第36話 勇者パーティーとの攻防
「それにしてもリンのやつ、どこに行ったんだろうな!」
「てっきり王都で大人しくしてると思ったんだけどなあ」
「あいつ見栄えはいいから、結構目立つのに見あたらないな」
勇者パーティーが話している声が聞こえてくる。やっぱり私を探しているようだ。
悪(王子)の手先に身を落とすとは落ちぶれたようね、でも元々王子の手先だったようなものか。
「なあ、本当にあいつなのか? 確かにあいつだったと言われればそうとしか思えんが」
「他に考えられないよ、リンが原因だったんだとしか思えない」
「うむ、俺もあいつが原因だと思う」
なに? 私がやらかした何かの事? お酒か、壷か。
それとも追い出しただけでは飽き足らず、何の覚えもない冤罪を私に押し付ける気かしら、本当に酷い連中よね。
「なんせリンを追い出した途端に、俺の尻にとても悲しい不幸が舞い降りたもんな」
「ああ、それは俺もだ。まるでマスタードを塗られたみたいだった」
ごめんなさい、思いっきり覚えがありました。
私が速攻でざまぁをした仕返しに、王子に私を売る気だこいつら。お尻の件なんて洗って流しなさいよね、本当に小さい連中よね。
「僕も猫に引っかかれて、犬に噛まれたし」
それは私は関係ないと思うよアレンタ君。いつものアレンタ君じゃん。
「とにかく何が何でもリンを見つけ出して、関係を修復しないとな」
「じゃないと、このままいけば僕たちは終わりだね」
私を見つけられないもんだから、王子との関係が険悪になってるのかな。さっさと見つけないと処刑するぞ、て感じな?
さすがの勇者パーティーも国相手には強気に出られないか。
「問題はリンが納得するかだな」
「土下座も辞さぬ」
私に土下座させる気だよ魔術師のやつ。何て恐ろしい事を考えているのか、お尻の恨みは根深いのね。
「なんとかリンとの溝を埋めていきたい所だが」
「埋めないとね」
「埋めよう」
埋める! ひいいい。私は今、埋めるという言葉にとても敏感になっているのだ。
王子といい勇者パーティーのこいつらといい、どうして私をそんなに埋めたいのか。いい加減にして欲しい。
「でも怒ってるだろうなあ」
「リンの怒りを鎮める方法を色々考えないとな」
今度は沈めるきたー!
私に錨を付けて海に沈めるだと!?
怒ってるらしい王子に対抗して、そんな所でオリジナリティを出してこなくてもいいでしょ。
埋めるのか沈めるのかどっちかにして! いやいやどっちもごめんなさいだから!
「俺たちにはリンが必要だ」
生贄は謹んでお断りいたします。
「もう二度とリンは離さない」
私は二度と話さない。
完全に抹殺の決意です。ありがとうございました。
「もうリンを行かせない」
私を生かさない。
直球ドストライクの言葉でした。もうお願いだからやめてあげて、私が可哀想だからやめてあげて。
「まあ、それ以前にリンを見つけ出さないと話にならんが」
「だよねえ」
「例えばここにハンバーグステーキがある」
「どこから出したんだよ、カスキース」
「細かい事はいいんだよ、さっき村の食堂で作ってもらった。こうやってハンバーグステーキを置けば、リンが釣れるんじゃないかと思ってな」
「リンの大好物だけど、さすがに僕もそれはアホらしいと思うよ」
「馬鹿馬鹿しい、そんなので釣れるアホがこの世に存在するとでも思っているのか」
「ハンバーグステーキだあ!」
もぐもぐ、これ! やっぱり美味しいー!
はっ!
「しししし、しまったあ」
勇者パーティーの視線が私に突き刺さっている、因みに私の口にはハンバーグステーキが突き刺さっている。
やらかしてしまった、ハンバーグを罠に使うとか国際条約違反じゃないのかな、悪魔でも思いつかないわよ。
私の名誉の為に補足しておくと、まだ晩御飯を食べてないのよ!
