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第22話 リンのフルパワー


「さあ、上がって上がって」


「お邪魔します」

「た、ただいまー」


 懐かしい我が家だ。十三まで過ごした私たちの家。

 そのガラーンとした家の中の雰囲気に、思わず下を向いてしまった。


「どしたリン。こんなに家が狭かったっけっと思ってるか、お前は広い世界に出てったからなあ」


 逆だよ、こんなにガラーンと広かったっけという思いだよ。


「うん、私もさ、娘たちがいなくなってから、こんなに家が広かったっけっと思ったよ。随分私も老け込んでしまったわ」


 三十後半でそんな事言ってたら色んな人が怒ると思うよ。特におばば様が。


「ようし、じゃあハンバーグステーキ作ってやっから、あんたはそこの剣士君に自慢の庭でも見せてやってくれ」

「私もお手伝いします、お姉さま」


「おう、手伝え手伝えフィギュアちゃん、こき使っちゃうぞー。そこのモブ顔の二人、悪いけどちょっと薪割りでも頼むわ」


 私はモブ男君を庭に連れて行った。そこは皆で作った花壇に花が咲いていた、カナがちゃんと手入れをしてくれていたのだ。

 私の花壇、カナの花壇、そして――


「リン、大丈夫?」


 多分私は、目からぼろぼろ零してたんだと思う。


 私は縁側に座って一息ついた。

 今から語ろうと思う、モブ男君には悪いけど吐き出してしまおうと思う。


「私が名前を覚えないのは、覚えられないのは、その人が居なくなった時に耐えられないから」

「リン?」


「私には一つ下の妹がいたんだ。妹と言っても血は繋がってないんだけどさ、ここはその三人で暮らしてた家なんだ。昔本当はね三人で村を出た、カナの本当の娘と私と勇者のアレンタ君。名前はカリマナ、うん、思い出す度に辛くなる名前。忘れようとしてたのに結局忘れられなかった名前」


 私はふーっと息を吐いた。リーダーは静かに聞いていてくれる。


「最初に村を出たのは私とアレンタ君。カリマナはすぐに私たちを追いかけてきた、やっぱり私と一緒に冒険がしたいんだって、それが夢なんだって。私全然気がつかなくてさ、次の日あの子は村の近くのあの大きな川で見つかった」


 目撃した人によると、どこかの町の貴族の馬車の前を横切ったとかなんとかで、謝るカリマナを川に放り込んだらしい。村の人で探したけどその日は見つからなかったんだ。

 私は何にも気がつかないまま歩いてた。で、知らせを聞いて急いで村に引き返したんだ、私が着いた時村ではお葬式をやっていた。


「あの子の棺の前にいたカナが私に気がついてさ、悲しそうな顔で微笑むんだよ。それを見て耐えられなくなっちゃってさ、ああ――この人は自分が一番辛いはずなのに、悲しいはずなのに、カリマナが私を追いかけて行ったせいだって私が自分のせいだって自分を追い込まないように、私に泣いている姿を見せたくないんだって。悲しい時に泣けないなんて辛いのに、私のせいで泣くこともできないんだって。なんかもうそう思っちゃったらさ、それからカナに会う勇気が出なくなっちゃってさ」


 リーダーは黙って私の背中をさすってくれた。


「いつまでもこんなんじゃだめだって思って、ここまで来たけどやっぱりきついね。ガラーンとした家を見るときついね。みんなで作った花壇を見るときついね」


 ぼろぼろとまた私の目から涙が零れ落ちる。


「ばっかだねえあんた、ずっとそんな事を気にしてたのかよ」

「カナ」


 いつの間にかカナが後ろに立っていた、手にはハンバーグが乗ったお皿を持っている。

 ちょっと作るの早すぎでしょ、もうちょっと時間的余裕をくれないかな?


