第61話 サイクロプスのスキル、うっとうしいわ!
「利根四号機出撃します!」
利根四号ちゃんが飛び立って行くのを、私はスカーフを振って見送った。サイクロプス接近を索敵してもらうのだ。
山を下りてという私の願いに、モブ男君たちは断固拒否の姿勢だ。
一緒に戦ってくれるというのである、私は本当にいい仲間にめぐり合えたと思う。
そこは木が一本も生えていない禿山で、岩がゴロゴロ立ち並んでいる岩山である。
お陰で隠れる場所は多そうで、小指攻撃には抜群の環境とも言える。
ただ岩と岩との間の隙間風が時たま鬱陶しい事この上ない、突風が吹く度に私のスカートがめくれるんですけど!
「サービススポットブヒ」
モブ太君、何か言いましたかね。
他のメンバーがスカートを穿かなくて本当に良かった、ここが危うく地獄になるところだったよね。新しい伝説を生み出している場合ではないのだ。
ほらほらメガネ君、こんな所でノートなんか出すからバサバサとめちゃくちゃ鬱陶しい事になってる!
え、何? 風で何枚めくれたか是非とも記録しなくてはいけない? どーでもいーわ! バサバサあー鬱陶しい!
「大きい子ちゃーん、来たよー、でっかい目の怪獣来たよー」
風で飛んできたメガネ君のノートが、私の顔に張り付いたところで索敵機の帰還だ。
その声にパーティー全員が岩陰に隠れて戦闘の準備に入る。さっきまでの大ボケがまるでウソのようだ、これぞ冒険者パーティーである。
Dランクだけど。私だけ顔にノートを張り付けた緊張感ゼロの状態だけど。
どれどれと私もノートと岩の陰から覗くと、数メートルはあろうかという一つ目の巨人がこちらに歩いてくるのが見えた。
あのやろうが女の子を食ってきた極悪人か。
「私も一つ目怪獣見たい」
フィギュアちゃんが私の頭に登ってきた、口とか鼻の穴に手足をかけるのやめて欲しいんだけど。どこの岩登りかな。
「うわー」
「いででででで!」
その時突風が吹いて飛ばされそうになったフィギュアちゃんが、慌てて私の鼻の穴を掴んだのだ。
思わずブヒって言いそうになったじゃないの!
「ねえリン、もう一回突風が吹いたら私を一つ目怪獣に投げてみて」
「わ、わかった」
とりあえず彼女の意図が掴めないまま、突風と同時に巨人に向かってぶん投げる。
フィギュアちゃんの小さな身体はサクロプスに向かって一直線である。それは突風に乗って、かなりの速度が出ているようだ。
「アホ毛アターック!」
そうかでかしたよフィギュアちゃん! オーガも泣かせたチックリ攻撃でサイクロプスの目を先制攻撃だ!
『カーン』
しかし途中で何かに弾かれたフィギュアちゃんは、そのままこちらまで跳ね返ってきてしまった。
くるくる回りながら飛んできたフィギュアちゃんは、スポンと私の胸元に収まった。威力偵察隊の帰還である。
「ただいま! めっちゃ近くで生怪獣見て来たよ!」
「お、お帰り。特等席だったね」
『カーン』
見るとクロスボウの矢も弾かれている、メガネ君の攻撃かな。
なるほど中長距離攻撃は本当に効かないみたいだって、あぶな! 弾き返された矢が私の足と足の間の地面に刺さった! クロスボウ禁止!
『カーン』
どうやら利根四号ちゃんも空から急降下爆撃を敢行したみたいだって、あぶな! 弾き返された石が私の顔の真横の岩に命中した! 急降下爆撃禁止!
「水平爆撃ならいいかな?」
命中率低そうだしやめようか。
クロスボウだろうが石だろうがアホ毛だろうが、攻撃とみなされると弾かれてしまうのか。
間接攻撃がだめとなると、直接攻撃しかない。
モブ男君とモブ太君が岩陰から出撃してサイクロプスの足に攻撃を加えるが、全力攻撃も半減しているように見える。
「だめだブヒ、近距離からの直接攻撃も半分も当たらないブヒ!」
「攻撃阻害のスキルだよ!」
巨人は二人を無視したようだ、そのつぶらな瞳は、辺りをきょろきょろ見回し何かを探しているようである。
恐らく生贄を探しているのだろう、いないと思われて村を襲われても面倒だ。
どーせ阻害されるかも知れないけど! 岩の陰から飛び出して、足の小指をロッドで叩く!
『ゴボオオオオオ』
入った! 私の嫌がらせ、いや純然たる攻撃が阻害されずに入った!
うわー睨まれた、私を捕まえようと伸ばしてくる腕をかわして、もう一発!
『ゴボオオオオオ』
入った! 同じ小指を二度も叩かれてはやってられないでしょ、これに懲りたらさっさと辺境に篭る事ね! あっはっは!
ズドオオオオオォォォオオ――ン
ドヤ顔で高笑いをする私の真横にあった岩が、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。
私は笑顔のまま汗だくである。
こいつ怒りの鉄拳で岩を吹き飛ばしやがった!
でもビビってはいられない、もう一回小指に向かって――
「ちょっと! 足上げないでよ! 届かないじゃない、足を下ろしてよ! あんたはただでさえでかいんだから、もう少し小さい女の子に気を使わないとモテないわよ!」
サイクロプスに説教していると、私めがけて足が振り下ろされた!
ドオオオォォォオオオオォ――ン
地面にめり込むくらいに下ろされた足の風圧と振動で吹き飛んだ私は、コロコロ転がって岩に激突して一瞬目玉がぐるぐるになる。
「誰が私を踏み潰そうとしろって言ったのよ! そっと下ろしてよ!」
ぷんすか怒る私をサイクロプスは無視、こいつにとっては私は美味しい食べ物でしかないのだろう。
でも私だってハンバーグがぷんすかしてたら話を聞いてやるくらいの器量はあるぞ。
私を捕まえようとした手を、モブ男君が剣で払う。しかし次の連撃は阻害にて弾かれてしまった、かなりの苦戦である。
「くそ、こいつ! 攻撃がなかなか入らないな!」
「こちらのミスも入れると、三回に一発くらいになってきたブヒ!」
『ゴボオオオオオ』
何故か私の小指攻撃は入るのよね。
こうなったら私がこれを、後百発くらい繰り返せばなんとかなるかも! 勝てる!
しかしこの後、私は絶望の淵に立たされるのだった。
巨人が靴を履きやがったのだ。
次回 「絶体絶命の危機だよ」
モブパーティー、ころころ転がる