ハラペコの野良犬の前に肉を置いてみろ、食べない方が頭のネジが外れているだろう!
間違えた、乙女として喩えを間違えた。妖精の前にお花の蜜を――ええいもうどうでもいいわ!
「お、お前」
バレた、完全にバレた。
しょうがない、とりあえず全部食べてしまおう。ほらフィギュアちゃんも食べる? あーん。
「おいお前! なに勝手に人の食い物食ってんだよ!」
「シーフ忍者じゃなくて、やっぱり盗賊なんじゃないかな」
「とりあえず討伐しとこうか」
良かったバレてない、討伐されそうだけど良かった。
ごちそうさまでした!
「すみません、うちのパーティーのシーフ忍者がご迷惑をおかけしました。これハンバーグステーキのお代です」
「うちの姫の可愛い足に免じて、許してあげて欲しいブヒ」
「おやあなた、前歯が虫歯ですね」
「「「お、おう」」」
メガネ君の指摘にアレンタ君が涙目になってる、歯医者に行きなさいよ。
「ごめんね。この子うっかりさんだから、ほら、あなたも謝って」
「ごめんなさーいー」
フィギュアちゃん、フォローしてくれるのは嬉しいんだけど、一人芝居で謝っているようにしか見えなくて逆効果じゃないかな。
あ、勇者パーティーの面々が悲しい子を見る目になった、ちくしょー。
「なあ、アレンタ、トンファン。こいつらって」
「う、うん、僕も気がついた」
「ああ、このパーティー……」
しまった、うちのパーティーと勇者パーティーは以前に既に出会ってるんだった。しかもあの時は一触即発だったんじゃん。
これは完全にバレた。
「今まで気配あったか?」
「無いね、全く存在に気がつかなかった」
「さすがシーフ忍者のパーティーだけあるな、この隠密性侮れん」
全くの杞憂でございました。
例え勇者だろうが、うちのモブを見分ける奇跡は起こらなかったのだ。うちのメンバー舐めんなよ!
彼らを見分けられるのは私くらいなんだからね、えっへん。
「ふう、危なかったねモブ男君」(ヒソヒソ)
「ん? お嬢ちゃん何だい?」
「違うよ、それ隣でザコ寝してるおっさんだよ」(ヒソヒソ)
その後私は勇者パーティーの〝私捕獲作戦〟の悪巧みに対して聞き耳を立て、彼らの私に対するこれからの所業の相談に震えながら夜を過ごした。
予定の中で私は、埋められて沈められて平定された。
私は埋められた後で地面を硬くならされ、その上に〝ミライ〟とかいう名前の町への道が作られて、更に勇者パーティーの団結を永遠に硬くする、堅固な要塞が築かれる予定らしい。
どのような攻撃も弾き返す一致団結という要塞の固さは、誰にも崩されないようだ。
『もうリンを渡さない』というアレンタ君の言葉どおり、私は永久に要塞の下に埋まったままなのだ。
その夜はうなされながら眠った。
要塞の下に埋められ、土の中の岩を抱きしめてヘシ折っている夢だ。
「いだだだだ! お、折れる! 離してリン!」
「あ、なんだ夢か。おはようアレンタ君」
「おはようリン……ん?」
……あ。
いつのまにか私は勇者パーティーの方に転がっていたらしい。
あはは、危ない危ない、でも唐草模様のほっかむりをしているから大丈夫。私はシーフ忍者なのだ。
しかし頭に手をやると手ぬぐいが無い。
慌てて探すと私が寝ていた場所と勇者パーティーとの中間で、寝ているフィギュアちゃんの掛け布団になっていた。
転がっているうちに、フィギュアちゃんとほっかむりの装備が外れてしまっていたのだ。
起きた勇者パーティーが私をじっと見つめる。
あ……まずい。
慌ててその辺に転がっている石のふりをしたが時すでに遅し。
よく考えたら室内に石なんか転がってるわけがない。まさかの盲点だった。
「あー! リン! 見つけた!」
次回 「勇者パーティーに見つかった」
リン、勇者パーティーの新メンバーの末路を聞く
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