第44話 ある日森の中その子に出会った
次の日私たちは、早朝にそそくさとこのなんとかの町から逃亡した。
さらば、なんとかの町。もう訪れる事は無いだろう。
「コッカーの町だね、リン」
うわびっくりした。
自分一人だと思っていたら、何も無い空間からいきなり声をかけられた気分だ。
私はほっかむりスタイルでコソコソ動いていたのだが、パーティーの皆も私に合わせてコソコソしていたのだからたまったものではない。
普段から気配が消えているような人たちが、自らの意思で気配を消したのだ。最強である。
その不感知性能は、臆病な小鳥が皆の頭の上で休憩したほどである。
「これ、お昼のご飯にする?」
苦笑したモブ男君に聞かれたが、可哀想なので小鳥にはしたいようにさせておいた。
小鳥をご飯にしなくても私たちにはお芋と大根があるのだ。
それに例えうんこをされても、私の頭じゃないので平気である。
「いや僕は平気じゃないけど」
六時間くらい逃亡して、道の脇の森に入りお昼ご飯の仕度をする。
因みに小鳥はフィギュアちゃんによって餌付けに成功し、マートルと名付けられた後で先程元気に飛び立って行った。
お芋と大根があるからイラネって言ってるのに、またもやお芋を掘ってきた面々。
モブ男君はいいのよね、リーダーはお肉を取ってきてくれるから。野菜だけじゃなくてお肉はやっぱり摂取したいもんね。
モブ太君は山のようにお芋を抱えてるよ、確かに感謝してお芋を頂くとは言ったけどさ、食べきれないよそれ。
さては私や皆を太らせて仲間にする気だな、なんて恐ろしい野望を抱いているのか。
それからメガネ君、なんで怪しそうな色合いのキノコを採って来るのかな。
赤・青・黄・紫・緑のストライプを見て、どうしてそれを食べようと思えるのか。捨ててください。
そしてモブ男君が獲って来た獲物とは――それはそれは立派な、可愛い、一人の少女であった。
「あら色んな意味で美味しそう。早速皮を、いえ服を剥いて。って違うわ!」
「姫のノリツッコミが炸裂したブヒ」
「ふむふむ、今日のリンさんは『って違うわ!』を記録、気温も二度低下と」
やめてやめて! 私の寒い一人ノリツッコミをノートに記載するのはやめて!
それに二度も下がってないよね? 一度くらいでしょ?
「くしゅん!」
「ごめんねフィギュアちゃん、私のせいで寒かったから風邪ひいちゃったね」
ハンカチでフィギュアちゃんの鼻を拭いてやる。
「ごめんなさい、私がお昼ご飯のお誘いにホイホイ乗ったばっかりに、皆さんの中で大災害を引き起こしてしまって……」
連れて来られた女の子が申し訳なさそうに謝って来た!
少女に謝られるとますます私が痛々しくなるんですけど。あれ、この娘見た事あるよ。
「森の中に女の子が一人でいたから、連れて来たんだよ」
「コムギといいます。本日は昼食にお招きいただいてありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたその女の子は、ロリっ娘ちゃんだ!
この子、勇者パーティーの新メンバーじゃないの。確か埋められて売られたはず、上手く地中から脱出できたんだね。
どのように脱出したのか、その秘術を是非とも今後の為にも伝授してもらわないといけない。師匠と呼んでもいいかな。
それにしても私のファンだと言っていたのに、私に気がつかないなんてちょっとショックだ。
きっとパーティーとして行動している内に、私もモブ化しているに違いない。その内私の頭にも小鳥が留まるのだろうか。
これなら泥棒スタイルでコソコソする必要ないかもね。違う違う泥棒スタイルじゃなくて乙女のオシャレスタイルだった。
ん? 泥棒スタイル?