「はあん? 食べ盛りのお前らがハンバーグハンバーグ、早く食わせろってうるさいから、ハンバーグスキルを手に入れたんだぞこっちは」


 なんですかそのスキルは一体。


「お前馬鹿だろ? リンが責任を感じて自分を追い込んだりして欲しくないのは当たり前だ、そんな事を思わせるくらいなら私は自分の感情くらいいつでも殺せるわ。ガキを育てるのに感情殺しのスキルも手に入れてんだこっちは」


 なんですかそのスキルも。


「親のスキルだよ! あのなあ私は自分より娘たちを一番にしたいんだ、お前らが可愛くて仕方ないんだよ」

「でも私は」


「自慢の娘だよ。私の夢は自慢の娘が世界に羽ばたく事なんだ。カリマナは世界に羽ばたけなかったけど、その分お前に夢を乗せてんだよ、私たち二人の、いや三人親子の夢だ。くだらねえ感傷に浸ってるくらいなら、さっさとハンバーグ食え、冷めちまうわ」


 私は突き出されたハンバーグを食べる、これだよ、この味だよカナの味だよ。


「お母さんの味だよ……うああ、えぐっもぐ、ひっぐ、お母さん」

「よしよし、お前食うか泣くなどっちか一本に絞れよ、いつまでもガキなんだから……でも」


 カナは優しく私の頭を撫でてくれた。


「久しぶりにお母さんて呼んでくれたな」



「あれーリン帰ってたんだ、お帰りー、あーハンバーグだ! ちょっとお母さん、私にも作ってよ」


 あーん? どこかで見た事ある女の子なんだけど、どちら様ですかね?

 四年前よりちょっと大人びたその顔は。


「な!? カリマナ? 何で? 死んだのに何で生きてるの? ゾンビ? あなたゾンビとして復活しちゃったの?」

「やだなあ、花の乙女十六歳をゾンビ呼ばわりしないでよ、生きてるよ、ピチピチよ」


 目の前の女の子を見てポカーンと口を開けてしまう私の隣では、事態についてこれなくなったモブ男君がフリーズしていた。その気持ちわかる、完全に置いてけぼりだもんね。


「だってあんた川に落ちて、お葬式もやったし」

「お医者が言うにはね、仮死状態だったのかなー? でも完全に死んでたしなー? みたいな? サッパリわかんないって。とにかくリンが私の棺にしがみ付いて泣きじゃくって帰った後で、私はひょっこり起きたみたい。それ以来ひょっこりさんって呼ばれてるのよ」


 一体何が起きたんだ、信じられない事が起きたらしい。それよりも、カリマナが生きてた……生きてた!


「カリマナぁあああ! うわああああああん」

「ああよしよし、ごめんね。手紙出しても冒険中とかでさ、渡らなくてさ、うわっ鼻水ついた。あーもう! リン! うわー鼻噛んだ!」


 泣いた私がカリマナの胸で思いっきり鼻を噛んだ後。


「あれ? だって娘がいなくなってってさっきお母さん、いやカナが」

「ああ、カリマナは結婚したんだぜ。そして隣に新居を構えた。やるだろ? 新妻だぜこいつ。十六歳の新妻」


 相手は誰ですか、通報してシバキ倒しますが。


「えへへ、カンケンとだよ」

「あのいつもいつも勇者アレンタ君をいじめて、私に逆襲されてボコボコにされてたあのクソガキ、じゃなかったカンケン君とかよ! よし、あいつ今どこにいるブチ殺してくるか」


「うん、リンの事はトラウマ……いい思い出なんだって。いいよー結婚て、もう毎日ラブラブ! あ、でも浮気しやがったらリンにすぐ知らせるから、海でも川でもぶち込んでいいよ」


 うぎゃああカリマナに先を越されたあああ! 呑気に冒険者なんかやってる場合じゃなかった!


「でもリンもなかなかいい男の人を見つけてるじゃないの。将来結婚するんでしょ? ちょっとモブっぽいけど」


 い、いやこの人は全然関係無いよ、うちのパーティーのリーダーだし。

 まったくカリマナったら、変な勘違いで先走るのはやめて欲しいんだけど。モブ男君にも迷惑だっての。


「リンの事よろしくお願いします」

「喜んで任せられたブヒ」


 おい、何故そっちをチョイスした。


 次回 「フィギュアちゃんが飛んでっちゃった!」


 リン、自分の銅像が出来たら破壊しに来ようと誓う

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