第39話 死の谷でリンを右に
村を出る時に村の女の子に呼び止められた。
「谷は動物も植物もとれないから、お弁当を持って行って下さい。お代は結構です、副村長のツケにしてありますから」
副村長さん、ご馳走様です。
私たちパーティーは女の子に手を振って谷に向かう。もしかしたら自分たち以外の人を見られるのはこれが最後かも知れない。
「動物や植物が無いって事は」
「谷はアンデッドの巣窟になってるって事だろうね」
「つまり死の谷という事ですね」(メガネくいっ)
「気をつけるブヒ」
うわー嫌だなあ、オバケとか苦手なんだけどな。リッチ自体がオバケの親玉みたいなヤツなんだけどさ。
教えられた谷へと降りていく道にさしかかる。いよいよだ。
降りていく途中までは草花が生い茂り、蝶なんかも飛んでいたのだけど、そのうち岩しかなくなった。
到着した谷は川の水も無く、粘りつくような空気からして何か出そうな雰囲気満点である。正に死の谷そのものだ。
出ませんように! 出ませんように!
ひいい、視界の端になんか白い物がちらついてるうぅ。
出ちゃった? オバケ出ちゃったの?
怖くてまともに見れないよ、目の端っこで何とか捉えるので精一杯。
「い、いよいよ谷だけど、早速何かこっちに向かって来てるわよね? あ、あの白いの何? オバケ?」
「ガイコツ兵だよ、気をつけて! 多数接近してる!」
なんだ骨か。
実体があるヤツは怖くない、骨は私も持ってるし殴れるから。
もちろん私が殴ると私の骨が折れそうなので、そこはモブ男君たち男の人にまかせよう。
私がロッドをぶん回したって、相手に当たる前にメガネ君あたりを仕留めそうだし、迷惑この上ないのだ。
勇者パーティーではそれで剣士をぶん殴って、めちゃくちゃ怒られた。一撃で卒倒させちゃったんだよね。
モブ男君の鉄の剣とモブ太君の魔法のステッキの打撃力の前に、次々とガイコツ兵がバラバラにされていく。
メガネ君はクロスボウなのでガイコツ兵には不向きだ、私のロッドを貸してあげた方がいいのかな。
「いえそれが、そのロッドを貸していただいても私はお役に立てないでしょう」
「どうしたの?」
「透明で何にも見えないからです」(メガネくいっ)
骨を透視しちゃってるぅ!
「メガネを普通のに変えなさいよ! ガイコツと間違えて私の骨を攻撃されたらたまったもんじゃないわよ!」
「いやしかし、このメガネは〝メガネふぁさっ〟がスムーズにできるんですよ?」
「そんなギミックどうでもいーわよ! というかメガネふぁさって何なのよ! さっさとメガネを変えろ!」
メガネ君につっこんでいる間に、ガイコツ兵はあらかたモブ男君とモブ太君が片付けた。ご苦労様です。
「二人とも怪我は無い?」
私がモブ男君とモブ太君に初等治癒魔法をかけようと近づいた時だ。
「リン、後ろ!」
ガイコツ兵の残党がまだいたのか、と振り向くとそいつはいた。
目の前に白くてふわふわしたのが浮いていた。
「ひいいい! 出たあ、オバケ出た!」
すぐさまモブ男君が縦に切り裂くと、そいつは何かもごもごと言って消滅する。
「やっつけたの? 今のがもしかしてリッチなの?」
「違うよ、今のは単なるゴーストだよ。消える前にこの姉ちゃんいい尻してるなって言ってた」
一発ぶん殴っておけばよかったかな。当たらないけど。
「よく鉄の剣でゴーストなんか斬れるわよね」
「一応村でお札を貰って剣に貼り付けてあるんだ、それでも尋常じゃない切れ味だけどね」
私たちパーティーに取り憑いているらしい、幸運の女神様とやらの加護でも発生しているのだろうか。
