第54話 私の扱いが酷すぎて泣けるんですけど
約束の時間ぴったりに悪魔族がやってきた。さすが契約や約束事はキッチリキッカリ守る種族だけはあるようだ。
やって来た悪魔は二体だ。
「今日の取引はその二匹か」
そう言われた兵士に扮したモブ男君が、私とロリっ娘ちゃんを悪魔に引き渡すと、悪魔はじっとモブ男君を見つめている。偽物なのがバレたか。
「どうしたバルキュモーレ」
「いつもの兵士と違うようだが」
しまったな、公爵から兵士も借りて来るべきだったか。
でも毎回こいつが子供たちを引き渡してたのかと思ったら、イライラしそうだったから身内だけにしたのよね。
「そうか? いつものモブ兵にしか見えんが」
「うむ良く見たら、目も二個ついてるし鼻も口も一個だな。いつものモブ兵だったわ」
認識大雑把ぁ! それで違いなんかよくわかったわね!
「それはともかく、おいこれはどう言う事だ。一匹は合格だが、もう一匹はなんだこれ? どう見ても四つは歳食ってるよな」
そっちも大雑把にしとけよ! こまけーんだよ!
「おいお前、歳はいくつだ」
「十四にございます」
「はああああん? 十四の女が腹巻して寝るのかよ!」
「してねーわ!」
「まあまあバルキュモーレ、今回は不作だったんだろう」
「仕方ねえなあ、まあ家畜のエサには使えるか」
また家畜のエサ扱いよ! なんなのよ! 十七歳っていったらもっと賞賛されてしかるべき年齢なんじゃないのかな!
「この人の可愛さがわからないなんて、あなたたち悪魔の目は腐ってるんじゃないですか、ばーかばーか」
ロリっ娘ちゃん、もうやめてあげて、悪魔族の二人が何故か死にそうになってるよ。
「とにかくさっさと連れて帰ろうぜ、何だかさっきから身体の調子が悪くてな」
「お前もか、我もさっきから強力な瘴気に中てられているような気分なんだ。おい小娘共、行くぞ」
悪魔族二体はそれぞれ私とロリっ娘ちゃんを抱えて飛び上がった。ここからしばらく空の旅になるらしい。
ちょっと文句言っていいかしら? ロリっ娘ちゃんはお姫様抱っこなのはいいとして、私は服の襟を掴まれてぶら下げられてるだけなんですけど! これ抱えてすらいないよね!
「せめて小脇に抱えるとかにしない? 首が締まるぅ」
「うるせぇな、何かお前に触りたくないんだよ! なんだろうこの触ったら死ぬ的な感覚は、お前風呂入ったか? バッチイんじゃないのか?」
私は病原菌か! ちゃんと公爵家でお風呂呼ばれて、ロリっ娘ちゃんや公爵ご令嬢ちゃんたちとキャッキャうふふのイベントをこなして来たわよ!
あーあれは正に至福のひと時でした。
ああ思い出す――ロリっ娘ちゃんは年齢のわりに育ってて、柔らかいお胸が――
「ほらほら! 砦が見えてきましたよ! あそこが悪魔族の拠点でしょうか! ほら! よく見て!」
私の至福の回想を途中で強制的にぶった切ってきたロリっ娘ちゃんが、前方を指差している。
「んー? 何も見えないけど? 森しかないよ? さてさっきの回想の続きを、ああ、あのお風呂での――」
「ほら、ずーっと、ずーっと向こう! あの砂粒かな? みたいなやつ!」
見えねーわよ! 遠すぎるわ!
さてお風呂でのロリっ娘ちゃんの――
「じゃ、しりとりしましょう! ドラゴン!」
「いきなり終わってる!」
「ゴブリン!」
「ラフレロン!」
「レプラコーン!」
何か楽しいなこれ!
