表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/139

第19話 ボロボロの勇者パーティー再び


―――一方勇者パーティーでは――――


「くっそー本当に酷い目に遭ったわ、何だったんだあのゴーレムの強さはよ!」

「いつもならあの程度のモンスターに、手こずるわけが無かったんだけどなあ」


 ボロボロの勇者パーティーが街道を歩いていた。彼らはダンジョン〝試練の祠〟から逃げて来た所なのだ。

 そう、村娘Aことリオンが依頼した自称最強パーティーとは、実は勇者パーティーだったのである。


「アレンタ、お前の勇者の剣が鈍ったんじゃねーのか?」

「酷いなカスキースは! そっちの剣も全然だったじゃないか!」


 喧嘩を始めた勇者と剣士の横で、ボロボロの魔術師が酷い戦闘を回想して口を開く。


「あの手のゴーレムは、どこかに描かれた魔法陣を消したり削り取ったりすれば活動を停止するはずなんだが」

「ゴーレムのケツにあった魔方陣に水をぶっかけても、炎を当てても、剣を当てて削ろうとしても全然だったじゃないか。一ミリも消せないんでやんの」


「魔方陣がそんなに簡単に消えたら苦労はしない。それこそ浄化の力とか、なにがしかの魔法に作用する強力なパワーが無いと無理だ」

「はー、それを消すのが、魔術師であるお前の仕事じゃないのかよ、トンファンさんよう」


 ここで初めて明かされた魔術師の名前であるが、リンナファナはそもそも覚えていなかったのである。


「あの役立たずを追い出してから、碌な事が無い気がするぜ、一体どういう事だよ」

「まさかリンと関連性があったりしてね」

「ははは、あいつは関係ないだろ」


 実は関係大ありなのだが、まだ彼らはその事に気づいてはいない。


「それにしても何処に行ったんだコムギのやつは、あのクソガキいつも迷子になるな」

「ダンジョンから外に出た頃から姿を見てないね。まあ僕の村に行くって予定だったから、その内来るでしょ」


 勇者パーティーは勇者とリンナファナの出身村に辿り着くと、人目を気にしながらこっそりと村内に入った。


 予定では勇者パーティーだと堂々と凱旋するつもりだったのだが、余りのボロボロっぷりにプライドが許さずに、コムギの合流を待ちながらこっそり宿泊するだけに留めるつもりである。


 勇者アレンタにとってこの村は天敵だらけなのだ、昔からすぐに噛み付いてくる犬、追いかけてくる猫、急降下してくるカラスにからかってくるクソガキの友人たち。ボロボロの姿ではまたからかわれるのは間違いない。


 今まではリンナファナが飛んできて防波堤になってくれていたのだが、彼女はクビにしてしまったのでもういない。


 ただアレンタは完全に隠す事もできずに、村の有力者の一人である老女に一応挨拶に行く事にした。あとでバレて怒られると怖いからである。


「その人には挨拶しないとまずいのか?」

「今の国の神官長の師匠だからね、とんでもない人だよ。引退してからは神事からも政治からもスッパリ縁を切ったみたいだけど」

「勇者といいその人といい、お前の村そこそことんでもないな……」


 実はそんなどころではないとんでも人物を輩出している事を彼らは知らない。



「おばば様、お久しぶりです」

「おうアレンタじゃないか、久しぶりじゃのう。なんじゃいそのボロボロの姿は。相変わらず犬や猫、カラスだのハムスターだのに追い回されとるのか」


「違いますよ! いくら僕でもハムスターには勝てますから!」

「そう言ってハムスターからヒマワリの種を奪い取って、ハム公の飼い主のみっちゃんにボッコボコにされとったじゃろが、三つも年下の女の子に」


「うわー勇者の新しい伝説にドン引くわー」

「な! 違う、小さい頃の話だよ! 今は勇者になってモンスターとバリバリ戦ってるよ! 隣のみっちゃん? ハっ! 今なら返り討ちだね!」

「いや、素人の村娘に対してそれも引くわ俺」


 仲間の剣士と魔術師にドン引きされてちょっと涙目の勇者。


「こいつらは何じゃい? 旅の芸人のボロボロブラザーズかなんかかな? どれお前ら、新作の芸を見せてみろ」

「勇者パーティーです!」


「こんなボロボロなのに勇者パーティーじゃったか。お前らの活躍はこの村にも届いとるぞ。おや? リンナファナの姿が見えんようじゃが、あの子はどうした? お花でも摘みに行っとるのか?」


