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第40話 リッチとの死闘、なんちゃらアタック


 私たちの目の前にリッチが現れた。

 それはローブ姿の真っ黒なガイコツである。


『何ゆえに我が神殿を荒らす!』


 地響きのような声が谷にこだまする。

 神殿とか言ってるけど、神様のつもりなのかしら。


「あんたが個人の復讐で、国を滅ぼす可能性があるから止めに来たのよ」


『仕方なかろう、我は理不尽な扱いを受けたのだ』


「あなたも馬車の前に出ちゃったのね? うっかり王侯貴族に近づくからそうなるのよ」


 とっとと逃げれば良かったのよこの人も、私なんかよりも逃亡の能力高そうだし。賢者の能力があったら逃亡なんてラクチンだったでしょうに。


『我が怒りも知らぬ小娘が小ざかしい事を抜かすな』


「あなたの怒りなんて知らないわよ、そりゃ酷い目にあったと思うし気の毒だけど、復讐したいのならさっさとその日の内にやっちゃいなさいよ。二百年後なんて迷惑この上ないのよね、当時の人なんて王族含めて皆墓の下なんだけど」


『二百年もの間、この瘴気漂う谷にて復讐の力を溜め込んでいたのだ、今更止められるものではないわ!』


「リン、危ない!」


 モブ男君が私をその場から退避させてくれたと同時に、私がいた場所に真っ黒の炎が立ち上がる。

 説得に応じる気は無いか。


「こいつにはもう話は通じないと思うよ、リンは下がってて」


 モブ男君がリッチに斬りつけるが、その魔物は簡単にその剣をリーダーごと弾き返した。

 モブ太君のステッキも、メガネ君のクロスボウもまるで効かない。


 それでも彼らは攻撃の手を緩めない。リッチが矢を弾いたその隙を狙ってリーダーが一撃!

 しかしその剣も弾かれる、と同時にモブ太君がステッキでリッチの顔面に渾身の一撃を加えた。


 やったか!


