第42話 モブパーティー、おかしな伝説になる
「なんと! リッチを退散させた!?」
谷から帰って来た私たちの報告に、村長さんが腰を抜かしそうな勢いで驚いている。
「いや実際腰が抜けたんですがな、金持ちの方じゃなくて?」
村長さん、リッチ駄洒落をやりたくて仕方無いのね。
金持ちのイケメンなら退散なんてとんでもない、むしろウェルカムなのよ。
「それでね、村長さんにお願いがあるんだけど」
「討伐のご褒美報酬ですかな? 副村長はそんなに金を持っていないから勘弁してやって欲しい」
もうそろそろ副村長さんにチクってもいいかな?
「そうじゃなくて、谷の上に賢者様の祠を作ってあげて欲しい。谷の中よりも景色がいい場所に」
「うむ、そうですな、お約束しましょう」
その日は村長さん宅にご厄介になって、その次の日は村を挙げての私たちの祝勝会を催してくれた。
村の中央の広場にいっぱい屋台を出して、いっぱい食べ物が並べられて、村人が踊りまるでお祭りだ。
まさかこれも副村長さんのツケじゃないだろうな……
まあどうでもいいやと、お祭りの食べ物を食べまくったよ、串焼きがめちゃくちゃ美味しかった!
広場のど真ん中に設置された台の上で、いかに私たちパーティーが勇敢に戦ったかを村長さんが雄弁に語っている。なるほどこれが政治か。
最後は多大なる犠牲を払いながらも戦ったパーティーは、凶悪なリッチにとうとう聖剣を突き立てて討伐した所で物語は終了した。いや鉄の剣しか持ってませんけどね、しかも刺さりもしなかったけどね。
リッチ本人が聞いたらクレームが来そうな内容である。
「さあ、かの賢者様を祀る祠を設置する資金に、村の皆の寄付が必要なのだ!」
感動した村人たちが我も我もとお金を寄付してくれた。申し訳ない気もするけれど、賢者様の為だしいいのかな。
村のおじさんやおばさんたちが、私たちパーティーのところにもやってきた。
「ありがとう、村を救ってくれて本当にありがとう」
「祠は皆で参って、大切に管理させてもらうよ」
よろしくお願いしますね。
「大切な仲間の死を乗り越えて、良く最後まで戦ってくれたね、わたしゃ感動しちまったよ!」
いえ、誰も死んでませんけど。
「あんたが救出されたお姫様か、良かったなあリッチに囚われて辛かっただろう」
割烹着を着たおじさんがハンカチで涙を拭きながら私の肩を叩いているけど、一体どんな物語になっているのだろう。
私、昨日の朝あなたがいる食堂で割烹着コントをやってましたけど。
村のお祭りは丸一日続き、めちゃくちゃ楽しかった。フィギュアちゃんと二人でお菓子を食べまくった。
三人の仲間は、村人に紛れてもう誰だかわからない。
一回メガネの人に話しかけたのだが、十分間会話しても話が噛み合わなかったので、多分村のメガネ人だったのだろう。どうりで見覚えの無い顔だと思ったわ。
そしてお祭りの次の日、私たちパーティーは村を後にした。
「あなた方パーティーの事は、伝説として村に語り継いでいきますかな」
「囚われの姫の像も期待してていいぞ! やっぱりビキニに鎖姿だな」
全く期待していませんから。
あんまりおかしな像だと破壊しに来るからね。
「モブパーの皆さん! バンザーイ! モブパーバンザーイ!」
また謎のモブパーの伝説が語られてしまった。
「さて、ここより王都から直線で離れた次の町へ行こうと思う。コッカーの町が一番近いみたいだよ」
「それじゃあ次はそこに向かいましょうか。その前にちょっと寄りたい所があるんだけどいいかな」
私たちは賢者様が落とされたという谷の上にやって来た。
私がリュックから出したのは昨日買っておいたあんパンだ。
「久しぶりに賢者様も食べたいだろうと思ってさ」
地面にハンカチを敷いてあんパンを置くと暫く黙とうする。
その後であんパンを二つに割った。
「はいこれモブ男君たちの分、フィギュアちゃんは更に私と半分こしようね」
「リンが谷に投げ込むのかと思ってドキドキしちゃった」
「そんな事しないよ、食べ物が可哀想じゃん。それにこうやって一緒に食べてあげるとその人の所に食べ物が行くんだって、これは私の村の言い伝えなんだけどね」
「お墓に埋めたぶどう味の飴ちゃんも、賢者のおっさんのとこに行ってるかなあ」
「そうだねフィギュアちゃん、きっと行ってるよ」
コッカーの町へ行く為に街道を歩き始めると、メガネ君が話しかけてくる。
「リンさん、昨日のこの国のメガネ四天王の話ですけど。やはり最後の一人は、王都のメガネ屋の前に飾ってあるメガネースおじさんだと思うのです」
「だから看板を四天王の一人にするのは反対だって言ってるのに、あれ、何の話だっけ」
ああ思い出した、昨日村のメガネ人と意見が食い違ってたんだっけ……あれ?
