第66話 役人のざまぁフラグ
「さて、この道をこのまま真っ直ぐ進んで主要道路に出たら、以前来た方向と反対に進もうかリン」
地図を見ながらリーダーのモブ男君が話しかけてくる。とにかく進むのは王都の反対方向なのだ。
「そうね、その案で行きましょう」
主要道路に出るまでの道すがら、フィギュアちゃんが質問してくる。
「ねえリン、モブパーティーくじって何?」
「私に聞かれても困るんだけど」
勇者グッズだモブパーグッズだと、商魂たくましい村になっちゃったよ私の村。
それで村が潤っているのなら良しなのかも。
ハニワ君人形は今でもちゃんと村の名物なんだろうね? いつの間にか代々伝わった名物が片隅に追いやられてたらハニワ君に恨まれそうだ。
「リン、私が不思議なのはさ、私のフィギュアもくじの中に入ってるのかなって」
フィギュアちゃんのフィギュアだと!
その発想は無かった! フィギュアのフィギュアとかわけがわからないけど、やっべー欲しいー! コンプリートを目指さなくては!
「私にそっくりに作られてて、見分けがつかなかったらどうしようか」
喋って動いてくれないと厳しい戦いになりそうだ。
「リンの胸元はまだ余裕があるから大丈夫だね」
何の余裕かな。
フィギュアは増殖する。この恐ろしい伝説が本当になりそうで怖い。
「大きい子ちゃーん、向こうからいかついおっちゃん達がこっちにやってくるよー」
フィギュア収納の為に胸元を拡張した方がいいかな、と悩んでいた時に利根四号ちゃんが飛んできた。
どこかでお饅頭を仕入れていたのだろう、胸には戦利品を抱きしめている。
それは村から出て三十分ほど歩いた時だった、私たちパーティーは兵士の一団に取り囲まれたのである。
兵士の数はざっと五十人はいるだろうか。
「また会ったな小娘。昨日は兵が一名しかおらなかった為に、改めてこうして村に向かう所だったのだよ」
「リン、何こいつら」
私は怯えるフィギュアちゃんの頭をそっと撫でてやる。
嫌な予感は当たっていた。予感があったからこそ、こうやって呑気に道を歩いていたのだ。
じゃなかったらあの村に兵隊が突入していた事になる。
そんな事になったら村で兵士が何をするかわかったものじゃないのだ。言わば私は囮だ、村に行かせてたまりますか。
でも五十人は想定外だった、小娘一人捕まえるんだから十人くらいでよかったでしょ! なんなら三人でも十分なはずだ。
少人数なら適当に煙に巻いて逃げるのは余裕だと思っていたのに、五十人て。どんなモンスターと戦う予定だったのよこいつら。
サイクロプスを絞って千切った怪物女ですか、そうですか。
とにかく危なかった、五十人もの部隊が村を襲撃していたらと思うと背筋がぞっとする。
「小娘の荷物を調べよ」
「は!」
私は持っていた荷物と背負っていたリュックを剥ぎ取られた。
リュックの中には下着とか入ってるのに、いやだなあ。
「怪しい人形が出てきました」
「ふん、なんだこの黒水着のいかがわしいフィギュアは」
くじのシークレットよ! 今後高値になるかもしれないからひれ伏せ!
「呪術に使う魔人形か何かか?」
「これは勇者パーティーくじのシークレットですな」
おい詳しいなこの兵士。
「そこそこ出来は良いが、いい歳してお人形遊びとはな。うーむ出来はいいな、うーむ」
おい役人、何で私の頭の上に置いた。
お前欲しそうだなこれ。部下の兵士たちの手前、フィギュアを寄越せと言い出せないんだろう。
それあげるから見逃してもらえないかな?
「娘のパンツが出てきました」
「見せてみよ」
おいこらちょっと待て、おっさんたちちょっと待て。
だから何で私の頭の上に置く。
「そこそこだが、うーむ。そこそこだな」
何がそこそこなのよ、意味がわからねーわ!
