第46話 ドラゴンの山で食われそうになる
次々とモンスターを狩りながら私たちは進んだ。ロリっ娘ちゃんもナックル付きグローブで魔物をボコっていく。
「凄いですね、さすがリンナファナさんのパーティーですね」
「うーん、ここのモンスターはみんなドジっこばかりなんじゃないかな。さっきから石に躓いて転んだり、私たちに襲い掛かった勢いで岩に激突したりしてるもん、そこを皆でボコボコにしてるだけだよ?」
「私が唯一知ってるパーティーは勇者パーティーでしたけど、逆に転がったりしてましたからねえ」
アレンタ君、すっかりポンコツ病にかかっちゃって心配だなあ。
出てきてはヘマをする〝うっかりモンスター〟をボコりながら中腹まで進むと、とんでも無いヤツと遭遇してしまった。
頭には羊のような角、背中には蝙蝠のような翼、そして槍のような尾が生えた真っ赤な人間。
「何こいつ、気持ち悪っ! これもしかして魔族?」
「確か魔族は褐色の肌だったと思う、違うんじゃないかな」
「我を見ていきなり気持ち悪いとか、面白い人間共だな。我が魔族? ははははは! 我は悪魔だ! 笑わせてくれたお礼に遊んでやるよ、無様に死ね」
喋ったぁ! こいつ喋るぞ!
ドラゴンの山に来たら普通にドラゴンに出くわすかと思いきや、ろくでもないのと出くわしてしまった。
あんたは悪魔族の山にいなさいよ!
「そんな山は知らんぞ」
悪魔族って言ったらかなり危険な種族だよね、上位の冒険者でも相手にならないって聞いたけど戦って無事に済むんだろうか。済むわけないよね。
「それじゃそういうわけで、お疲れさまでした。さあ帰りましょうか」
「逃がすわけがないだろう人間共、貴様らはこの山の養分として朽ち果てるのだ」
「リンは下がって! うおおおおお!」
「あ、待って!」
止める間もなく突撃したモブ男君たちだが、一瞬で吹き飛ばされて転がってきた。
慌てて駆け寄って初等治癒魔法をかける。
「大丈夫みんな!」
「くそ、こいつとんでもない強さだよ、さすが悪魔だ」
「ほほう、ちょうどいい小娘共がいるではないか、ここまで出張してきた甲斐があったというものだな。一匹はちと歳をとり過ぎか? まあいいか、何かに使えるだろう」
「もしかして歳をとり過ぎの一匹って私の事かしら? ピチピチの十七歳を捕まえて面白い事を言うわねこの赤い人。でも花の乙女の前に出るのなら、せめて上半身に何か着て頂けないかしら」
「そうですよとても失礼です、それに降ろしてください!」
「随分余裕だな小娘共」
悪魔に説教している私とロリっ娘ちゃんは、現在悪魔に服の襟を掴まれてぶら下げられている状態である。
捕まったショックで現実逃避をしているのだ。
『やばいよー悪魔ヤダー、ギャー!』
本当はこう叫びたいのだ。
「リ、リン! コムギちゃん!」
「姫を姫質に取られては手も足も出ないブヒ」
「間違えて矢がリンさんの肋骨に当たる可能性も微粒子レベルで」
モブ男君たちはアッサリ捕まった私たちのせいで攻撃ができないでいる。
姫質ってなんですか? いやそれよりもメガネ君、クロスボウを向けるのやめて!
私に当たる可能性が微粒子どころか、思いっきり私に照準が合っている気がするんだけど!
わかってるよね? 矢を当てる標的はぶら下げられている骨じゃなくて、ぶら下げている方の骨だからね?
骨と骨の間を通そうとか考えないでね、そこには私のお肉があるんだからね?
つーか説明するのもややこしいから、とっととメガネを普通のに変えろ!
