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第35話 逃げた先に勇者パーティーがいやがった


「じゃリンお姉さん、私は宿に戻るね。彼氏と仲良くね!」

「いやモブ男君は彼氏なんかじゃなくて、だからほら、リーダーだし」


「リンお姉さんをよろしくね」

「よろしくまかされたブヒ」


 だから何故そいつをチョイスした。


 手を振る幻覚ちゃんと別れて私たちは町を出た。

 幻覚ちゃんいい子だったなあ、また会えるといいな。


「どうするリン」

「とにかく王都から直線で離れたい」


 私の希望で王都から反対側にある町を目指す。

 これはデトラグの町まで来たのと同じ理由である。


 デトラグの町ではまだ王都に近すぎた為に、困った事に王子の活動範囲内だったのだ。

 とにかく少しでも王都を中心としたこの円の中から脱出しなくてはいけない。


 一刻も早く王子から離れたいと焦った為に、とにかく黙々と歩き続けた。普通の倍の速度は出ていたと思う。

 で、ご飯無しで三時間くらい歩いて私はバテた。もうだめだ、何か食わせろ。


「つ、疲れたあ、ちょっと休んでいいかな」

「あそこに村があるからそこで休もう」


 私たちが休憩にと訪れたのは小さな村だった。


「すみません、ここに宿はありますか」

「個別の部屋はにゃーけど、皆で雑魚寝する宿なら一軒あるでよ。今ちょうど有名な勇者パーティーのご一行様が逗留されとるわ、おみゃーさん方でら良かったでねえの」


「さ、とっとと先を急ぎましょう。私たちの冒険は、こんな所で足踏みをしている場合じゃないのよ」


「もう歩けないブヒ」

「歩けないのなら転がればいいじゃないの」


「姫がその可愛い足で、踏んで転がしてくれるのなら大歓迎ブヒ」


 最近モブ太君の影が薄いなと心配していた所だったんだけど、この人は薄い状態がちょうどいいのかも知れない。

 世の中には起こしてはいけない獅子が存在するのだ。


「リンもちょっと青い顔をしてるし心配だよ。今日はここに泊まって何とか顔を隠してやり過ごそう。手ぬぐい持ってるよね」


 私の顔が青いのは主にモブ太君のセリフの所為なんだけど、他の人も疲れてるだろうし仕方ないかな。

 みんな私の逃亡に付き合ってくれてるんだしね。


 でも手ぬぐいは靴に巻いた後で未だに洗ってないんだよねえ、花柄の手ぬぐいなんか借りたまま宿に返し忘れてるし。借りパクしちゃったよ。


「この村の特産品の唐草模様の手ぬぐいが売ってたから買って来たよ。これ着けて他のは洗濯しなよ」

「あ、ありがとう」


 私の手ぬぐいコレクションが充実して行く予感。

 とりあえず買ってもらった唐草模様の手ぬぐいを頭に巻いた。


 ふむ、よく考えたら手ぬぐいでのほっかむりではなくて、こういう時の変装定番であるところのフード付きローブで良かったんじゃないだろうか。


 とはいうものの今まで買いに行っている暇も無かったし、何より買うお金が無かったわ。

 ローブって結構なお値段なんだよね。ねこみみとかついてる可愛い系は更に高い。憧れグッズだ。


「うさみみも捨てがたいブヒ、網タイツで尻尾をお尻に付けると更に高得点だブヒ」

「メガネみみもいいですね」(メガネくいっ)


 うさみみも可愛くていいよねえって、ちょっと待って、網タイツで尻尾だと?

 いやいやそれじゃない、わたしが今つっこみたいのはそこじゃない、メガネみみってなんだよ!


