表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/139

第49話 腕なんかくれてやんよ!


 まずは公爵家に囚われているかも知れない子供たちの救出と、できれば売買ルートを解体したい。


 でも貴族が関わっている以上は、一介の野良パーティーである私たちではとてもできるものではない。正直手に余るのだ。


 ドラゴンと一緒に公爵家を襲って壊滅させたのでは、無関係で余計な人まで犠牲になりそうだし、貴族に手を出してはいくらドラゴンとはいえ無事では済まないだろう。


 恐らく王国軍との戦いになって、この山に攻め込まれるのがオチである。それでは子供たちの楽園が壊滅してしまうのだ。


 悪魔族との子供たち売買ルートに他にどのような組織が関わっているかもわからないのに、公爵だけを倒してこちらが全滅していたのではお話にならないのだ。


 私たちは子供たちを救出した後は、悪魔族の方に殴り込みに行く。そして貴族の売買ルート潰しには、それができる相応しい相手に動いてもらうしかない。


 誰がいるだろうか。

 貴族相手でも全く引けをとらない、いやむしろ貴族ですら凌駕する権力があれば完璧なのだ。


 誰がいるだろうか。

 光姫様とやらを探し出してそいつにシメてもらおうか。でもどこにいるかもわからないのに、当ても無い捜索を時間が許してはくれない。そもそも光姫って誰なんだよ。


 誰がいるだろうか。


 わかっているのよ……そんなの王族しかいないじゃないの、わかっているのよ。


 はあ――っ。

 私の片腕ともお別れかあ。


 あの王子に直談判しに行くしかない。


 王都まで戻っている時間は無いので、この辺をうろちょろしている王族といえば、やたらと活動範囲の広いあの王子しかいないんだよね。

 とりあえず地中に埋める処刑は少し待ってもらって、片腕だけ斬らせてあげよう。


 私だけが殺されて、それで終わるかも知れない。

 でもやってみるしかないのよね、どーせ私がいたって戦いの役には立たないので、最悪私無しでも悪魔族との戦いは任せられるだろう。


 あー逃げたい、逃げたい。でも立ち向かうんだ!



 私はコッカーの町に戻って来ている。

 この町を出た時はもう戻る事は無いと思っていたのに、ここにいる。今日はモブ男君たちと別行動だ。


 さて王子はどこだ、とりあえずおパンツ展示会の周りをうろちょろしていれば、向こうから発見してくれるだろう。

 さあ来い!


 ヘイ! 来いよ王子! 来やがれ。ホント来てくださいよう。


 五時間うろちょろしてみた、王子は来ない。どこにいるのよ!

 最後の方はうろちょろするのもめんどくさくなって、おパンツ様の横で仁王立ちだわよ!


 私も関係者かと思われて、おパンツ様と一緒に拝まれたわよ!

 関係ない! 無関係だから拝むなあ!


 いないのにもかかわらず乙女にこんな心理的ダメージを与えてくるとは、王子は恐ろしい。無駄に私にホラーと呼ばれていないだけはあるわね。


「お嬢ちゃん、王子様に会いたいのかい? ここにいると毎回カラスやハトの爆撃を受けるから、王子様は出て来なくなったねえ」

「カラスから逃げる時に、用水路に落ちてそのまま流されてたな」

「溝に片足突っ込んで、それを洗おうと川に行ってそのまま流されてたな」

「わしが見た時もなんやかんやあって、そのまま流されてたな」


 何やってんのよあのポンコツ王子は。流されてばっかじゃん、最後なんて何? 何に流されたの?