「もう! この赤いの! リンをはなせー」
「なんだこのちっこいのは? 妖精か? フッ!」
「フィギュアちゃん!」
私を掴んだ悪魔の腕をポカポカしていたフィギュアちゃんが、蚊でも追い払われるように息で吹き飛ばされて行った。
くるくる飛んで行ったフィギュアちゃんは、モブ太君の胸ポケットにスポンと収まる。
「美味そうなガキ共だ」
私とロリっ娘ちゃんを眺めながら悪魔が舌なめずりをして、なんだかおっそろしい事を口にしている。
ど、どっちの意味で?
わ、私たちが可愛くて魅力的で、ちょっとエロ的な意味だよね?
お、お肉の味じゃないよね?
『ぐうう』
えーと悪魔さん? どうしてお腹を鳴らしたのかな?
「一匹はさっき十七と言ったか、もう一匹のガキは?」
「ガ、ガキじゃありません、十三のレディーです! 降ろして下さい!」
ロリっ娘ちゃんの渾身の一撃が炸裂した!
「はっはっは、何かしたのか小娘。我が鉄壁の悪魔防御力の前には、お前ら小娘の攻撃などハエが止まったのかな? くらいにしか思えぬわ」
なんだと! まるで効かないだと! 元勇者パーティーメンバーの攻撃なのよ!
なんだよ悪魔防御力って、名前はダサいのに無駄に強力よね!
「十三のガキは合格だな、十七は……家畜のエサくらいにはなるだろう」
私を食べても美味しくないわよ、ってなんだって? 家畜のエサ?
ちょっと! 差別反対! たった四歳差でそれはない――四歳差か、でかいわね!
「どうしようリンナファナさん、私たち悪魔に食べられてしまうんですか」
ロリっ娘ちゃんが怯えている。私なんて家畜のエサですよ。
その家畜を悪魔が食べるのなら、結局悪魔のお腹には入れるのかな?
「なんか眩暈がするな、近くに神殿か何かろくでもないものがあるのか? それとも我が空腹すぎるのか、こいつら持ってとっとと帰るとするか」
これはもうダメかも、ハラペコ悪魔の前にご馳走があるのだ。
ロリっ娘ちゃんなんて、私が食べちゃいたいくらい可愛いもの。
「ごめんなさいリンナファナさん、私がこの山に来たいなんて言ったばっかりに」
謝るロリっ娘ちゃんだけでも逃がしてあげたいけど、もうどうしようもないじゃないの。
こんな悪魔を一体誰がぶっ飛ばせるというんだ。
元勇者パーティーメンバーの攻撃が通用しないのよ、もうお手上げじゃん。
いくら元勇者パーティーメンバーって言っても、一人の力では限界があるのよ。せめてもう一人は必要だったのよ、もう一人いれば。
ん? 〝元勇者パーティーメンバー〟という言葉に何故か懐かしい覚えがあるわね、気のせいかしら。
あらやだ、よく見たらこの悪魔族の人、赤い身体だけどなかなかいい腹筋をしているじゃないの。
乙女としてはここは恥じらいながらも、殿方の腹筋をこっそり触っておくべきところではないのかしら。
こんなチャンスはめったに訪れないわね、どれご相伴に預かって。
「うおお! 何だ、我の悪魔防御力に何かが干渉している!」
人差し指でツンとするだけでやめておいた。
さすがに人様のお腹をわっしゃわっしゃするのは、あと三十年は経たないと勇気が出ないのだ。
「まったく大人しくしてろよガキ共。暴れたらこの場でシメるからな?」
「はあん? シメるだと? やってみろよこのクソ悪魔が、てめーの赤は目に痛ぇーんだよ!」
「な、なんだこのガキ、急に――ゴボゥア!」
喋ってる途中で腹筋に、ロリっ娘ちゃんのナックルパンチの見事なクリティカルヒットである。
「死ね! ぺっ」
すげー! 元勇者パーティーメンバーすげー!
悪魔族をノックアウトしたよ!
ロリっ娘ちゃんに対して、叩くとかシメるとか絶対に言わないでおこう。まあ女の子相手に間違ってもそんな事言わないけど。
むしろ言われた方がご褒美だよね?
次回 「私を食べても美味しくないですよ?」
リン、ドラゴンに攫われる