 さて、いよいよ勇者パーティーが休んでいるという危険な宿へ侵入である。

 安らぎを求める宿へ行くのに、こんなに緊張した事がかつてあっただろうか。ダンジョン並の危険度に思えて仕方が無い。


 勇者パーティーは王子と繋がっているのだ、私の逮捕命令を受けていてもおかしくはない。

 抜き足差し足で宿に入ると、だだっ広い空間にいくつかのパーティーが寝泊りしているのが見える。さて勇者パーティーはどこよ。


「おいアレンタ、泥棒みたいなヤツが入ってきたぞ、何だこいつ盗賊か? 退治しとこうか?」

「怪しいね、僕たち勇者パーティーから、素敵グッズを盗むつもりかも知れないよ」


 ぎっくうう!

 入り口の直ぐ横に勇者パーティーはいた。


 大物なんだからもっと奥を牛耳ってなさいよ!


 違いますから、あなたたちのグッズを盗みに来たなんてとんだ言いがかりですから。

 これは乙女のオシャレグッズだと声を大にして言いたい! 声でバレるから言わないけど。


「怪しいな、王都の拠点から俺が楽しみにしてた高級酒を盗んだのもこいつだったりして」

「僕が毎日磨いていた壷を盗んだ犯人かも?」


 違いますから……いえ、完全に私の犯行でございます。


 私が餞別にと持っていった品物をまだ覚えてるのかよ、その部分だけ痴ほう症になってさっさと忘れろよ。

 壺に至っては呪われグッズだったのよ、私が処分したおかげで助かってるんだよアレンタ君は。


「違うよ、この子は盗賊じゃなくてシーフ忍者だよ」

「そ、そーよー、常にこうやってぇー鍛錬を重ねているのよぉー、私はーシーフ忍者だからぁー」


 グッジョブアシストのフィギュアちゃんに乗って、私も声色を変えて通り過ぎる。


 なんだか勇者パーティーが可哀想な子を見る目になった。


 なによ、なにか文句でもあるのかしら、声色が変だった?

 高い声を出し過ぎて喉が痛いんだけど、喉の心配かしら?


「こいつ結構な年いってそうなのに、まだ人形遊びやってるぞ」

「うん、リンより痛々しい子、初めて見たよ」


 おいアレンタ君、私より痛々しいってどういう意味だこら。


 くうう! 全く怪我してない部分に初等治癒魔法をかけて、血行をよくして痒くしてあげましょうか?

 半泣きの私は勇者パーティーから離れてそこに座った。


「気を落としちゃだめだブヒ、姫の可愛い足とフィギュアは世界の宝だブヒ」

「う、うん、なんか釈然としないけどありがとモブ太君」


 落ち込んだ私を慰めてくれてるんだから良しとしますか。


「よ、彼氏彼女、仲良しカップルだね!」


 何故か周りの冒険者から冷やかされた。

 仲良しカップルだなんて、何故そういう方向になるのかさっぱりわからないんだけど。


 どうしてモブ太君と私がカップルに間違われるのか。

 そもそもモブ太君て、生身の女の子に足以外で興味あるのだろうか。


「一にフィギュアニにフィギュア、三四が無くて五にフィギュアだブヒ」


 ちょっと、私の足は? あ、いやそんな事はどうでもいいのよ、ちょっと傷ついてたりなんかしてないんだからね!

 やっぱりモブ太君はフィギュアにしか興味無いよねえ……ん、フィギュア?


 慰めてくれるモブ太君の胸ポケットからは、フィギュアが顔を出している。

 私の胸元からはフィギュアちゃんが顔を出している。


 これか! たまにモブ太君が私の彼氏扱いされるのは、ここに原因があったのか!


「私はここがいいの!」


 原因の元を胸元から出そうとしたら、フィギュアちゃんに服にしがみつかれて抵抗された。


 もう完全にフィギュアちゃんの定位置になっているし、もう仕方ないからあきらめるしかないかなこりゃ。



「なんとしてもリンのやつを見つけ出さないとな!」


 とほほとなっていた私は、突然名前を出されてビクンとなった。


 声の主は勇者パーティーだ。

 離れて座ったといってもすぐそこにいるのだ、声なんて丸聞こえである。


 私を見つけ出す……だと!


 次回 「勇者パーティーとの攻防」


 リン、勇者パーティーに震撼する

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