更に谷の奥に進んで行くが、そこから先は私にとっては地獄だった。
ゴーストがふわふわ飛んで攻撃してくるのだ。
「うわー、いやあああ、キャー」
多分私が一番迷惑だろう。
わかっているんだ、ごめんなさい。でも叫んでいないと、声に出していないと、乙女の尊厳的なものが出てしまいかねない。
もしそんな事態になったら、私はここで屍と化してリッチの配下に加えてもらおう。
「リンはオバケが怖いの?」
「怖いよ、フィギュアちゃんは怖くないの?」
「へーきだよ? 夜中に動き出す人形がいても、お友達かな? くらいにしか思わないもん」
そういえばそうか。ある意味ホラーな存在が、私の胸元からずっと顔を出してたわ。
それでもやっぱり怖いものは怖い、フィギュアちゃんとオバケでは可愛さが雲泥の差だ。
よし目を閉じるか。
「リンしゃがんで! 左に行って、止まって!」
フィギュアちゃんの指示で、私は目を瞑ったまま行動する。
私の操縦はフィギュアちゃんにまかせた。
「リンを右に、そこで上上下左ジャンプ、右右上パンチ」
「おおすごいよリン、ゴーストをまとめて三体消滅させたよ」
「何か波動みたいなのが出ましたね」(メガネくいっ)
何をさせられているのかよくわからないけど、とりあえずフィギュアちゃんのコマンド通り動いていたら、私も討伐に貢献できていたようだ。
目を閉じていると、相手がオバケなだけに攻撃が当たったのかどうかまるで手応えが無いのだ。
攻撃してる自覚サッパリ無いけど。
「このままどんどん進もう!」
私たちパーティーのタコ殴りにより、ガイコツやゴーストを蹴散らしながら谷の奥深くへと侵入した。
すると突然私の背筋がぞぞーっとなった、身の毛もよだつとはこの事か。
目を閉じていても感覚で、今までのオバケとは比べ物にならない存在が出たのがわかった。
「うわっとんでも無いヤツが現れた! 普通のゴーストじゃないぞこいつ!」
「ひいぃ! 絶対目を開けないからね!」
「リン、上上右下上右下右左ジャンプ」
『ゴゲエエエエエエエ』
戦場が静かになったようだ、敵を殲滅したのだろうか。
「さっきのリンの攻撃はすごかったね。回転しながら連撃でゴーストキングをボッコボコにしてたね。さすがリンだよ!」
「姫の連続技が炸裂したブヒ」
「最後にゴーストキングが爆散しましたからね」
「リンの八連コンボが決まったんだよ!」
私、自分が何をしたのかサッパリわかりません。
恐る恐る目を開けるとゴーストは居なくなっていたが、場の禍々しい雰囲気は、いよいよそこが敵の本陣である事をうかがわせた。
うわー嫌だなあ、完全にリッチ出そうな雰囲気だよ。
その時。
瘴気が更に濃くなり空間が歪んだように見えた。その一点に黒い霧が集まっていく。
「この異様な雰囲気は今までと格が違う。リン気をつけて、来るよ、リッチだ」
ごくり、私の乙女の尊厳がどうか無事でありますように。
『許可無く我が神殿を犯す汚らわしき者どもよ、我が怨恨の炎をその身に受けに来たのか』
で、出たああああああ。出やがった、出てこなくてもいいのに出やがった! いや出てきて貰わないと来た意味ないのか。
ガタガタ震えながらリッチを見据える。
そいつはリッチ。
そいつはかつての賢者が怨念で蘇った魔物。
そいつは国をも亡ぼす危険なアンデッド。
そいつは黒いローブを羽織った、黒いガイコツ。
なんだ骨か。
私も持ってるし怖くないな。
次回 「リッチとの死闘、なんちゃらアタック」
モブパーティー、リッチの前に手も足も出せず




