第26話 オーガウェー海戦
「いたいよー、いたいよー」
運ばれてきたオーガに襲われたという妖精の子は泣き叫んでいる。
よく見たら腕が食いちぎられているじゃないの!
とにかく傷を塞いで痛みだけでも緩和してあげないと!
私には初等治癒魔法しかないけど、それでも無いよりはマシなはずよね!
全力で治癒魔法をかけると、見る見る傷が塞がっていき――
腕が生えた。
何でよ!
いったい何が起こったのか。
「すごい! 腕生えた!」
「さすがリンだね、再生魔術を使うなんて」
いえ、私そんなもの使った覚えがないです。
「どうしてよ、初等治癒魔法しか使ってないのに完治するわけが……」
「私たち身体がちっちゃいからね」
「小さな魔法でも私たちにはガンガン効くよ」
「効く効く」
「簡単な初等魔法でも、私たちにとっては偉大なる蘇生魔術だよ」
そんなアホな事が……実際目の前で起こったんだから納得するしかないのか。
「腕が治ったのはいいけど、あんまり村の外に出ちゃダメだって言ったのに」
「だって大きい子ちゃんが花の蜜じゃお腹一杯にならないから、果物を取ってきてあげようと思ったんだもん」
私のせいだった。
さっき果物を持って来て欲しかったなんて思ってごめんなさい。
「ご、ごめんね、私がお腹を鳴らしたから行って来てくれたんだよね」
「謝らなくていいよ、悪いのは全部オーガなんだから」
「あのクソオーガ」
「ブチ殺してやりたい」
「あのクズが」
「ウンコ野郎め」
だから妖精のイメージが壊れるセリフは禁止ですよ。
歓迎会は緊急オーガ会議になった。せっかく私たちが村に来ているので事情を聞いて欲しいというのだ。
どうやら最近妖精の村周辺に、人食いならぬ妖精食いオーガが住み着き妖精たちが襲われているという。
村の結界は破られないものの非力な妖精たちでは巨大なオーガに太刀打ちできず、村から出るのは命がけだそうだ。
「私たちは完全に引き篭もりになっちゃった」
「ニートよニート」
「不要不急の外出は控えてください宣言出ちゃってるもんね」
緊急事態みたいね。
妖精たちには何か戦う力はないのだろうか。平和な子たちだからそういうのなさそう。
「私たちは一応電撃は持ってるんだけどね」
「ちっちゃいから電力は弱いんだ」
「この電気で通信できるから便利なんだけどね」
「離れて意思疎通大事」
「どんな感じなのかな」
「ちょっとあなたにピリって電撃ってみるね」
そう言って一人の妖精が私の肩に乗り、全力の電撃をお見舞いしてくれた。
「うおおおおおお!」
こ、これは! 肩こりに効くうううう!
ちょっと腰にやってもらえないかな? うおおおおお! 腰にも効くうううう!
はあはあ、大変気持ち良しゅうございました。
でもこれじゃだめだ、これではオーガが元気になるだけだ。
「ねえモブ男君、オーガをなんとか退治できないかな」
「うーん、オーガって結構強力なモンスターだからねえ、でも僕たちにはリンがいるから怖いものなんて無いのかも知れないけど」
その私を基点とした自信は、何の根拠も無いから全く安心できません。
でも皆で力を合わせてなんとかこの困難を乗り越えてみようじゃないか。
「オーガ退治に向かうのなら、村の妖精全員が出撃するよ」
「総力戦だね」
「でもどうやって倒すの?」
「皆で取り囲んで熱で殺すとか?」
どこのミツバチかな。
「村のみんなには、索敵や陽動をしてもらいます。決してオーガに近づかないでね。振り回して散々疲れさせたオーガを、最後に私たちパーティーがボコる。というのでどうかな」
「うん、何て緻密な作戦なんだ、すごいよリン」
いやザルすぎる気がするんだけど。まあいいか。
「赤城隊発進用意!」
「飛龍隊準備よし」
「筑摩一号機出撃します!」
「利根四号機出ます!」
村の中からどんどん索敵役の妖精たちが出撃していく。
しかしこの不安な胸騒ぎはなんだろう。よくわからないけど各隊の名称がダメなんじゃないだろうか。とにかく頑張れ偵察隊!
私たち打撃隊は村の中で待機である。
出撃した偵察機から逐一報告が入ってくる。敵発見を今か今かと待っているのだ。
因みに味方からの報告を受信して伝えてくれているのは、通信係の妖精ちゃんだ。妖精の子の電気は便利である。
『こちら筑摩一号機、敵影なし』
『利根四号機同じくなし』
「樹海は霧が発生して索敵が上手く行っていないみたいね」
どうしよう、肝心のオーガが見つからなければ話にならないんだけど。
「とりあえず赤城隊、加賀隊、蒼龍隊、飛龍隊は、オーガの寝床と思われる場所を襲撃して枕や布団を荒らして来てちょうだい。休息する場所が無ければ困るだろうから」
「ラジャー!」
第一次攻撃隊が発進した。一斉に妖精たちが出撃するのを残った皆は手を振って見送る、壮大な出撃風景だ。
留守の間に住みかが荒らされる、なんという嫌がらせだろうか。これで嫌になって森から出て行ってくれれば万々歳だ。
「まだか、まだオーガは発見できんのか!」
「リン、少し落ち着こう。コーヒー入れるよ」
足でトントンと地面を鳴らして落ち着かない私に、モブ男君が飲み物を差し出してくれる。
『第一次攻撃隊より発信、攻撃は成功! 敵のリビングと寝室をめちゃくちゃにしてやりました!』
第一次攻撃隊からの吉報だ!
『わー!』と残留組が活気付くのを、私はコーヒーを飲みながらうんうんと頷いていた。
まず先制はできた、勝負はこれからだ!
『しかし、敵のキッチンは手付かず、更なる攻撃要と認む』
どうする、キッチンを叩く為に第二次攻撃隊を出すべきか、それともオーガ発見を待つべきか。
どうする――!
ええい、オーガの発見はまだか!
次回 「赤城、加賀、蒼龍、飛龍隊壊滅!」
リン、思わず五分間遊んでしまう
本日中に投稿予定です




