第52話 公爵が突然ポンコツ化したんだけど
急に慌てだした公爵。
「勇者とパーティーを組んでいたリンナファナ嬢か?」
「はあ、そうですけど。クビになったリンナファナですけど。ええクビになりましたとも、嫌な事を思い出させましたね? 怒りますよ?」
「怒るのダメぜったい。はーよしよし、可愛いなー実にお美しい。ほら、さっきまでのはお茶目なおっさんのジョークだから、気にしちゃだめだぞ。飴ちゃんでも食べるかな?」
いきなり公爵のおっさんに頭を撫でられて、私もロリっ娘ちゃんもドン引きなんですけど。
何故二人揃って飴の棒を握らされたのか理解不能で、ロリっ娘ちゃんも頭がパンクしてそう。というかどこから出したこのペロペロキャンディは、毒かな?
「大丈夫だよ、毒じゃなかったよリン」
いつの間にかフィギュアちゃんが毒味してた。私を暗殺するのは不可能ね。
「このおっさん、なんか気持ち悪いからグサーって刺しちゃっていいですか?」
だめだよロリっ娘ちゃん。気持ち悪い生物にも魂はあるんだから。
少女に飴を握らせてくる事案として、不審者情報に載せるだけにしよう。
「何だかえらい言われようの気がするが……わしの事を見損なったりしてないよな?」
「はあ、うん? 心の底から見損なってますけど」
その時突然大きな爆発音と共に広間全体がビリビリと振動し、広間にいた兵士たちが騒然とした。
そこへ慌てた使用人らしき人たちが飛んでくる。
「何事だ!」
「申し訳ありません旦那様! 厨房から火災発生です、火を消そうとした者が水と間違えて油を!」
「旦那様! 厨房の一部が木っ端微塵に吹き飛びました!」
「お夜食に用意していたハンバーグが跡形もなく!」
「あああああ――もうポンコツ化が始まっとるわああ――」
え? 何、何が起こってるの?
ハンバーグが消失なんて大事件が起こっているじゃないのよ!
「公爵閣下! ドラゴンが襲来して、閣下の寝室からベッドをかっぱらって行きました!」
あらあら、子供たちの装備新調かしら。
「暴れ牛の集団が城門を破壊して進んできます!」
「西の塔がポッキリ折れました!」
「うわー寄りかかったら壁が抜けたあー」
「くしゃみをしたらシャンデリアが落ちて来たー」
「王都で買ってきた美術品の壷が呪われてるー」
「酒が水で薄まってるー」
「報告します! 閣下の集められていた秘蔵のコレクションの品々が、全て偽物だと判明しました!」
「うわー終わったーわしはもう終わったー! 最後のはショックすぎて死にたくなったわー」
何この城、ポンコツすぎもいいところよね! 手抜き工事でもしてたの?
公爵も落ち着けよ! 偽物も本物だと思えば幸せなんだから。
ほら、この私の最初に持ってたほっかむりも、ブランド品のルイ・パチトンと見せかけてルイ・パチモンだしこまけーこたぁいいのよ。
「お父様、一体これは何の騒ぎですか?」
「ああ、アイリース、だめだ来ちゃいかん、お部屋に戻りなさい。ここは今、悲しみが溢れているのだ」
見れば姿を現したのは七歳くらいの女の子である。会話から公爵家ご令嬢なのだろう。
修羅場への愛娘登場に、公爵のおろおろぶりが酷い、実に酷い。
「リン、この子がお誕生日だった子だよ」
「あ! ジョセフィアンヌマルフェーネ! もうどこに行ってたの、ほらこっちへいらっしゃい」
ああ、そんな名前を付けられたのね、フィギュアちゃん。えーと、じょふぇぬあん? だめだもう忘れた。
「ごめんね、私はリンのお人形だから、もう一緒に遊べないんだよ」
「えー、そんな大きなお姉さんなのに! もうお人形遊びは卒業してはどうかしら!」
悲しい、とても悲しい。幼女から向けられるその哀れむ目はやめて欲しい。
というか普通に会話してるけどどういう事だ。
「お嬢様、お友達ならご紹介差し上げますわよ。この城にはお嬢様くらいの子供が何人かいますからね」
「え? どこに? 子供は私と歳の離れたお姉様とお兄様くらいしかいないけど。それにお二人とも、もう子供ではないわね」
「おお、おいリンナファナ嬢。まさか」
「今からご一緒にお城の地下に向かいましょう、お父上が案内してくださいます」
私の言葉に公爵は大慌てだ。そりゃ娘に自分と同じくらいの子供を売り飛ばしてたなんて、父親としては知られたくないもんね。
「待て、待ってくれ。まさか娘も地下の子供たちと一緒に……そんな」
ええ、一緒に遊ばせるつもりですけど?
平民も貴族も遊べば仲良くなれるかも知れないじゃない。
「私からしたら子供たちは皆平等ですけど」
「そりゃあなたのような存在からしたら、国の人間なんて皆一緒くたでしょうけど」
公爵が突然私にひれ伏した。
「どーかお願いします。子供たちは解放する、あの連中との取引はもうやめる、だから娘を売り飛ばすのだけはやめてくれえ、年老いてからの娘は可愛くてしかたないんだああ!」
どこからそんな話になったぁ!
ロリっ娘ちゃんとフィギュアちゃんがジト目でこちらを見てる。違うから! 私が悪魔みたいな事になってるけど、違うから!
その後地下牢から出された子供は三人、八歳の男の子一人に七歳の女の子二人。
彼らはなんと地下牢から出るのを嫌がった。何もしなくてもご飯が自動的に出てくるサービスは、貧民街では考えられないからだ。
彼らは公爵家令嬢の従者兼遊び相手として雇われる事になり、全員がそれを快諾した。
「こいつら洗練されてなくてダサそうだけど、お父様のご命令なら遊び相手になってあげてもよくてよ」
「アイリースが嫌なら別に無理にとは言わんが」
「いいですよね? 閣下」
「はは、仰せのままに」
ふふ、やっぱり世間一般の父親というのは、娘のお願いに弱いという定説は当たってるのね。
「今のはそうなのかなあ?」
フィギュアちゃんは父親がいないからわからないのね、私もいないけど。
早速子供たちは四人で追いかけっこを始めている。
公爵のご令嬢ちゃんも、なんだかんだ言っても楽しそうで良かった。
「楽しそう! ねえリン、私も遊んできていい?」
「いや、フィギュアちゃんがあの中に混ざったら、たぶん踏み潰されるわよ?」
子供たちを拉致してくる係だった末端の組織も無事解体された。
結局王子の仕事は無くなったわけである。
実は最初から全く必要無かった王子とは一体。
しかしこれで解決したわけではない。
ロリっ娘ちゃんはまだ俯いたままなのだ。
「ここの地下牢にはミーナスとジーニーはいませんでした……」
「元気出して。悪魔族の拠点に一緒に助けに行こう」
次は悪魔族ん所にカチコミに行ってやる。
次回 「モブパーティーの移動は風呂敷包みで」
リン、知り合いの子に再会して仲間に誘う




