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第20話 なんだこのおかしな村は


「本当にありがとうございました」


 宴が終わった次の朝、村の外まで見送りに来たのは村娘ちゃん母娘と村の半分の人たちだ。

 残り半分の村人の見送りは無い。


 何故なら昨夜のどんちゃん騒ぎで、半分は二日酔いで死に掛けていたからだ。飲みすぎでしょあんたたち!

 村長もその中の一人である。村内の道の溝に頭を突っ込んで寝ている所を発見されて、今頃は村長宅で爆睡中との事。


「それじゃ僕たちは行くねリオンちゃん」

「はい、皆さん方パーティーの事は代々この村で語り継いでいく伝説にしたいと、今は亡き村長もおっしゃっていました」


 いやいや村長死んでないって。

 伝説として語り継がれるモブパーティーか、なるほどそれは興味深い。


「モブ従者と共に現れ、村に肉の祭典をもたらした酒池肉林の姫の伝説、という事みたいです」


 違う意味で興味出たわ。

 教科書に載ったら親に怒られそうな伝説だけど大丈夫だろうか。


「お肉をサバ折りしている肉林の姫リンの銅像も建造予定みたいですよ」


 その謎の銅像を建てるのやめてもらえませんか。


「それじゃ、バイバーイ」

「モブパーの皆さん! バンザーイ! モブパーバンザーイ!」


 村の人たちに見送られて出発する。

 でもその掛け声やめて頂けませんか。


「いい子だったブヒ」

「モブ太君は残ってもいいんだゼ?」


 ってホントに戻るなよおおおおお!


「お茶目な冗談だブヒ。姫の可愛い生足を愛でる方が大事だブヒ」


 すみません村の人たち、ご迷惑でしょうけどこの面白モブを引き取ってもらえませんか。



「さてそれじゃあリンの村に向かおうか、少し遠回りになってしまったけど楽しみだね」

「う、うん……別にそれはいいんだけどさ……って、ん?」


 ちょっと曇り顔になりかけた私の胸元に、フィギュアちゃんが滑り込んできた。


「何故私の懐に入った?」

「だってマスターの胸ポケットには既に他のフィギュアの先客がいるし、それに女の子としてあいつの胸ポケットに入るのは気が進まないんだもん」


 おーいモブ太君、マスターなのにあいつ呼ばわれされてるよ。

 うーん、私もフィギュアを懐に入れとくのは女の子として気が進まないんだけど。


 まあいいか、なんか柔らかいし。それにニコニコ笑顔で見上げてくる顔が可愛くて悪い気はしない。

 これがフィギュアに萌えるという感覚なのかな、フィギュアは仲間を呼ぶって聞くけど、私の胸元内で増加するのはやめてね。


「やっぱりパーティーに女の子がいると華やかでいいね。旅も楽しいよ」


 そうでしょうそうでしょう、全く役に立っている気はしないけど、いるだけで値千金よねえ私の華やかさときたら。


「私もいるしね!」


 見上げてくるフィギュアちゃんの頭を撫でながら歩く。うんうん可愛いよ。


「リンは作戦立てるのは上手いし、怪我したら治癒魔法を唱えてくれるし、お陰で僕たちは大きな怪我も無く冒険ができてる」


 初等治癒魔法でなんとかなってるのは、キミたちが軽い怪我くらいしかしないからなんだけどね。作戦も立てた記憶は微塵もありません。


 そんな呑気な旅をしながら数日間が過ぎて、私たちは大きな川の前まで来た。この橋を渡れば私の村はすぐそこだ。

 私はその川を見て泣きそうになる。故郷へ帰ってきたという懐旧(かいきゅう)の情ではない、これはもっと別のものだ。


 いつまでも川を見つめている私にモブ男君はそっと声をかけてくれた。


「無理しなくてもいいよリン。なんなら来た道を引き返して」

「何言ってんのさ、行くよみんな!」



 橋を渡ったらすぐに私の村に着いた。村名はカナルザック、懐かしの我が故郷だ!


「うひゃー! 懐かしい――……くもないな……何だこれ、どこよこの村、見た事も無い村なんだけど」


 私が出た時と村の様子が一変してる、な、何よこの村の入り口の巨大アーチは!


「『ようこそ、勇者を排出したカナルザック村へ』ってでかでかと書いてあるね、あ、向こうには勇者の銅像が建てられてるよ!」


 村は観光地と化していた。


「いらっしゃい、いらっしゃい、勇者まんじゅういかがっすか~甘くて美味しい勇者まんじゅう~」

「よ、そこのお嬢ちゃん、勇者飴買ってかない? 勇者団子もあるでよ」


「わあ、勇者おせんべいに勇者ふうせんもあるよ! ねえリン何か買っていこうよ!」

「ははっ……」


 お判り頂けるだろうか、大はしゃぎのフィギュアちゃんを懐に入れた私の目は死んでいるのである。


「観光客もいっぱい来てるねえ、勇者人気すごいな」

「勇者と言ったら時の人だブヒ」


 でも良かったよ、勇者関連のお菓子やグッズや銅像で助かった。

 こんな所でリンちゃんTシャツとかリンちゃんぬいぐるみとか売られていたら、軽く死ねる自信があったよ。


「ほらあそこにリンちゃんパンチングマシンが売ってるよ! リンちゃんサンドバッグも!」


 見えない見えない、何も見えない。私の目はおかしな物からシャットアウト中なのだ。

 フィギュアちゃんはノリノリである。


「リンちゃん当てゲームだって! リンちゃんの顔面にボールをぶつけて倒したら景品が貰えるんだって。リンちゃん叩きゲームもあるよ、面白そうやってみようよう」

「何で私はそっち系しか無いのよ!」


 気がついたらいつの間にかモブ男君たちがいない。また雑踏にまぎれてしまったか、こんな人のいない村なら大丈夫だと思ってたんだけどなあ。

 はあ、この中からモブ男君を探すの大変だよ。


「いや僕はさっきから隣にいるよリン。他の二人はお土産のリンちゃんメガネやリンちゃんフィギュアを見てくるって、屋台の方に行ったけど」


 フィギュアはまだいいとして、リンちゃんメガネとはなんなのか。


「これからリンはどうするの?」

「遊びたい遊びたい、私遊びたい、ねえリン遊びに行こう?」


「ちょっと待っててねフィギュアちゃん、その前に帰った事をおばば様に一応報告しとかないとね」

「えー、わかったー」


 村の有力者の一人であるおばば様は、私がこの村でお世話になった人の一人である。

 私はおばば様が住んでいる、村でも大きな建物の前に来ていた。


 うーむ。


 建物を見ていったん考え込み、そしてもう一度建物に視線を戻す。


 うーむ。


『勇者パーティーを快く送り出した村の女傑、皆が慕う憧れのおばば様ハウス、気軽に声をかけてネ。お土産コーナー有〼』


 なんだよこの巨大なワケのワカラン表札は。


 次回 「お前、勇者にクビにされたんだってな」


 リン、先制パンチを食らう


 本日夜に投稿します

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