結局私は真っ赤になったロリっ娘ちゃんの完璧な防御戦術に、妄想もままならないままに砦へと運ばれたのだった。
砦に到着すると私たちは降ろされた。
ロリっ娘ちゃんはそっと降ろされたのに対して、私は放り投げられたんですけど! 『ベチョっ』て乙女が着地した音としては不合格よね!
なんだかヒロインの実力の差を見せ付けられた気分ながら、気を取り直して周りを見回す。
森の中に埋もれるようにひっそりと佇む、不気味な建造物がそこにあった。あちこちに掘り込まれた異形な像が来る者を拒んでいるようだ。
「ここがあなたたちの拠点なの?」
「おうよ、我らの呪い城だ。そしてお前たちの命の終着点だ」
間違いないここだ。
(出撃よーい)
(発艦準備よし、利根四号機出ます)
ヒソヒソと言葉を交わして、利根四号ちゃんが飛び立って行く。妖精の子はもの凄い速度で矢のように飛んで行った。
家畜のエサの私には誰も興味を示していないみたいで、目撃者はいなかった模様である。家畜のエサで良かった点が一個だけあったのだ、ああ、悲しい。
門が開き、私たちは砦の中に進まされた。
迎えた悪魔族たちがなんだか嫌そうな顔になっている、心なしか異形な像の顔も歪んでいるようだ。
「我なんだか眩しくて目が眩むんだけど」
「誰だ、こっそり神殿とか持ち込んでないだろうな」
「うう気持ち悪い、吐きそう」
「異臭がする、くせえよ」
「ほ、ほらお前が風呂に入って来ないから、皆気分が悪くなってるじゃないか」
「だから入って来たってば! キャッキャうふふもやってきたわよ! また私たちにしりとりさせる気!?」
「うむ、それは困るな。我たちお前たちを運びながら、謎の一発終了しりとりにつっこみたくて仕方なかったんだ」
そんな愚痴を言う悪魔に連れられて、私たちは広間の中央にやってきた。そこには悪魔が大勢揃っている。
広間に連れて来られた私たちを悪魔族たちが遠巻きに眺めている。
男性たちが美少女を取り囲んでざわざわするのは仕方無い、でもそのざわざわの内容が問題なのよね。
「なんであんなの連れて来ちゃったのかなあ」
「我は昔に二十歳の女を食ったけど、別に普通だったぞ、あいつなんなんだ?」
「ゲテモノ食いの我も三十女を食ったけど何とも無かった、でもあいつはアカン、アカンやつや」
「一匹はよさげなのに、もう一匹はなんだ。抱き合わせ販売で不人気商品を買わされた気分だ」
もうやめてあげて、私が可哀想だからやめてあげて。
「さっさと家畜に食わせてしまおうぜ」
「うむ、さっさと処分したほうが良いな」
「このままでは我らが不幸になる」
「捨てるよりましか」
そんなの食べさせられる家畜の身にもなってあげなさいよ!
悪魔族によって連れて来られたのは、頭が三つのくそでかい犬のバケモノだった。
ケルベロス――!
よりにもよって地獄の番犬と呼ばれている魔獣である。剣や弓矢のような物理攻撃は効かず、魔法耐性も強い。
あらゆる神事に精通した強力な神官や、伝説級の聖女くらいじゃないと倒せないと恐れられている凶悪モンスターなのだ。
ケルベロスの三つの頭が私に近づいてきて、その六つの目が私を見据えている。その大きな口は、私なんか一口でペロリだ。
うわー食べられる!
「リン、お供するよ」
私の胸元で、フィギュアちゃんが真剣な眼差しでトゲを握り締めている。
この戦法、キャットドラゴンには使う事は無く不発に終わったけど、いよいよここで出番となるのか。私が食べられた後はこの子に全てを託すのだ。
フィ、フィギュアちゃん、後は任せたよ。
ケルベロスが唸り声をあげた。
次回 「悪魔が怖いのは光姫らしい」
リン、悪魔族の砦のボスをあわわわさせる




