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第68話 王子の別邸から脱出せよ


 私が気がついた時、またもや天蓋付き豪華ベッドの中だった。


 殴られたり脳天チョップを受けたり、両腕を斬られそうになったストレスもあって、あれから私は気絶していたのだろう。

 一番の原因は高いお薬での贅沢攻撃だった気もするけど。


『ぐうう』とお腹が鳴った。

 空腹で倒れたんじゃなくて、か弱い女の子なのでストレスで倒れただけなんだからね。


 ランプが一つ灯っているだけの部屋の中は暗く、もう夜なんだと思わせる。


 自分の姿を確認すると、私はまたもや綺麗なおべべを着せられていた。


 ベッドに寝かすのならドレスじゃなくて寝巻きを着せろよとも思うのだが、あの王子にそんな気を回せるとも思えない。

 きっとドレス姿の女性の腕を切るのがいいんだろう、おおこわ。


 机の上を見ると、唐草模様の手ぬぐいを掛け布団にしてフィギュアちゃんが寝ていた。

 気持ち良さそうに寝てるわね。


 手ぬぐい布団が少しずれていたので掛け直そうとしたら、フィギュアちゃんが膨らませていた鼻ちょうちんが割れて、ビヨーンと起き上がってきた。


「あ、リン、気がついたんだね」

「ごめんねフィギュアちゃん、起こしちゃったね」


「鼻ちょうちんアラームをセットしてあったんだよ」


 随分と便利な機能がついているわね。


「さてここから逃げるのはいいんだけど、私が着ていた服はどこにあるのかな」

「洗濯するって言いながらメイドさんが持って行ったよ」


 ここに来る度に私は服を奪われている気がする。これで二着目よ。

 とりあえず着せられていたドレスは脱いで畳んでおいた。


 このまま着て逃げて、また窃盗罪に問われるのは二度とごめんだからである。お陰で私は下着姿になってしまった。


「ねえリン、その唐草模様の手ぬぐいは頭に巻くんじゃなくて、胸か腰に巻いた方がよくない?」


 フィギュアちゃん頭いいな、私はいつもの癖でほっかむりしてたわ。

 でもまあ、これでいいか。


 たとえ着て行く服が無くても、たとえ寒くても、乙女はオシャレ第一なのよ。

 それにほっかむりをすると何故かこれから一仕事って気合が入るのよね。やっぱりオシャレアイテムは大事なのよ。


「ドアの向こうには見張りのオッサンが立ってるよ」


 前回私にまんまと逃亡を許してるからね、少し厳重になったのだろう。

 だけど、バルコニーから出てしまえばこっちのものなのよ。


 意気揚々とバルコニーから飛び出そうとして腰が抜けた。そこは三階だったのだ。

 下から吹き上げる風が私を撫でていく。


 しかし慌ててスカートを押さえる必要はないのだ、何故ならスカートを穿いていないパンツ丸出しだからだ! めくれるものが無ければ何も怖くないのだ!


「これ飛び降りたら痛いよね」

「痛いで済んだらいいけどね、フィギュアちゃん」


 暗闇でよく見えない地面を見ていると、なんだか吸い込まれそうで怖い。


「大きい子ちゃん、大きい子ちゃん」


 暗闇から私を呼ぶ声がする。一瞬オバケが出たと思って腰が砕けそうになったが、その呼び方は利根四号ちゃんだ!


「大きい子ちゃん、これ持って来たよ」


 利根四号ちゃんが持って来たもの、それはロープと上着とお饅頭である。

 とりあえずお饅頭を三分割してみんなで食べた。ご馳走様でした!


「これモブ男君の上着じゃないの」

「みんな下にいるよ、大きい子ちゃんを助けに来たんだ。今下で待ってる」


 うむむ、よく目を凝らして見ても暗闇しか見えない。

 暗闇+モブは完全なるニンジャ効果を生み出すようだ。


 上着をありがたく羽織り、手すりにロープを結ぶとゆっくりと降りていく。


「ちょっと、ロープが途中から男性用のパンツになったんですけど!」

「ロープの長さが足りないから、モブ族の人たちのを付け足したんだよ」


 よりにもよって何故それを付け足したのか、後で問い詰めようか。

 男性用のパンツに救われる事になったか、私の人生もいよいよ珍奇な物になってきたわね。


「こっちだリン」


 降りるとすぐに聞こえたその声に思わず抱きついてしまう。助けに来てくれたんだねモブ男君!


「リン、それ木だよ」


 別に抱きつく相手はメガネ君でもモブ太君でも良かったのに、どうりで硬いと思ったわ。


 男性ってゴツゴツしているイメージだから、特に疑問に思わなかった事は内緒にしておこう。殿方に抱き着くなんて冒険をしたことが無いし。


 さすがに木とモブ男君の区別くらいつくわよ、と自分を信じたい。実際間違えたんだけど。


「みんな助けに来てくれてありがとう。よくこの場所だってわかったね」

「妖精の子が、ずっとリンが捕まった馬車の上空に張り付いててくれたんだよ」


 航空偵察ありがたやー。


「リンが捕まった時は何もできなくてごめん。あそこで全滅するよりは、後でリンを奪還する方に賭けたんだ」

「気にしなくていいよ、あそこで動かないでって目で伝えたのは私だもん」


「うん?」


 まさかの伝わって無かったオチっぽいわね。まあ考えは同じだったんだからこの際こまけーこたぁいいわね。




「リンナファナ様がいない!」

「どこに行かれた!」


「うわっやばい、バレたよリン!」

「リンこっちだ急いで」


 屋敷内が騒がしくなった様子がある、外にも兵士が飛び出して来た。


「盗賊がいるぞ! ほっかむりした泥棒が侵入したぞ! 囲め!」

「そのほっかむりはこの前侵入してきた盗賊じゃないか、今度こそ捕縛してやる!」


 泥棒スタイルじゃねーわよ! オシャレだって言ってんだろ!

 兵士たちがわらわらと四方八方から集まり出した。このままでは囲まれて試合終了だ。


「馬車があるブヒ!」

「リン、この中へ!」


 よし! 脱出機確保! これで全速力よ!


 全員が馬車に乗り込んだのはいい、そこまではいい。でも肝心の装備品が付いていないんじゃないかな。


「で、馬は?」

「盲点だったブヒ!」


「なるほど、馬が無ければ馬車は動かない。これは発見ですね、どれノートに記載しておきますか」

「常識を記載されるノートの身にもなってあげなさいよ!」


 馬車の周りに兵士が大量に集まってくる。これもう詰んだわね。


「出てこい! 今素直に出てくれば裁判を受けさせてやる」


 有罪しかない裁判なんでしょうどうせ。


 でも仕方ない、私だけ出て行って他は逃がしてくれるように交渉するか。

 交渉する必要もなく、暗闇+モブのニンジャ仕様でモブ男君たちは難なく脱出できそうだけどね。


 馬車の外に出ようとしたその時、馬車に異変が起きた。


 兵士たちの悲鳴が轟く。


 私も腰が抜けたのは内緒である。



 次回 「至福のひととき」


 リン、とても気まずい

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― 新着の感想 ―
[一言] 下着も服だからな… いや、顔につけてなくても泥棒扱いか
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