 だが魔物はびくともしなかった。

 ダメージを与えられたかすらもわからないのだ。さすがにこれは厳しい戦いなのかもしれない。


「さっきの一点に集中するよ! 顔だ!」

「三位一体の攻撃ですね」

「子供の頃から一緒に何度も練習した、なんちゃらかんちゃらアタックを食らわせるブヒ」


 大丈夫かな、名前すらおぼろげで忘れかけてるみたいだけど。


 三人が縦一列でリッチに突っ込んでいく。


 モブ男君が一気に踏み込み、先ほどモブ太君が一撃を与えたリッチの顔に剣を突き立て弾かれると、今度はモブ太君が同じ場所に力の限りの一撃を与える。

 それも弾かれるとメガネ君が水平射撃でクロスボウの矢を発射した。


 リッチはただ突っ立っている。

 表情が無いガイコツなもんだから、効いてるのか効いてないのかサッパリわからない。ずるい。


『全く効かぬ』


 ご丁寧にありがとうございます。そうやって口に出して言ってもらわないとわからないので助かります。

 リッチは鼻の部分に刺さっていたクロスボウの矢を抜いて捨てた。


『お遊びもここまでだ! 我を処刑した者どもへの恨み、まずは貴様らに叩き付けてやろう、あえなく潰されるがよい!』


 禍々しい気がリッチから発せられ、モブ男君たちが苦しそうに地面に手をつく。


「くう! この威圧やっぱり只者じゃないよ!」

「立っていられないブヒ」

「困りましたノートすら取り出せません」

「二百年前の墓を掘り返して一人一人呼び出してぶん殴っていくとかどう? 国の皆に手を出さないのなら、手伝うわよ?」


『お前たちを消し飛ばした後は、この国を復讐の炎で焼き尽くしてくれるわ!』


 更なる瘴気がパーティーを襲い、モブ男君たちが地面に這いつくばる。


「ぐああ! だめだ立てない!」

「息が出来ないブヒ」

「もはやこれまでかも知れません」

「一人一人呼び出す時はゴーストはやめてね? 骨にしよう骨に、骨なら怖くないからさ、正座させて説教して謝らせようよ」


『ぬははははは! 苦しいか人間ども! もっと苦しめ!』


「ほら機嫌直して、飴ちゃんあげるからさ、イチゴ味がいい? オレンジもあるよ」

「リン、私も飴欲しい、ぶどう味あるかな?」


『我が威圧と瘴気を食らっては、如何なる者でもまともに立っていられぬわ! って何で効かんのじゃああああ!』


「そう言えば……何でリンは……こんな重圧の中で平然と立って会話していられるんだ……」


「何でって言われても。なんか空気が重いなあっては思うけどさ、フィギュアちゃんも平然とあくびなんかしてるけど」


「うん、私別にオバケなんか怖くないし」

「私も相手が骨だと思ったら特に」


「そ、そういう問題なんだろうか……でもさすがリンって感じだ」


 私とモブ男君の会話を聞いてリッチが驚愕したような顔になった――気がするだけだけど。

 だってガイコツだから表情なんかさっぱりわからない。


『馬鹿な! 我は倒す事こそ叶わなかったが、かの邪神の封印を無し遂げた程の力の保持者だぞ』


 邪神は討伐じゃなくて封印だったのね。

 でもまあ、神様相手に封印をキメられるだけでも大した賢者様だよあなたは。


「近くの村ではあなたは邪神をやっつけた賢者様として尊敬されているのよ、あなたはそんな人たちも苦しめて亡ぼす気なの?」


『ぬかせ! あの時の苦しみ、悲しみがお前にわかるか。信じていた仲間に簡単に裏切られ棄てられ、我が身に降りかかるのは処刑のみと知った時の絶望が貴様にわかるのか!』


 目下全力で逃亡中の身の上でございます。

 私も王族に取っ捕まったら谷に放り込まれるかも知れないけどさ、その時は隣人として仲良くしようよ。


 この人と私の違いはやっぱり国への貢献度かなあ、この賢者様がいなかったら今頃国は傾いていたはずなのだから。

 ただの平民の私と比べたら失礼かな。


『ほう、お主、我のかつての恋人に似ておるな、顔を見ているだけで(はらわた)が煮えくり返る思いじゃわ』


「こんなに美少女だったのなら許してあげなさいよ、笑われるのがむしろご褒美くらいに思っていればいいのにさ」

『何を言っておるのかさっぱりわからん。そもそもかつての恋人に似ておるのは小娘ではないわ、そこのそいつじゃ』


 リッチの目線の先には魔法のステッキを持ち、ひっくリ返ったパーティーメンバーの姿が。

 まあ目線と言ってもそうなのかな? くらいしかわからないけどね、だって目のとこ穴が開いてるだけだし。


「モブ太君? ほらほらモブ太君も謝っときなさい、え? 息できなくて無理? ごめんなさい私が代わりに謝っておくわね」


『ふむ、よく見たら全然違うな、体型も似とらんし誰じゃそいつ』

「二百年も前の事だから、ボケたんじゃないのかな!」


『我を愚弄するか小娘が! 食らえ我が怨黒の炎!』


「待って! 私あなたと戦いたくないんだけど!」


 リッチから真っ黒な炎が私に伸びてくる、いつもみたいに退避させてくれるモブ男君は地面に張り付いたままだ。


 私終わった――!

 我が身を焼き尽くすだろう炎の衝撃に備えて固く目を閉じた。


「リンを右に」


『何だと! 何者も決して避けることが出来ぬ我が怨黒の炎を瞬間移動で躱しただと! 貴様は一体何者だ!』


 フィギュアちゃんの操縦で命拾いした、ただの美少女でございます。


 次回 「あらやだリッチがリチってしまったわ」


 リン、あらやだる


 長くなり過ぎたので分けました。

 次回リッチと決着です。

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