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第23話 フィギュアちゃんが飛んでっちゃった!


 その日は久しぶりに親子三人で寝たよ。

 モブ男君たちには悪いけどカリマナの新居で寝てもらった。因みにフィギュアちゃんは私の胸元ですやすや眠ってる。


 懐かしいよ、子供の頃と同じだよ。

 寝相の悪いカナにヘッドロックをかけられたまま目覚めるこの朝も、蹴り飛ばされてベッドから落ちて寝てるカリマナを、起きがけに踏んでしまうこの感触も、全部が懐かしいよ。


「ちょっとリン、懐かしがってないで私から足をどけてくれるかな?」

「あらおはようカリマナ、ぷにぷにマットかと思ったわ」


 もぞもぞと私の後ろでカナが起き上がった気配がする。


「こらー、お前たちもう少し寝れるのらー」

「おはようカナ、うわーヘッドロックやめて、寝ぼけてるよね、もう起きよう!」


 カナを娘二人でベッドから引きずり降ろして、朝ご飯の仕度をする。

 と言っても、パンにチーズを挟んでお茶を入れておしまい。簡単な朝食も懐かしい我が家の味である。


「もうさ、リンはこの村に帰って来ちゃいなよ。勇者パーティーから抜けたんでしょ?」

「うーん、そうだねえ、でもやめとく」


 確かに我が家は懐かしくて居心地がいいけれど、せっかくパーティーになった仲間たちと今は冒険がしてみたいんだよね。

 それに私の片腕を狙ってるホラー王子の追っ手が来る可能性大だし、皆には迷惑がかけられないや。


 家の前でモブ男君たちと合流する。

 カリマナの旦那のカンケン君は、特に急ぎの仕事でもないのに朝早くから出勤したようだ。チ、逃げやがったな。


「腰が抜けた犬みたいになってたブヒ」

「ほほほ、大切な妹をよろしく頼みますと挨拶したかっただけなのに」



 村の中を歩いていると、どうも様子がおかしい。


「あ、おばば様、この状況は一体何事なの?」


 昨日までの村の状態と比べて違和感があるのは、勇者の銅像の撤去作業をしていたり、勇者まんじゅうや勇者煎餅などの勇者食品、勇者グッズなど全て閉店大売出しで格安販売されている点である。


「勇者アレンタはもう賞味期限が来たようじゃからな、これからはモブパーティーに切り替えようかと思ってのう」

「はあ、随分チャレンジャーな気がするわね」


「ほっほっほ、次はお前らの時代じゃよ、ここにモブパーティーの銅像をどーんと建てとくから楽しみにしとけよ。リンの銅像のスカートの下はTバックにする案が出とるぞ」


 夜中にこっそり破壊しに来よう……

 固く心に誓った。


 村の門まで来た、ここでしばしのお別れだね。


「じゃカナ、カリマナ、行くね」

「おう、名を上げて来い」

「またねリン、ブヒの人と結婚する時はちゃんと教えてね」


 だからしないってば。


「モブパーの皆さん! バンザーイ! モブパーバンザーイ!」


 村の人たちに見送られて出発する。

 だからその掛け声やめて頂けませんか。



「さてリン、どっちに向かおうか?」

「やっぱり王都から離れて直線ルートがいいかなあ」


 リーダーのモブ男君と地図を広げながら相談する。

 王都との反対側で一番近いのはデトラグの町だ、とりあえずそこに行って冒険者の仕事をして路銀を稼ぐという事で決まった。


「じゃデトラグの町へ出発だ!」


 リーダーの掛け声でモブパーティーは元気に歩き出す。

 元気なモブパーティーは、なんかモブらしからぬ違和感があるなあ。


「ねえねえリン、これ膨らませて」


 私の胸元でフィギュアちゃんが何かでろんとした物体を私に差し出した。


「何これ」

「勇者ふうせん! もういらないって貰ったんだー」


 あーそういえば、フィギュアちゃんとは後で屋台を廻って遊ぶ約束してたんだっけ。

 翌日に屋台が終了状態だから遊べなかったね、ごめんね。


 風船を膨らますなんて何年ぶりだろう。

 頑張って大きく大きく膨らませて、空気の入り口を縛って紐付けて、はい完成。


「わあ、ありがとうリン! ふうせんだー、わーい」


 風船の紐を握ってはしゃいでいるフィギュアちゃん。

 可愛いな、あんなにはしゃいで、空飛んでるよ。


「ファ?」


 ほのぼのしてる場合じゃなかったわ!

 飛んでってる! フィギュアちゃん飛んでってる!


 風に流されていくフィギュアちゃんを大慌てて追いかけていくが、やがて姿が見えなくなった。


 どうしよう――!


「ちょっとモブ太君、敬礼して見送ってる場合じゃないわよ!」

「と、とにかく皆で飛んでった方向に行ってみよう!」


 進んでも進んでもフィギュアちゃんは見つからなかった。

 草原を越え川を越え、とうとう森に入ってしまう。


 風の方向はこちらで合っていると思う、でも森の中じゃ正直見つけるのは厳しいかもしれない。

 私にはただ、こっちじゃないかな? という感があるだけにすぎないのだ。


「フィギュアちゃーん……」


 はしゃいだり、ケンケンパして遊んでたり、何気にフィギュアちゃんはこのパーティーの心のオアシスだったのに。


「どうしますかリンさん、この森けっこう深そうですけど」

「探してあげなきゃ、心細い思いして泣いてたらどうすんのよ……」


 そう呟きながら泣きそうになる私に、モブ君は頼もしく宣言してくれる。


「大丈夫だよリン、僕たちパーティーは仲間を絶対に見捨てたりしない」


 それは仲間に見捨てられた私に対する言葉だったのかも知れない。

 捨てられた私は、仲間を見捨てるなんて絶対にありえないんだから!


「実に惜しい人を失くしたブヒ」


 決意してるそばから不吉な事言わないでよモブ太君!


「おや、これは実に興味深い」(メガネくいっ)

「もう! 雲の形とか木の枝とか昆虫とか今はどうでもいいでしょ!」


 上を向いてノートを取り出したメガネ君に厳重注意だ。それどころじゃないんだよ今は、このパーティーから二大ヒロインの一角が崩れてしまう一大事なのよ。ただでさえ男性率が多いんだから。

 モブ太君とメガネ君を正座させてお説教タイムである。


「いえ、あそこの木の枝に風船が引っかかっているんですよ」


 うわあああ! フィギュアちゃんの風船じゃないの! 早くそれを言ってよ!


「フィギュアちゃん、フィギュアちゃんどこ?」


 目を皿のようにして辺りを探索すると、木の枝に人形が座っているのを発見!


 パ――――ン!


 まずい、やっちまった、両手で思いっきり挟んじゃった。

 一瞬グルグル目玉になったその子は、すぐに『はっ』と気が付き叫んだのである。


「しまった、人間に捕まっちゃった!」


 よく見たら、妖精だった。


 ま、まぎらわしい……


 次回 「私も妖精よ! キラリン」


 リン、妖精にジト目で見られる

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