私ほっかむりしたまんまだったわ。
「リンナファナさんじゃないですか! お久しぶりです! リンナファナさんのパーティーだったのですね、全然気が付きませんでした!」
ほっかむりを取ったら即認識された。
「よかったー。誘われて来てみたら唐草模様の盗賊の首領みたいなのがいるし、昼食のお誘いに見せかけて人攫いに遭ったのかと思いましたよ。盗賊の首領じゃなくてリンナファナさんだったんだ」
「ごめんね、そんな怖い思いをさせて」
「危うく全滅させるところでした」
怖い思いをさせられた。
早速皆で火を焚いてお昼ご飯になった。お肉はロリっ娘ちゃんが獲って来ていた野生のイノシシである。
楽しい昼食会だ。
なにせフィギュアちゃん以外にも女の子がいるのである、可愛い女子トークも弾むというものである。
「勇者パーティーの連中は、ホント、ブチ殺してやろうかと思いましたよ」
う、うん、可愛い女子トークが弾む。
「ねえ聞いてくださいよリンナファナさん。あいつら毎回モンスターにボッコボコにされた挙句に、私を置いてさっさと逃亡するんですよ。私がどれだけ危険な目に遭った事か」
「ご、ごめんね」
勇者の幼馴染として謝っておいた方がいいのだろう。
「リンナファナさんが謝る必要無いですよ、最後はクビです、ポイっです」
やっぱりか、私みたいにこんな少女までクビにして捨てやがったのかあいつらは。
「ごめんなさい、クビにされて辛かったでしょ私もわかるよ。でも迂闊にざまぁしちゃだめだよ、あいつら根に持って埋めようと追いかけてくるから」
「ほえ? あはは、あいつらを私がクビにしたんですよ。あんなポンコツ共と一緒にいたら、命がいくつあっても足りませんからね!」
うわー強いなあこの子、うん実にたくましい。
私なんかなすすべなくて、地雷を設置したり高級酒や壷をかっぱらって売るくらいの、か弱い乙女的な行動しか取れなかったのに。
「でもあいつらと一緒に行動していた時は酷い目に遭いまくりだったんですけど、別れた途端に運が向いてきましたね、こうやってリンナファナさんと会えましたし」
可愛い女の子にそう言われるとちょっと照れる。
私たちって金髪に銀髪でいいコンビになれそう。
そういえば私の事を慕ってくれているこの子には、聞いてみたい事があったんだ。
「ねえ、あなたはどうして私の事が好きなの? やっぱり貫禄のある頼れる冒険者のお姉さんとして、憧れみたいな?」
「可愛いからです」
ロリっ娘ちゃんは私の頭を撫でながら続ける。
「なんかこう撫でてあげたくなるんですよね、オヤツとかも取ってきて与えてあげたいみたいな」
憧れのお姉さんイメージが崩れて、ふわふわとそよ風に乗って飛んでいくのが見えた。戻って来い私の頼れるお姉さん像。
ロリっ娘ちゃんまで私の村にいた、いつもオヤツを分けてくれた猫みたいな状態になっているじゃないか。
まさかあの猫が変身した姿じゃないよね?
「と、ところでこんな森の中で一人で何をしていたの?」
「コッカーの町で依頼を受けたんですよ。その仕事に向かう途中でした」
偉いなあ、ポンコツ勇者たちに見切りをつけて、もう一人でお仕事を始めてるんだ。
「私たちも手伝おうか? 今日は特に目的もなく逃亡しているだけだし」
まあ、毎日目的なんかありゃしないけどね。
「本当ですか!? 嬉しい! 実は一人でお仕事はちょっと不安だったんですよね」
うんうん、か弱い少女のお手伝いならこのお姉さんにお任せよ。
エサを与えられる存在から、頼れるお姉さんになるまで少しでも自分を引き上げないといけないのだ。
「僕たちもOKだよ、皆で手伝おう」
「どんな依頼を受けたの?」
女の子が一人で受けた依頼だしそんなガチでもないだろう、私たちパーティーでもなんとかできそう。
薬草むしりとかかな?
「ドラゴン退治です」
だからその依頼はガチすぎるぅ!
次回 「ドラゴン退治って幻聴かしら」
リン、とりあえず謝る




