第43話 コッカーの町にまたやつが出た
その後三日歩いて、お昼過ぎになんとかの町に到着した。
「やっと着いたね、ここがなんとかの町なの?」
「そうよフィギュアちゃん、なんとかの町に着いたよ」
たぶん。
「コッカーの町だね。それじゃ僕たちは冒険者ギルドに寄っていくから、リンはどこかで休んでなよ」
「うん、どこかいい宿と美味しそうな食堂を探しておくわ。二時間後にここで」
モブ男君たちと別れたのはいいけど、まず何処に行こうかな。
食事処なら中央広場にでも行ってみるか。人が集まるような華やかな場所は、ご飯も美味しいのだから。
フィギュアちゃんと適当に町の見物をしながら歩いていると、中央広場に人が大勢集まっているのが見えた。
何だろうと人を掻き分けて進んでみた。
集まった人々の中央には何かの展示物があり、皆それを拝んでいるようだ。
嫌な予感がする、これはデトラグの町で見た記憶があるような……
「う、これは……あの枕かも」
だがよくよく見ると枕ではない。
じっと目を凝らして確認すると、それは一枚のパンツだ。
想定外の出来事に思わず『なんでだ!』と叫びそうになってしまったわ。
「ありがたや、ありがたや」
人々が涙を流してありがたがってパンツを拝んでいる頭のネジが外れた風景に、もしそこにドアがあったらそっと閉じたい気分になる。
「な、何これ、何で皆パンツなんか拝んでるの? おパンツ教なの?」
つい尋ねてしまった。
見なかった事にしようかと思ったけど、やっぱり気になるものは気になるのだ。
私の疑問に、さっきまでパンツを拝んでいたお爺さんが答えてくれた。
「違うよお嬢ちゃん。これは光姫様が愛用されていたおパンツ様じゃな。国宝として各地を巡回しておられるのじゃ」
これを国宝にしたやつは頭がおかしいんじゃないだろうか。
うーん、なんだか見覚えのあるお花の柄のパンツなんだよね。
でもああいうのは、どこにでもあるようなバーゲンセールのパンツだし、私のパンツは幻覚ちゃんが回収してくれているはずだもんね。
しっかし光姫様とやらも災難よね。きったない枕を晒された上に、自分が着けていた下着まで拝まれるんだもの。
ププ、私なら死にたくなるか引き篭もるわよ、あっはっは。
と、待てよ。国宝が展示されているという事は。
「持って来てくださった王子様に感謝感激じゃな」
私はさっと唐草模様の手ぬぐいを頭に巻く。
やっぱりホラー王子が来てやがった! どこだ、どこにいる。
「おい貴様! 怪しい奴め、盗賊か! 光姫様のおパンツ様を狙っているのか!」
「変質者の下着泥棒かも知れんぞ!」
「パンツなんか盗まないわよ!」
私の泥棒スタイルに、近くにいた兵士が声をかけてきたのだ。
一体いつになったら、これは乙女のオシャレスタイルだと認識してもらえるのだろうか。
唐草模様か? 唐草模様がだめなのか? これ可愛いのに、モブ男君がせっかく買ってくれたのに。
「今リンナファナ嬢の声が聞こえた気がする」
まずい王子の声だ! 王子が近くにいたみたいだ。完全に私の声を聞かれた。
その時私たちの頭上を『カアカア』とカラスが飛んでいく。
「なんだカラスか」
おいまてこら。
この愛くるしい声をカラスと間違えますか、そうですか。
とにかくカラスに乗じてこの場を速やかに立ち去ろうとした時だ。
「そこの女性ちょっと待て。そのほっかむりを取って、こちらに振り向いてもらえないだろうか」
王子が真後ろにいるうう! カラスを追いかけとけよお!
