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第31話 くっそやばい依頼


 宿屋で借りた部屋は二部屋。

 さすがに男の人たちと一緒の部屋では寝起きできないのだ。


 女の子として当たり前だ。

 だって枕を二つにへし折って噛り付いて寝てる姿なんか、見せられるわけがないじゃないか。


「でもリン、野営の時はリュックに抱きついて寝てるよ?」


 野営の時はいいんです! モンスターに怯えて寝ている可憐な少女風なんだから。


「リュックに齧りついて寝てるよね、あれも怯えた少女の演出なの? リュック美味しいの? 私も齧っていい?」


 うるさいなあ、フィギュアちゃんを齧らないだけいいでしょ。

 ああフィギュアちゃん、リュックを齧って『ベっ』ってやってるよ、不味かったんでしょうね。


 さてどうしようか、この宿で大人しくモブ男君たちを待ってた方がいいんだよね。

 今外はホラー王子が徘徊している危険地帯だし、迂闊に外に出れないよ。


 だからここでぐうたら寝てるのも仕方ないんだよね?

 はーやれやれ、私は仕方無いからここでのんびり自堕落に過ごすのよ、はーやれやれ。


 部屋でぐうたらを満喫していると『トントン』と扉が鳴り、私の返事よりも先に幻覚ちゃんが乱入してきた。


「リンお姉さん、お人形ごっこやろう! これは私のフレンドリカローズマリーちゃん人形だよ」


 そう言って幻覚ちゃんは持って来たお人形を私に見せた。

 名前長すぎるよ、覚えられないよ。


 とっさの機転で私を助けてくれたりしてしっかりした子だけど、こういうところはまだまだお子様なのね。


「こんにちは、私フレンドリカジェーンバービーマリーちゃん、八歳の女の子よ」


 さっきの名前と若干違う気がするのは気のせいだろうか。


 幻覚ちゃんがお人形で私に挨拶してきた、その様子はとても可愛い。

 女の子がお人形で遊ぶ姿は、なんて微笑ましいんだろうか。子供は夢があっていいなあ。


「パパのデルドモンデ卿は宝石商も営んでいる、国を裏から操っている権力者なの。誰も逆らえないのよ、私は将来下僕どもの女王様として君臨するのよ、オホホホ」


 どんな設定なのよ、子供らしい夢が若干遠のいた気がするわよ。


「うーんだめだ、リアリティが無いよ。どうやったらリンお姉さんみたいに、人形が本当に動いている感じに見せかけられるのかな。リンお姉さんは腹話術も上手いよね」


 そう言いながら幻覚ちゃんが見つめているのはフィギュアちゃんだ。

 フィギュアちゃんの事を私の一人芝居だと思われていたのか! まさかの事態である。


「ち、違うわよ、そんなんじゃなくて。さすがに私はもうお人形遊びはやってないから、私もう十七なのよ」


「大丈夫恥ずかしがらなくていいよ、そりゃ私だって七歳でお人形遊びは卒業したよ。最初はリンお姉さんたらまだお人形遊びなんかやってる、ププ可愛いって思ったんだけど、ここまでリアリティ重視だと芸の域に達してるんだもん。生暖かい目で見てる場合じゃないなって」


 私十歳の子に上から目線で暖かく見守られてたよ!


「違うって、フィギュアちゃんは本当に動いて喋って食べてるんだって、ホントなのよ」

「はいはい、大事に胸元に入れちゃって、リンお姉さん可愛い」


「ああああ! ほらフィギュアちゃんからも何か言ってあげて」

「すやあ」


 寝てるし! この一大事に何て事をしでかしてくれてんのよ!


 その日は夕方まで幻覚ちゃんの暖かい目に見守られながら、お人形ごっこをさせられるはめになった。

 モブ男君たちが宿屋に到着したのは、幻覚ちゃんから解放された夜になってからだ。


「随分遅かったけど、いい仕事物件見つからなかったの?」

「ただいまリン。美味しい依頼があったから、ボクたちだけでさっさと済ましてきたんだよ。リンには休んでてもらいたかったからだけど、勝手にやっちゃってごめん」


「まあ私は別にそれでいいけど、稼いで来てくれればその方がラクチンだし。どんな仕事だったの?」

「メーデン子爵のお嬢様の猫ちゃん捜索依頼」


 どこまで逃亡してるのよあの猫! 町を跨いできたわね!


「ふう、さすがにリンみたいにはいかないね、見つけるまでに五時間もかかったよ。ずっと僕の足元にじゃれ付いてた猫が、まさかそれだったとは思わなかったんだ」


 いい加減に対象の猫を覚えようよ、猫の方は完全に顔見知りとして懐いてきてるよね。


「ノートに記録した足を舐める回数が一回多かったのですよ、データに無い進化を遂げられるとお手上げです」


 猫の特徴を記録しなさいよ!


「ついでにオーガの素材も売ってきたから、この町での滞在費はなんとかなるけど、明日は朝一で冒険者ギルドでいい物件を探そう。もう少し稼いでおかないとね」




 次の日の朝、私たちパーティーはギルドが開くのと同時に内部になだれ込んだ。

 早く行かないといい依頼物件が無くなってしまうからだ。


 因みに私は宿屋で借りたお花の柄の手ぬぐいでほっかむりをしている。

 顔を隠しつつも、お花の柄で乙女のオシャレ感をさりげなく演出するのだ、もう泥棒スタイルなんて言わせない。


「ギルドに泥棒が押し入ってきた!」

「盗賊か! 何を盗みに来た!」


「こんな可愛いお花の柄の乙女チックな盗賊がいてたまりますか!」


 目が腐った冒険者連中相手にぷんすかしている私を、モブ男君が『まあまあ』と小脇に抱えて掲示板まで連れて行ってくれた。


「今朝は無いねえ、猫ちゃんの捜索依頼」

「今頃王都に強制送還されている馬車の中よ、もっと違う物を探そうよ」


「ねえリン、これなんかいいんじゃないの?」


 フィギュアちゃんが見つけたのは〝コカトリスの玉子を取ってくる〟という依頼だ。

 うーんコカトリスねえ……危険極まりない物体だわ。


「盗んでくるなんて楽勝じゃない? ちょうどリンも盗人のコスプレしてるし」


 だからこれは泥棒スタイルじゃねーわよ!


「コカトリスは危険度の大きいモンスターだよ。見られると石にされるから、なるべく近づかない方がいいかな」

「そうそうコカトリスなんて危険物体は、私たちDランクパーティーの手に負える相手じゃないわよ」


 でも見た目は鶏みたいなものなのよね。

 鶏かあ、玉子料理食べたいなあ、オムレツオムライスに目玉焼き、今晩のご飯は玉子にしたいな。


「玉子にしたいなあ……」


 私の呟きを聞いたモブ男君。


「うん、そうだね、コカトリスの玉子に挑戦してみようか。リンがいれば大丈夫」

「異議はありません」(メガネくいっ)

「ブヒ」


 ん、どゆこと?

 ごめん、今タマゴ料理の世界にトリップしててよくわからなかった。あ、涎拭かなきゃ。


「じゃ、リンの言うとおり、コカトリスの玉子奪取に出発!」


 私の意見て何?

 いつの間にコカトリスなんて危険物の玉子を取りに行く事になってんの?


 次回 「コカーコッコッコッコ」


 リン、何故かコカトリスに挑むことになる



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