第4話 あらやだ、私の全財産が食べられた
王都の外に出て森に入る。
ソーセージは食べたけど今晩の食事代が無い。なので森で薬草を毟って持って帰るしかない。
王都近郊の森の中とはいえモンスターが闊歩していて、薬草が生えてるような場所は特に危険なのである。
「出ませんように、出ませんように。オバケもモンスターも出ませんように」
さすがに私でもスライムくらいならなんとかなる。
何しろ相手はスライムだ、全力で逃げれば追いつけない、ざまーみろだ。
他のモンスターに遭遇すると試合終了である。
ま、まあその時は私の隠された真の能力が発現して、モンスターなんか木っ端微塵なんだけどね、あっはっは。
ひいい、しまった。声を出して笑ってしまった。モンスターに聞かれて無いよね?
森の中をおっかなびっくり進んでいくと、少し開けた場所に薬草がてんこ盛りの場所を発見!
「うわ、何これ穴場? 私穴場を見つけちゃったの? やっぱり私持ってるわー」
ホクホクしながら薬草を毟っていく途中で、草むらがガサガサ言う度に『ビクン』とし、その度に出てきた一般のトカゲやらネズミやらイノシシやらにホッと胸を撫で下ろす事数回。
いや、イノシシは一般の子でも私にとっては強敵だよ、緊張の一瞬だったよ。
持って来た袋に薬草を一杯詰めた所で、またもやガサガサと草むらが鳴った。
やだもー、また一般のタヌキだかアライグマなんでしょ? ホント驚かさないで欲しいんだけど。
いやいやまてまて、そういうフラグは危険だ。モンスターが出てきて『ギャー』ってなるからフラグは立てちゃいけない。あれは素人が迂闊に触ってはいけない危険な代物なのだ。
そして。
緊張する私の前に、人間が飛び出してきた。
「ギャー」
「ギャー」
説明すると上の『ギャー』が私の悲鳴で、下の『ギャー』は飛び出してきた男の人の悲鳴だ。
「ズ、ズボンずり落ちてる! 変態! 変態! 襲われるー」
「いや、ちがっ! 襲われてるのは僕で、とにかく伏せて!」
私を組み伏せるのは、ズボンを穿いてからにしてもらえませんかね!
「ごめん、用を足してる途中だったから。モンスターに襲われて逃げてきたんだよ」
ちょっと、その手を頭に乗せるのやめてもらえないかな、ちゃんと手を洗ってからにして欲しいんですけど。
でもモンスターか、お尻丸出しの男の人が襲われたって言うから、色々と想像たくましくしてしまったじゃないか。モンスターでよかった、いやよくないけど。
『ブギャアアアアア』
そこに突っ込んで来たのは、マンイーターと呼ばれる大口を開けたモンスターである。
何か出たー!
驚いた私は持っていた薬草を詰めた袋を、モンスターに投げつけてしまった。
あらやだ、私の全財産が!
今日の私の夢のご飯代はモンスターの口の中に吸い込まれていき――何故か青くなってモンスターはカクンと倒れた。
「凄いよキミ、すかさずモンスターの口に毒草を大量に放り込むなんて」
私がせっせと摘んでたの、毒草だったよ。
もしかしたら最初に自分の口に毒を放り込まれる人生最大の危機が訪れていた事を、この男の人には黙っておこう。
「ありがとうキミのお陰で助かったよ。僕はロクト、この辺りで毒消し草を探してたんだけど、中ランクモンスターが出てきて慌てて逃げて来たんだ」
「あの……」
じっと見つめる私にその冒険者は顔を真っ赤にした。美少女に見つめられてキョドるのはわかる、わかるがしかし。
「とりあえず、ズボンを穿いてからにしてもらえませんか」
慌ててズボンを穿いている冒険者をじっと観察する。いや、お尻を観察していたわけじゃないよ、ホントだよ。
その人はなんというかその……一言で表現するとモブ? 顔も一回見ただけじゃ覚えられない、名前も既に忘れてしまった。
何の変哲も無い装備に特徴の無い顔、髪。町の中で何回すれ違っても認識できない、モブ的なアレである。
とその時、またもや草むらがガサガサと揺れたので慌てて毒草を毟って身構えると、モブ男君もすぐさま剣を構える。
草を揺らして出てきたのはまたもや人間だった。男の人が二人でその二人も揃いも揃ってモブ顔だ。
太ったモブにメガネモブ。この二人はまだ特徴ある部品を持ってるからまだましか。
「良かったロクト、無事だったんですね」(メガネくいっ)
「ふーブヒ、襲われたと思ったブヒ」
おいこら、メガネ君のメガネくいっはまだ許そう、でもブヒは無いだろ。確かに特徴あって私の魂に刻まれたけどさ。
なんとかモブを脱したいという気持ちはわかるけどさ。
「酷いよ、二人とも僕を置いてバラバラに逃げるんだもんな。危うくモンスターにやられるところだったよ、何でそんな事するんだよ?」
「おや、その女の子は誰ですか」
「可愛いブヒ」
話そらしたね。
「この子はここで出会ったんだ、そういえば名前まだ聞いてないね」
そして話をそらされた事に気付かないで流されるのも、モブというか素直というか。
純朴そうな笑顔を見て思ってしまう、この人冒険者に向いてなさそうだと。怪我とかしなきゃいいんだけど。
「私はリンナファナ・コルウェス、みんなはリンと呼んでるよ。ここで可愛らしく薬草を摘んでたのよ」
ホントは毒草だったけどね。
「一人で? 女の子一人だと危なくない?」
「追い出されたのよ、クソパーティーに」
「え、クソ?」
「言ってないわよ」
「いや今」
「言ってないわよ」
「僕はさっきも挨拶したけどロクト、こいつらはロドガルドにプー。全員二十歳で、ボクたちは三人でパーティーを組んでるんだ」
「ロドガルドです、よろしく」(メガネくいっ)
「よろブヒー」
くっそ! いちいち私の魂に刻んでくるよね! 語尾と名前でキャラ付けしてくるのズル過ぎるわよ!
次回 「メガネ師ってなんなのよ」
リン、新しい仲間を得る