絶体絶命のピンチである。前回は幻覚ちゃんの機転で助かったけど、今回は彼女はいない。
「あらやだあんた、美味しそうな大根だね、どれ一本貰おうかね」
空気を読まないオバチャンが話しかけてきたのだ。
あんたそこに王子がいるってのに、自由人よね。さすがオバチャン、私も将来は是非こうありたいものだ。
そうなのだ、私は未だに大根を背負っていたのである。この町に来るまでに食べ切れなかったのだ。
野菜があるからイラネって言ってるのに、芋だの山菜だのを掘ったり採ったりしてくるから余りまくっていたのである。
「へ、へい。い、一ゴールドになりますだよ奥さん、ふへへ」
「行商がんばんな!」
奥さんに大根を売って、オラ、じゃなかった私はその場から避難する。
「殿下どうされましたか、あの盗人が何か。成敗しておきましょうか」
「いやなんでもない、単なる行商の小汚い田舎娘だったようだ。多分顔もブサイクだろう、哀れだな」
た、助かった――
道中でアホみたいに芋を掘ってくる連中のおかげで助かったとも言える。
でも小汚いブサイクで悪かったわね! 振り返って美少女攻撃を食らわせてやりたいけど、それをしたら地面の下だ。
『カアカア』
ベチャ。
「うおおおお! 目に! 目にカラスの糞が!」
「で、殿下! 大丈夫ですか、お気を確かに!」
ベチャベチャベチャ。
「ぬおおおお!」
「あのけしからんカラス共を追いかけろ!」
私は敬礼してカラスの爆撃隊を見送った。
それはそうともはや宿やレストランを探している場合ではない。
この町にまで王子が来ているだなんて、王子の活動範囲広すぎやしないか。
宮殿が折れたって話だから、もしかして住むとこ無いんだろうか。
私は王子が来そうにない住宅街でひっそりと時間を潰すと、パーティーとの待ち合わせ場所に向かった。
因みに住宅街で更に大根と芋が売れる。まいどありー。
あと住宅街の端にやたらと貧民っぽい子供たちがたむろっていたので、その子たちにもお芋をお裾分けした。
「ありがとう、お芋のお姉ちゃん」
「お人形をお胸に入れてるお姉ちゃん、ありがとう」
「いつまでもお人形遊びのお姉ちゃん、ありがとう」
お、お人形遊びしてる大きいお姉さん認識はやめて。芋姉ちゃんも禁止します。
時間を過ぎてからモブ男君たちがやって来た。
「もう遅いよ、一時間の遅刻よ」
「ごめんリン。ちょうどいい依頼があったから資金稼ぎにこなしてたんだよ」
「お仕事してたのならいいんだけどさ、どんな依頼だったの?」
「メーデン子爵のお嬢様の猫ちゃん捜索」
やっぱりそれか! どこまでも逃げる気なのねあの猫!
王子といい猫といい、無駄に活動範囲広いな!
「今回は二時間で完了したよ。まさか僕の足元にネズミを置いていった猫だとは思わなかったけど」
猫に完全に仲間だと思われてるよね。しかもご飯を恵んでもらってるんじゃないでしょうね。
村にいた頃、私もよく近所の猫からオヤツをわけてもらっていたのだ。
「リンの方は何かいい食事処は見つかった?」
「それが……」
王子がいた事、その王子と異常接近警報が出た事、カラスの爆撃隊は四機編隊だった事を皆に伝える。
ついでに皆に、お芋を掘ってくれてありがとうと感謝の意も述べた。
「芋でリンが救われたんだね。わかるよ、僕の出身の村も飢饉の時に芋で救われたんだ。芋は飢饉の救世主だもんね」
うん、私もこれからは感謝してお芋を頂こうと思う。
いやそうじゃなくて。
「王子だよね」
「うん、どうしよう」
このまま町の華やかな場所にくり出したら、また王子と出くわす可能性があるのだ。
「もうすぐ夕方になるし、ご飯も宿もこの辺りの安い所で済まそう。この辺なら王族なんて偉い人は来ないだろうし」
「明日朝早くこの町からトンズラこけばいいんだブヒ」
「それでいいの?」
「本当はさっきギルドでこの町が困っている依頼を見つけて、明日の朝に受けるか相談しようと思ってたんだけど、王子がいたんじゃ仕方無いね。他の人に譲るよ」
ごめんね、せっかく美味しい仕事を見つけても、私のせいでふいにしちゃうね。
「それはどんな仕事なの?」
「ドラゴン退治」
そんな依頼受けられるかぁ!
次回 「ある日森の中その子に出会った」
リン、あの子と再会する
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