これも欲しそうだなお前、でもこれはあげないからね!
乙女が下着を殿方にほいほい渡せますか、何故なら替えが無かったら風邪を引いてしまうからだ。
「娘の荷物からドレスが出てきました!」
うわー万事休すだわよ。
「おい、お前のような平民が何故このような高級なドレスを所持しておる。これはどう見ても貴族、それも上流階級のご令嬢様がお召しになるような代物ではないか」
「き、着せられました」
「こんな物を平民ごときに着せて喜ぶような酔狂な者がおるか!」
いたんですよそれが、ええ、王子と言うんですけどね、知ってます? まあ貰ったんじゃなくて借りパクなんですけどね。
「他にもこんなものがありました!」
兵士が私のリュックから出してきたのは、唐草模様のほっかむりである。
「ふん、フィギュア、パンツ、ドレス、泥棒グッズとこれで証拠が揃ったな、泥棒スタイルで窃盗をやったのだろう」
なんでそうなるのかな! フィギュアとパンツ関係ねーし!
唐草模様の手ぬぐい君には何の罪も無いはずなのに、オシャレグッズとは全く見なしてはもらえない不幸な子だね。
「娘を捕らえよ」
モブ男君たちが動こうとするのを目で押さえる。
五十人対三人ではいくらなんでも分が悪すぎるのだ。因みに役人と私は戦力外通知で頭数から外してある。
「リン、お供するよ」
フィギュアちゃんが胸元でトゲを握り締めているけど、今回はその戦法の出番は無いかな。
役人が私を食べるとかホラーすぎるもんね。
違う意味で食べようとしてくるかもしれないけど、ほら私可愛いからさ。
私はあっという間にとっ捕まり、手枷足枷をされて馬車の中に放り込まれてしまった。
この扱いは完全に荷物である、可愛い女の子に対するものじゃなかった。
「本来なら盗人は窃盗罪で私自らがここで成敗したいところであるが、今回は王子殿下の案件なのでな。今ここで両腕を切られてショック死されても困るので連行する」
私を乗せた馬車は走り出す。
モブ男君たちはなすすべも無く見送っているけど、ここでは何もしないでという私の思いが通じたのだ。
役人も兵士も、モブ男君たちに関しては一切スルーである。
まさかモブすぎて目に入らなかったわけではないだろうけど、偶然居合わせた通行人くらいにしか思ってなかったのかもしれない。
こういう時にモブ力は役に立つのである。
馬車の中では私は両脇をがっしりとした兵士に見張られ、対面に座る役人の両脇にも兵士である。なんという逆ハーレムか。
「さて改めて聞こうか、お前の名は何だ」
「リンシャン・カイホウです。ですので私をさっさと解放してください」
バーン!
いったー! 殴られたよ! 顔をグーで殴られたよ!
そう、私は役人に思いっきり顔を殴られたのだ。
「もう一度聞く、名前は何だ」
「リンシャン――」
ドガッ!
また殴られた! 鼻血出たよ!
痛くてぶるぶる震える。
この役人に何かのフラグが立ってますように! それがざまぁのフラグだったりしますように!
神様でも光姫様でもなんでもいい、こいつをなんとかして欲しい!
「もう一度聞く、次は顔の正面を殴ってお前の鼻をへし折ってやる、それが嫌なら正直に答えよ。お前の名は何だ」
「リンシャン・カイホウです!」
ブッスウウウウウウ!
「ぎゃあああああああ」
馬車の中に悲鳴が響き渡った。
叫んだのは私じゃない。
見たら役人の拳にトゲが突き刺さっているじゃないか。
そしてぷんすか怒っているフィギュアちゃんがいた。
ありがとうフィギュアちゃん!
ようし言ってやんよ!
一緒に言おうかフィギュアちゃん!
「ざっまぁあああ!」
「ざっまぁあああ!」
次回 「王子の前に引きずり出された」
役人、ドヤ顔で自分の手柄を報告する




