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第57話 あの騒動の後日談があった


 救出した子供たちは全部で二十人で、当初の予定人数の倍に増えていた。

 殆どが孤児で、親がいる子もその親に悪魔族との契約で売られたという経緯らしく、全員を子供たちの楽園に迎える事になった。


 二十歳児と三十歳児の子は悪魔が間違えて吐き出してしまったみたいだけど、返すのもめんどくさいのでついでに連れて行く事にした。


 本来であればこの女の人たちは自分の意思による契約で食われたんだろうから、悪魔族に返却するのが筋なんだけど、とにかく私に早くお帰りくださいの一点張りで砦の外に追い出されてしまったのだ。


 最後はホウキで掃かれたよ。

 しかもそのホウキを焼却殺菌してるよ、なんか腹立つから毎週嫌がらせに訪問しようかしら。


「ありがとうございます!」


 三十歳の女性が私にしがみ付いてきた。女性のいい匂い、柔らかい、カナを思い出す。


「私は国の北の寒村の生まれで、父も母も流行り病で失い、王都に職を求めてやってきたのは今から十六年前になります」


 なんか身の上話を始めたよこの人。

 女性の話をうんうんと聞いていると、結局この人も悪い男に騙されて自分の意思じゃない契約を悪魔族と交わされていたという事がわかった。吐き出させて正解だったのだ。


 ただ、一緒にアイドルコンサートに行った話だとか好きなアイドルの話だとか、王都で見たアイドルの話とか必要だったのだろうか。

 その辺はモブ太君の出番じゃなかったのかな。その誰かさんのおかげで、アイドル話に普通に対応できる私がいる事が恐ろしい。


「女性と話をするのはちょっと恥ずかしいブヒ」


 なるほど、女の人との会話はオタクの人にとって気後れするんだね、女性に慣れていない感じがちょっと初々しいなあ。


 おや? ちょっと待てよ。どういう事だよおい!


 長い身の上話の間、キャットドラゴンによる子供たちのピストン輸送が行われた。人数が多すぎて一度では運べなかった為である。


 おいそこの悪魔! 砦周辺から早く出て行けみたいな嫌そうな顔でこっちを見るな!

 あんたたちが食べた人数が多すぎたからこうなったんでしょうが!


「私は今から二百年前……」


 今度は二十歳の女性の話が始まった!

 二百年前かあ、そんな昔の人だったのね。二百年前のアイドルはさすがに私もわからないぞ。


「私は下級貴族の娘でした。国王に家族と領民を人質に取られ、命じられるままに愛する賢者様を罠に嵌めて処刑させたのです。谷に落ちていく賢者様の絶望の顔は今でも忘れられません。処刑の後、私は悪魔族と契約して自分の魂を売り飛ばすのと引き換えに、あの忌々しいクソ国王を悪魔族にぶっ殺してもらったんですよ。国王ざまぁ」


 おーい賢者様、あなたの復讐は二百年前に遂げられてたみたいよ。

 私の食事風景なんかより、そっちを教えてあげたかったなあ。


 最後に私に見せた、あのイケメンさんの少し陰のある笑顔を思い出して切なくなる。

 賢者様の祠が建てられているはずだから、是非そこを訪れて報告してあげて欲しい。きっと喜ぶと思うよ、あんパンも忘れないでね。


「ふふ、あの人あんパン好きだったわね。こしあん派とつぶあん派に分かれてよく仲間内で殴り合いをしてたっけ」


 しょーもない喧嘩してんじゃないわよ、賢者!


 話が終った頃、ようやく私たちの輸送の番になる。女性陣はドラゴンの背に乗り、モブ男君たちは風呂敷包みで運ばれて行った。


 三十歳の女性はお母さん役として、子供たちの楽園で皆の面倒を見てくれる事になった。

 この中からアイドルを無事育て上げてみせると張り切ってるよ。


 元賢者様の恋人も賢者様の祠にお参りに行った後は、同じく子供たちの楽園で管理人をしてくれるという事だ。因みにつぶあん派らしい。



 翌朝これから日が昇ろうかという時に、私たちパーティーは子供たちの楽園から出発する事にした。

 こんな夜明けの早朝なのに子供たちも起きてきて見送ってくれる。


「ありがとうございました。リンナファナさんとお仲間のパーティーのお陰で、無事子供たちを取り戻すことができました」


 ロリっ娘っちゃんの顔は実に晴れ晴れとしていた。なんというかその、抱き締めたい。


「あなたはこれからどうするの?」

「はい、私はここで冒険者を続けてこの山に物資を届けたり、冒険者志願の子の面倒を見て鍛えてみたいと思ってます。既に何人か希望してるんですよ、ミーナスとジーニーです!」


「十歳と十一歳の子だっけ、いいパーティー仲間になるといいね」

「そうですね、もう勇者パーティーみたいなポンコツパーティーはこりごりですからね!」


「あはははははは」

「あはははははは」


 二人でお腹を抱えて笑った。

 本当はロリっ娘ちゃんをうちのパーティーに誘おうかとも思ったけど、この子はこの山の子供たちに必要なのよね。


 私もここに一緒にいたいとも思っても、王子のアホの手、じゃなかった魔の手があるとも限らない以上は私は留まるべきではないんだ。

 寂しいけど、お別れだね。


「私たちもリンナファナさんのパーティーみたいな、すごいチームを目指しまふぇ……わああああああん」

「ちょ、泣かないでよ、また来るかふぁ……うああああああん」


 二人揃って大笑いした後は大泣きだった。

 二人とも別れたくなんかないんだよ、一緒に暮らしてもっと遊びたいよ。せっかく仲良くなって一緒に冒険したんだもん、もう仲間なんだよね。

 でも私は行くね。


 そしてドラゴンがどこからか屋敷をかっぱらって来たのを見て、また大笑いしたのである。


 そういえばドラゴンは夜中に飛んで行ったんだっけ、増えた子供たちの住居の確保ご苦労さまです。この楽園はこのドラゴンがいれば安泰間違いなしだ。



 私たちは旅支度を終えて、山の麓に送ってもらう為にドラゴンに乗っている。モブ男君たちは何故かまたもや風呂敷包みの中である。


 私は王子邸で着せられていたドレスを荷物に仕舞い、ドラゴンがかっぱらってきた屋敷の中から適当に動きやすい服を選んで着ている。

 それも貴族が着る様な上品な物だったので、スカートの裾などを直して村娘風にアレンジしてみた。貴族のご令嬢に間違われると、余計な面倒事に巻き込まれてしまいかねないのだ。


「それじゃリンナファナさん」

「モブパーティーのお姉ちゃん、ばいばーい!」


「また来るからね、うぅ、ズズ」


 なんだか寂しくて涙が出そうなのを一生懸命堪えた。


「リンナファナさん泣かないで、ぐす」

「お姉ちゃん泣いちゃだめだよ……うう」

「うわああん! モブパーの皆さん! バンザーイ! モブパーバンザーイ! うええええん」

「えええん、モブパーのお姉ちゃんの変な像も建てるからねえええ」


 涙でのお別れになっちゃったけど、内容的には結局この見送られ方になるのね。


 あと変な像はやめてもらえませんか。


 次回 「お祭りをやっていた村」


 リン、お祭りで嫌なくじを見つける

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