 肝心な時にいないとか使えないにも程がある。


 会いたくない時はいつの間にか後ろに忍び寄っているくせに、こういう時は出てこない。

 じらしか、これがイケメンのじらしのテクニックというやつか。乙女はこうしてやきもきさせられるのか。


 今ここで出会ったら、駆け寄って抱き着く自信あるわ。躊躇なく頭から顔面に飛びつけるわよ。



 夕方になって歓楽街に行ってみる事にした、王子を探しているわけではなく、お腹が空いたからご飯を食べに来たのだ。

 五時間も無駄にさせられたのだ、ここは一発うめーもんでもキメて腹をシメとくか。


「リン、おっさんみたいになってるよ」

「何食べよっかフィギュアちゃん」


「ねえリンほら見て。女の人数人にちやほやされて、だらしない顔の男の人がいるよ。腕なんか組んだりしてさ、ああいう大人になっちゃだめだよね」


 王子だった。


 こいつこんな所でおっぱいに流されていやがった。


 私は隣の女性のおっぱいを見ている王子を、ジト目で見つめている。

 王子はおっぱいから目を離して私を見て、またおっぱいを見て私をすぐに見た。二度見というやつだ。


「リ、リンナファナ嬢! 違う! これは違うんだ!」


 何が違うのかサッパリわからない。でもどうでもいいのよそんな事は。


「殿下、お話があります」

「そうか、遂に受けてくれるんですね!」


 処刑の話なら後でごゆっくりと。


 べちょべちょべちょ。


「うおおおお! 広場ではなくこんな所でもか!」

「殿下、お気を確かに! あのカラス共めいい加減にしろよ!」


 私はカラスの爆撃隊を敬礼で見送った。今日も実にいい仕事をしたよキミたち。


 すぐに馬車が整えられ、王族が借り上げているという別荘に到着する。さすがに道端でするような話でもないので私はついて行く事にしたのだ。


 謁見の間に通され、私は王子と対面した。出入り口に兵士は立っているものの、身体検査も何もないとは舐められたものね。私の非力さがバレまくっている証拠だろう。


「勝手な申し出なのはわかっています、でも私の話を聞いていただきたいのです殿下」

「どのようなお話でしょうか」


 私は何故かワクワクしている風の王子に、今回の事件の説明をする。

 町の貧民の子供たちが裏取引で売買されている事、それにはどうやらこの町の公爵が絡んでいるらしいと言う事、カラスの爆撃隊は三機編隊だった事を伝えた。


 ドラゴンには関わって欲しくないので説明を省いた。

 悪魔族が絡んでいる事も省いた。ドラゴンから聞きました、などととても言えないので真相はそちらで勝手に暴いて欲しい。どーせ悪魔側にはこちらでカチこみに行くんだし。


 私が話し終えた後、王子が意外そうな顔をして立っている。


「話と言うのはそれだけですか?」

「え、ええ」


「何かのおねだりじゃなくて?」


 ある意味おねだりなんですけど。


 王子はポカーンとした顔で私に問う。それはとんでもない返しだった。


「それがどうかしたのですか?」

「はい?」


「貴族の子供ならまだしも、平民の子ですよね。ましてや貧民の孤児なんて別にどうでもいいでしょう? 新しい場所に行くだけの話ではないのですか。そんな者の為に王家としては無駄に公爵家と争う必要を感じませんが」


 だめだこいつ。どこまで行っても王侯貴族だ。脳と思考回路が王侯貴族で出来上がっているのだ。

 私も平民で孤児なんだけど。

 民が国の源ではないのか。


 そんな事言っても理解できやしない、この人たちはそういう風に育てられて、世間もそれを認めているのだ。


 だから二百年前に国を救った賢者様を、自分たちの権力の邪魔になったら用済みだと平気で処刑ができるのだ。王族がそれを見て笑えと言ったら、民は従って笑うしかないのだ。


 くやしい……けど、私たち雑草にはどうする事もできない。


「そんな事よりもリンナファナ嬢」

「私はあなたに心の底から失望しました」


「今何て、し、失望?」

「あなたに僅かながらも頼ろうとした私がバカでした。でもね殿下、それでも私は殿下にすがって、子供たちを売りさばくルートをあなたに潰してもらうしかないのです。どのような方法を使ってでも!」


 懐から短刀を抜き出す。

 身体検査されても大丈夫なように仕舞い込んであったけど、何故か彼らは私に触る事はしなかった。まあ、殿方は乙女の胸なんか触れないよね。


 間違えてフィギュアちゃんを出しちゃった。

 とりあえず仕舞って、今度こそ短刀を取り出す。


「な、何をするのですリンナファナ嬢」


 私は短刀を構えて王子に向き合う。

 王子がうろたえている、私が失望と言った時にうろたえたみたいだけど気のせいだろうか。


「殿下!」


 叫んだ兵士が飛んでくる前に事を成さなければいけない。


 いよいよお別れだね私の華奢な左腕、今までありがとう。


 次回 「フィギュアちゃん、ホラー人形になる」


 リン、やらかす

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