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第64話 役人が私を捕縛しに来た


 村にはサイクロプスの腕を一本お土産に持って帰った。


 頭を持って帰るのは気持ち悪かったし、うっかりコロコロ転がり落としてしまって村にストライク攻撃をかましたのでは、村を救ったのだか嫌がらせをしたのだかわからなくなるからである。


 因みにその後すぐに村の若い衆が岩山に登り、残りのサイコロお肉を回収したのは言うまでも無い。


「サイクロプスを討伐したですって!」


 村の人たちの驚きようは凄かった。なんせ私の村のハニワ君人形が、実はこの村の名物だったのかと疑ったほどである。


「勇者パーティーですら転がされた、あのサイクロプスを仕留めるなんて!」

「はい、当初の私の計画通りです」


 ごめんなさい、私はまた嘘をつきました。

 真実は一つ! しかしその真実を知っているのは私だけだ、真相は闇の中なのである。


「勇者パーティーですら勝てずに、泣きながら転がっていったあの巨人を!」

「勇者パーティーですら勝てずに、転がりながら溝に落ちていったあのモンスターを!」

「勇者パーティーですら勝てずに、前日の食堂の代金を払わずに転がっていったあの一つ目を!」


 可哀想だからもう転がすのはやめてあげてください、あんなんでも元仲間だったんですよ。

 それと食い逃げじゃないか、あいつら。


「ぐぼっ」


 突然私は身体に衝撃を受けた。

 もしや真相を闇の中に仕舞い込んだのがバレた!


 見ると私に抱きついてきたのは生贄ちゃんじゃないか、どうりでいい匂いがすると思ったよ。スーハースーハー。

 彼女は大粒の涙をぽろぽろこぼして私にしがみ付いている。


「よかっひぐっ」


 もう声になんか出せないのだろう、ただただ大粒の涙をこぼして私にしがみ付いているのだ。

 私は震える彼女を抱き締めた、なんだ、私の手も震えてるじゃないか。


 こわっ怖かったよ……

 そう、私は怖かったのだ、こんなにぶるぶる震えるほど怖かったのだ。


 その場にこぼれる涙が、もう彼女のものか私のものかわからない。

 二人は互いにしがみ付いたままで、ぽろぽろと涙をいつまでもこぼしていた。




「あの、土下座はやめて頂けませんか、身体を起こして顔をあげてください。特に苦しゅうないので」


 ここはこの村の村長さんの家、丁重に通された私の目の前には、生贄ちゃんの両親が床に額をつけてひれ伏しているのだ。気まずいったらありゃしない。


「本当にすみませんでした! あなたを見送った後で私たちは後悔したのです。なんて恐ろしい、取り返しのつかない事をしでかしてしまったのだろうと!」

「いえ、身代わりになると言い出したのは私ですし」


「私たちは自分たちの娘を守りたいという親のエゴを、何の関係も無いあなたに押し付けてしまいました」

「それをエゴだなんて言わないで下さい、ちょっと悲しいです」


 失敗したなあ、さっき大泣きしてしまったから、その姿を見て罪悪感が倍増されてしまっているよこの人たち。


「うむ、ではこうしよう。この勇敢な少女とそのお供たちの銅像をこの村に建てて、村の皆で代々祀っていこうではないか」

「それはいい考えですね、我が家に是非制作費を出させてください」


 何でそうなった! ちょっと村長さん、何言い出すんですか。ではこうしよう、の意味がわからない。


「うむ、スカートの中とか適当にやっときますので、安心して下され」


 不安しかねーわ!

 私の村といい、あちこちおかしな銅像を建てないで欲しいかな! どーせ禿げヅラ乗せられたり、鼻毛描かれたりするのよ! 村で勇者の像に鼻毛描いてあるの見たもん!


「こんなんどうじゃな」


 さらさらと絵に起こした村長さん。絵上手いわね。

 それは三人のお供を肩に乗せた私が、後ろからサイクロプスを締め上げている像の原案図だった。


「却下します。どこの怪獣大戦争ですか。どーせなら皆で仲良く、お花を摘んでる像とかにしてもらえませんか。その方が乙女らしくて可愛いですよね」

「お花摘みの姿だなんて、そんな……」


 ちょっと待って。なんで皆さん、特に女性陣が赤くなってるの。違うの、何か重大な齟齬(そご)が発生したと思うの。


「勇敢少女饅頭も作って村の名物にしますか」

「おまんじゅう! 私も食べたい!」


 あーあ、利根四号ちゃんが食いついたよ。こりゃ大ヒット間違い無しになってしまったよ。

 妖精の子は今やお饅頭ヒットメーカーなのだ。




 村長の家から外に出ると、またもや村がお祭りになっている。

 これはサイクロプス討伐記念、サイコロステーキ祭りなのだ。


 因みにサイクロプスのお肉は本来私たちパーティーに所有の権利がある。

 しかしこれから先お肉を背負って歩くのは、またもや行商人に間違われそうなので村に寄付してしまったというわけだ。


 お肉があるからイラネって言ってるのに、アホみたいにお肉を仕留めてきそうな予感がしたのだ。いや絶対そうなる、もう大根屋さんとか言われたくない。


 さっそく屋台の一つでサイコロステーキを受け取って食べてみる。

 今日は村人も外部のお客も無料なのだ。もしかしてここは天国なのでは? 私実はもう死んでる?


「うわー、サイコロステーキ美味しいー!」

「ねえリン、いろんな屋台を食べ歩きしてみようよ! どんなのがあるのかな!」


 いやフィギュアちゃん、全部サイコロステーキの屋台だけどね。

 で、食べ歩きをするかしないかでいうと、私はするんだけどね!


 うわーこっちの屋台のサイコロステーキも美味しい! さっきの屋台と同じ味だけど!


 他にも祭りを楽しむ沢山のお客さんの姿が見える。

 殆どが村の衆だけど外部のお客さんも来ているようだ、なんだか偉そうなおっさんと兵士の二人組みたい。


 私はもぐもぐ食べながら何気なくその人たちを見ていた。

 兵士もお祭りに遊びに来たのかな、それともお祭りの警備なんだろうか。


「この村にリンナファナという娘が潜伏していないか! (かくま)うとただでは済まんぞ!」

「ぶー」


 次回 「色々と不味い状況になった」


 リン、偽名を使う

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[一言] 余計に逃げるって! 匿うと死刑ですか!
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