけど。
それは十一歳の少女、ジーニーちゃんである。
この子供たちの楽園で大人陣とロリっ娘ちゃん以外では一番年長の女の子で、ロリっ娘ちゃんがずっと心配して助けようと探していた二人の子の片割れだ。
彼女は冒険者志願をしていて、なんと回復職を目指しているのだ。
もう一人の片割れである十歳の少女ミーナスちゃんと、このジーニーちゃんとロリっ娘ちゃんでいずれ冒険者パーティーを組むのだそう。
ロリっ娘ちゃんに何度も名前を連呼されたお陰で、とうとう名前を憶えてしまったよ。
十歳に十一歳に十三歳のパーティーだ。十七歳のオバチャンだけど、私もその至福のパーティーに混ぜてもらえないだろうか。
ジーニーちゃんは治癒魔法の才能があるらしくて、私の初等治癒魔法講座をどんどん吸収していった。
「授業がわかりやすくて中等治癒魔法を覚えることが出来た! やっぱりすごいよお姉ちゃんは!」
いきなり教え子に先を越されたよ。お分かり頂けるだろうか、私が涙目なのが。
「いつか私もリンお姉ちゃんという大きな山を乗り越えて、みんなの役に立つ治療師になりたい!」
いえ、あなた既に乗り越えていらっしゃいますから。
私の胸と同じで山なんてどこにもありませんでしたから。
「お姉ちゃん、私の決意に感動して泣いてくれてるんだね、頑張るよ私!」
そ、そうよ、教え子の成長に感動して泣いてるんだからね。
次回 「女の子パーティー!」
リン、お肉を仕入れに行く、重大な使命である




