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第55話 悪魔が怖いのは光姫らしい


『くううううううん』


 ケルベロスの唸り声である。

 私の顔をペロリと舐めた後の唸り声である。


 舐めた瞬間きょとんとなったケルベロス。私も舐められていい迷惑なんだけど、くっさいし。


 何故かヤツは裏返って私にお腹を見せていた。

 いやまあ、くそでっかい魔獣なので、私の位置から見えるのはお腹というより大股開きの股間なんですけど。


 こいつは一体私に何を見せたいのか。

 犬がこういうポーズを見せた時はお腹を撫でてやるのが定番なんだけど、手が届かねーわよ!


「ケ、ケル坊が降参した!?」

「怒ったら我らでも壊滅するケル坊が!」


 よくそんな危険物体をペットにしようと思ったわね、チャレンジャーすぎる。

 降参? どう見ても嫌がらせのセクハラよね。飼ってる犬まで性格悪いって、最悪よね。


「犬もセクハラ以外してこなさそうだし、さあ観念して子供たちを返してもらおうかしら! さあ出せ、今出せ」


「うるさいから誰かこいつをつまみ出せよ」

「えー我、触るのやだ」

「ホウキで掃き出せばいいんじゃないか」

「ホウキなら後で焼却消毒すればいいしな」


 私人間界ではそれなりに可愛いと評判だったんですけど。トイレ貸してもらえないかな? トイレで泣くから。


「おーい、門の所に届け物があったから運び入れるぞー」


 一体の悪魔がそう言いながら、木馬の柄の風呂敷包みを広間まで運んできた。


「何だこれは、誰か通販で買ったのか?」

「敵が置き土産で置いて行ったんじゃないか?」

「なるほど戦利品か、なら運び入れて正解だな」

「木馬の戦利品だ」


「ねえこの砦の名前なんだっけ」

「我らの呪い城〝ノロイの砦〟だが」


 なるほど、ノロイの木馬か。


「ねえフィギュアちゃん、号令かけてみる?」

「うん! やっておしまい!」


 号令と同時にノロイの木馬の柄の風呂敷包みの中から、モブ男君たちが飛び出してきた。

 同時に門からはキャットドラゴンが突入してくる。


「敵襲!」

「木馬の中に兵が潜んでいただと!?」

「騙まし討ちだー!」


「うわー、身体の調子が悪くて上手く戦えん」

「人間ごときに! 動け俺の身体!」

「我らの悪魔防御力に異常が発生しているぞ!」


 モブ男君たちが悪魔たちとやりあっている。ドラゴンも悪魔を蹴散らし。


「私も行きます!」


 戦闘グローブを付けたロリっ娘ちゃんがボコっていく。

 私だけがその場に立っているだけ。広場の中央で、ケルベロスの股間の横で立っているだけ。


 相変わらずの非戦闘員っぷりなのだ。誰かが擦り傷を作ったら、初等治癒魔法で治して行くだけだ。

 味方に対して悪魔族の数が多いので戦闘は互角といったところか、私が何もできないのはもどかしいよ。


「何をやっておるか! 静まれ!」


 その場に割って入ってきたのは、一際大きな身体の悪魔族の親分みたいなヤツである。

 見るからに強そうな巨体に、更に精鋭と思しき近衛兵も引き連れていた。


 周りには幼女悪魔を侍らせている。そういう趣味なのかな? 一個くらいお持ち帰りしてもいいかな?


「者ども、戦いをやめよ!」

『キイイイィィィィイイイン!』


 口を開けた幼女悪魔の超音波攻撃で、その場が一瞬にして静寂化した。

 なるほど、そういう役目の子たちか。幼児の叫び声は時に大人たちを黙らせる超音波と化すのだ。


「公爵様!」

「公爵閣下がお出ましだ!」

「最強の近衛隊も到着だ! これで人間共はお終いだな!」


 こっちも公爵だったよ。王侯貴族はどいつもこいつも。

 それにしてもまずいな、ここで敵の増援は考慮してなかったよ。


「我の妻と娘が大変な時に騒々しい! 何事か!」

「人間共の襲撃でございます、公爵閣下!」


「人間の襲撃だとおおおおお!」


 顔を怒りで真っ赤にした悪魔公爵がこちらを睨んできた。元々身体が赤いから正直どのくらい真っ赤なのかは不明だけど、めちゃくちゃ怒ってるのはわかった。


 こいつはちょっとやばそうな相手だ。私なんか一撃で肉塊になるだろう。


「どうやら指揮を執っているのは中央の小娘らしく」

「あの小娘か!」


 え、私? 思わず自分の顔を指差してしまう。

 こらこらそこのモブ悪魔、余計な事を吹き込まないでもらえるかな? 私の命が風前の灯になっちゃったじゃないの。


「忌々しい小娘が! 騒がせた罰として、たっぷりと泣き叫ばせて嬲り殺してやる。死んだ後は死体玩具の着せ替え人形として永遠に遊んでくれるわ」


「わ、私の身体を使って着せ替えごっこ!?」


 やだ、何このおっさん、いい歳してお人形遊びは卒業してはどうかな。しかも乙女の身体で着せ替えだと?


「うむ、手足の付け替えや頭の付け替えなど、なかなか楽しいのでな。パーツも集めているのだ、名も無き人間の小娘よ」


 そっちの着せ替えかよ! 私はシリーズもののフィギュアかい! 知らない内に増殖して沼にすんぞ!


「ず、随分悪趣味ね、ちょっとドン引きしたんだけど。それに私だって名前くらいあるし、私の名前聞きたい?」


「ふん、どうでもよいわ知りたくもない。お前みたいなたかが人間の小娘の名前だろうが、お前にドン引きされようが知った事ではないわ、はっはっは! 我らにとって現在やばいのは一人しかおらんからな、光姫だ」


 光姫を探し出して連れて来んぞこのやろう。どこにいるんだか誰だかさっぱりわからないけど。

 恐れている情報を平気で喋るのは、私たちを生かして帰さないって事だよね。


「じゃあもう名前教えてあげない。何のキャラか名前もよくわからないフィギュアで微妙な感じになっていればいいわよ」

「うむ、い、一応名前聞いておこうかな、どうせモブ子とかモブ美とかなんだろ」


 何そのセンスの欠片も無いネーミングは!

 頭にモブ付けとけばいいだろうみたいな、これだから洗練されていない輩は嫌なのよ。


「何だかお前にだけは言われたくないわという、悔しい気持ちが発生したのだが気のせいか」


「大丈夫ですか!」


 ロリっ娘ちゃんが大慌てで私の所まで戻って来てくれた。

 だめだよ、あなたまで巻き込まれてしまうよ。


「あなたは私が守ります! リンナファナさん!」

「リンナファナだと――!」


 あ、悪魔公爵が面白い顔になった。私の村の名物人形ハニワ君だ。


「お、おい小娘、まさかお前リンナファナと言う名前じゃないだろうな、ソンナアホナの聞き間違いだよな」

「はいリンナファナですが、そんな阿呆な聞き間違いではありませんよ」


「公爵閣下、どうしましょう。こいつもう殺してしまいましょうか? 契約には無いけど」

「待て待て待てーい!」


 近衛兵の言葉に顔を真っ青にした悪魔公爵。

 いや顔赤いから青くなったのかどうかさっぱりわからないけど。


「あわわわわわ」


 どうしたのこのおっさん。

 突然腰が抜けてお漏らししそうな感じになっちゃったけど、お手洗いなら行ってきなよ?


 次回 「悪魔がポンコツになった」


 リン、悪魔公爵を泣かす

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[一言] 成程、名前の元ネタはこれだったのか
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