メガネ君に話しかけたと思ったら別の人だった、と思ったらメガネ君だった。あーあるある。
「ねえリーダー、コッカーの町までどのくらいかな」
「ここから歩いて五日くらいだね」
ひー、五日もかかるのか。その間これを背負って歩くのも大変だあ。
そうである、私たちパーティーは村の人たちから貰った、お芋だの大根だの大量の農産物を背負っているのだ。田舎の人はとにかく沢山くれるのだ。
野菜は各自手分けして持っている。フィギュアちゃんも健気にも『私も手伝うよ』と大根を一本背負ってくれた。
可愛いんだけどフィギュアちゃんは私の胸の所にいるので、結局その大根は私の負担になっているのではないのだろうかと疑問に思わなくも無い。大根の葉が邪魔だな、顔にかかるし。
「あんたたち行商人かい? どれ大根二本ばかしもらおうかな」
違います、冒険者です。
通りかかった馬車のおじさんに大根二本を押し付けて、代わりに途中まで乗せてもらう。
「そうそう知ってるかお嬢ちゃんたち」
のんびり馬車を走らせながらおじさんがタバコをふかす。
「この近くで国を滅ぼうとしていたリッチが、勇敢な若者たちによって討伐されたってさ。美しいお姫様も救出したって、一回そのお姫様を拝んでみたいよなあ」
噂が流れるのが早いなあ、田舎は娯楽が無いからあっという間に伝達するのね。
その美しいお姫様なら、今正にあなたの馬車に乗っているわよ。いくらでも拝んでいいわよ。
「ははは、まあ俺はお嬢ちゃんくらいで我慢しとくか」
皆の言い伝えの中の自分に完敗した気分である。
「その勇敢な若者たちと絶世の美女は、その後どうなったか聞いてますか?」
「ああ、村の財宝を沢山貰って世直しの旅に出たそうだ」
大根ですけどね。
逃亡の旅ですけどね。
道が分かれた所で降ろしてもらい、おじさんに手を振って別れる。
「乗せていただいてありがとうございました」
「野菜いっぱい売れるといいな、行商がんばれよ」
だから冒険者です。
馬車のおじさんと別れて暫らく進んだ先で野営だ。
「リンお腹すいたあ」
「待っててねフィギュアちゃん、お湯がもうすぐ沸くから」
火を焚いて、鍋に入れた近くの川で汲んで来た水を火にかけている所で三人が帰ってきた。
っていつの間に消えていたんだ。
「ほらリン、野うさぎ獲って来たよ」
「野生の大根を収穫してきました」(メガネくいっ)
「野生の芋もこんなに採ったブヒ」
「ちょ、ちょっと、野うさぎのお肉はともかく、野菜は嫌になるほどあるのに」
「何を言っているんですかリンさん、商品に手を付けちゃダメじゃないですか」
こいつらも忘れてたぁ!
「私たちは行商人じゃなくて、冒険者なの!」
次回 「コッカーの町にまたやつが出た」
リン、カラスと間違われる




