第29話 モグラ大好き幻覚ちゃん登場
妖精の村で思わぬ寄り道をしてしまったが、私たちは当初の予定通りデトラグの町に向かう事にした。
「と言っても随分道から外れてしまったからね、方角を決めて適当に進むしかなさそうだよ」
随分とアバウトな旅だが、妖精の村がどの辺にあるのかサッパリなのでまず森から出る事を目指すのだ。
そんな偶然に道に出るわけが無いから、森の中で長期戦は覚悟しよう。仕方無い、これが冒険なのだ。
「道があったね」
「アッサリ道に出たわね」
森の中に小さな小道があったのだ。その道を真っ直ぐ進むとやがて森を出てそのまま街道に繋がった。
予定していた森の中での大冒険はキャンセルだ。
「リンお腹空いた、お弁当にしようよう」
森の出口でのフィギュアちゃんの要望で、まだ早いけどお弁当にする。
妖精たちがお弁当にと渡してくれた包みを開けるとお花が出てきた。
ですよねー。
フィギュアちゃんは美味しそうに花の蜜を吸っているけど、私たちのお腹の妖精はこれでは満足してくれない。
「こんな事もあろうかと、さっき森でうさぎを獲っておいたんだよ」
「こんな事もあろうかと、モグラを獲っておいたブヒ」
「珍しいキノコがあったので採取しておきました」(メガネくいっ)
いつの間にそんな隠密行動をしていたのよこの人たち、全く気がつかなかった。
町の雑踏だけじゃなく森の中でも如何なくその能力を発揮するとは、モブ力恐るべし。
でもモグラはともかく、その黒地に赤い斑点のキノコは明らかにヤバそうなので捨ててもらえるだろうか。
とにかくお昼ご飯だ!
火を起こしてお肉を焼くいい匂いが漂いだしたぞ、切り株の上で正座してワクワク待ってるフィギュアちゃんが可愛い。
フィギュアちゃんを含めて私たち六人パーティーは、焼けたお肉に噛り付いた!
「やっぱりうさぎ肉は美味しいね!」
「リン、私もうさぎ食べる」
「頑張ってうさぎを獲った甲斐があったよ」
「モグラは丸焼きに限るブヒ」
「ほら謎のキノコも焼けましたよ」
「モグラのお肉大好き!」
私たち六人は満面の笑みだ。
六人……?
えーと私にフィギュアちゃんに、モブ男君たち三人でしょ……六人?
さっきから当たり前のように、モグラの足に噛り付いているこの謎の女の子はどこから発生したのか。
「ほらぁ! メガネ君の怪しいキノコのせいで幻覚出ちゃってるじゃないの!」
「ちょっと寄こせと齧ったのリンさんじゃないですか、ふむ、黒地に赤い斑点のキノコは濃厚な味と、ノートに記載しておきますか」
そうじゃねーわ! キノコの味じゃなくて幻覚症状の事を記録しなさいよ!
こんな所でお薬キメてラリってる場合じゃないのに、でも可愛い女の子の幻覚が見れたのなら、それもまたよし。
「スージー! ああ、こんな所にいた。ダメじゃないの、よそ様の食卓に乱入しちゃ」
「ごめんなさい、あんまり美味しそうな匂いだったからつい。モグラのお肉の魅惑に抗いきれなかったの」
幻覚ちゃんが可愛く謝る。ついでに母親らしい幻覚さんも登場だ。
「お姉さん、今どうして私に抱きついたの?」
「幻覚ならお触り自由だと思って」
「私幻覚じゃないよ、ちゃんと血肉もあるにんえひゃひゃ、くすぐるのだめー」
「本当にありがとうございました。お昼を頂いた上に、脱輪した馬車を立て直して頂いて助かりました」
幻覚ちゃん母娘はデトラグの町で宿屋を営んでいるらしく、今日は用事があった王都から帰る途中で馬車にトラブルが発生して立ち往生していたみたい。
困っている所に偶然私たち(のお肉の匂い)が通りかかったというわけだ。
「漂ってきた匂いを嗅いだ瞬間、モグラだ! って駆けつけちゃった。モグラってなかなか食べられないんだよね」
そりゃモグラはあんまり流通してないからね、皆わざわざモグラなんて食べないし。
『モグラ大好き』と可愛く笑う幻覚ちゃんは十歳の女の子だ。モグラのお肉愛好家らしい。
私たちパーティーは母娘の馬車に便乗してデトラグの町に向かうことになった。
こっちとしては歩かなくてラクチン、母娘はタダで護衛を得た形になる。
護衛代を貰うかどうかはいろいろと面倒だしで悩んだんだけど、デトラグの町に着いたら宿代を安くしてくれると言われて商談成立。町までのんびりと馬車の旅になった。
モグラを獲りつつ三日後、ついにデトラグの町に到着。
と、とにかく町に着いてよかった……ここ数日幻覚ちゃんの要望でずーっとモグラ三昧だったからね、やっと違う物が食べられるよ。モグラからしてもいい迷惑だったはずだ。
「ボクたちは冒険者ギルドに寄って適当な仕事を見つけてくるよ、リンは先に宿屋に入っておいて」
「了解よ」
王都から近いこの町の冒険者ギルドには、私の知り合いがいる可能性もある。
王子の追手がかかっている事を考慮すると、私はギルドには顔を見せない方が良さそうなのだ。
「リンお姉さんこっち! 宿まで私が案内するよ!」
幻覚ちゃんの手に引かれて町の中を歩く。幻覚ちゃんの母親は馬車を返しに行って別行動である。
案外人通りが多く大きな町に、私もフィギュアちゃんも珍しくてきょろきょろしてしまった。
私の村から近い町だけどデトラグの町は私が子供の頃に一回遊びに来た事がある程度で、殆ど見知らぬ土地なのだ。
村人は基本あんまり出歩かない、勇者パーティーも用事が無かったので来た事はなかった。
「ねえリン、あれ何かな? 人がいっぱい集まってるよ?」
フィギュアちゃんの小さな指が差す方向には、なるほど人の固まりがあるようだ。
何かの大道芸か見世物かな、ちょっと見てみたい!
「違うよ、これはフィギュアちゃんが見たいだろうなと思って親切心で見に行くだけで、私が子供みたいにワクワクしているわけじゃないのよ」
「どしたのリン、見に行こうよ。はやくはやく」
自分自身に謎の言い訳をしながら人を掻き分けて進んでいく、幻覚ちゃんも何だろうという感じでついて来た。
大道芸ではなかった。
広場の中央に謎の展示物が置かれていて、皆それを拝んでありがたがっているのだ。
宗教か何かだろうか、とも思うのだがその展示物が変なのだ。
それは枕だった。
次回 「デトラグの町で王子と異常接近!」
リン、ほっかむりをする
本日投稿予定です