「あ、あいつとはもう一緒に行動していません。役に立たないからクビにしました、ぼ、僕の自由のはずです。このパーティーは僕の勇者パーティーなんですから」


 そっぽを向いて答えたアレンタに、老女は深い溜息をついた。


「何じゃ、もう勇者引退か、いくらなんでもまだ早いじゃろうになあ」

「いえ、僕は勇者を引退する気なんか全然無いけど」


 どうしてそんな話になるんだと、アレンタは彼女を見つめる。

 老女はそんな勇者を見つめ返して『何もわかっておらなんだか』と話始めたのである。


「引退する気が無いのであれば、何故リンナファナを追い出したのじゃ。あの子がおらんと意味無いじゃろが、あの子がおってこその勇者じゃろうに? お前が村を出る時にわしが何と言ったか覚えとるか、くれぐれもリンナファナを大事にしろと言ったはずじゃ、勇者として身を立てたいのなら絶対に手放すなとな。確かにお前には勇者の素質が少しはあったのかも知れん、しかしあの子無しで勇者業なんて出来るわけがないじゃろ」


「どういう事ですか? もしかして占い鑑定士が言っていた、僕たちが無理矢理追い出した幸運の女神ってまさか」

「幸運の女神? まあ一部ではそんな呼ばれ方もするかも知れんな。リンはそんな単純なものでもないのじゃが」


 突きつけられた意外な真相に、勇者パーティーの面々は互いに顔を見合わせた。


「つまり、最近の俺たちが全然上手く行かないポンコツ状態なのは、あいつを放り出したから? いやいやまさか」

「でも確かにリンを追放してからだよな、このポンコツぶりは」

「リンがいなくなってからいい事が何一つ無いもの」


「そのボロボロ具合も合点がいったわ。お前らリンナファナに愛想をつかされた反動で、何をやってもサッパリなヘッポコ状態になっとるな。あの子にそっぽを向かれると、これから先のお前らの人生は転がり落ちるだけじゃろうよ」


 勇者パーティーの三人の顔がサーっと青くなる。

 今の国の神官長の師匠だった人の言葉である、冗談だとして跳ね返すことができないのだ。


 実はこの村とてリンナファナに出て行かれた後で、村長が大事に育ててた頭の髪の毛の最後の一本が抜けたり、村長の入れ歯がトイレに落ちたり、村長自体がトイレに落ちたりと、散々ヘッポコな目に遭っているのである。


 尤もこの村も村長もリンナファナに完全に愛想をつかされたわけではないので、夜中に村長がさめざめと泣く程度の被害で済んでいただけだ。


 これは勇者壮行会で酔っ払って羽目を外した村長が、当時一三歳のリンに下品なオヤジギャグを連発してジト目で見られた事に起因する。


「悪いことは言わん。リンナファナを手放したのならお前たちに碌な未来がない、冒険者は引退する事じゃな」


「あいつ今どこにいる!」

「王都にいるはずだけど」


 もうこっそり村に一泊とか言っている場合でなない、一刻も早くリンナファナをパーティーに戻す必要があるのだ。

 三人は慌てて村の外に出た。


「あーいた! 何で私をダンジョンに置いてきぼりにするんですか! いじめですか! 新参者への嫌がらせですか!」


 村の入り口で三人を待ち構えていたのは勇者パーティーの新メンバー、コムギである。

 ボロボロの勇者パーティー三人に対して、コムギはいつも通りの普通の姿だ。


「お前が迷子になるからだろ?」

「なってませんよ! あなたたちがモンスターから逃げる時に、男性の脚力で私をどんどん置いて行ったんです! 私は置いてけぼりで取り残されたんです!」


「撤退戦の時にはぐれたのか、不幸な出来事だった」

「撤退戦? ふふん、物は言い様ですね。あれは遁走と言うのですよ、勉強になりましたか? 必死こいて泣きながらとんずらしてただけじゃないですか」


「くっそ、いらつくガキだな。こっちは急いでるってのに、ぶちのめされてえのか!」

「はあ? ぶちのめすだと?」


「あ、しまった。ちょっと今のは無しで、コムギちゃん落ち着こう」

「少し待ってて下さいね、あの後ダンジョンで逃げた先にあった宝箱から出てきた装備があるので、それを装着しますからね」


「おいコムギ、なんだよそのナックル付きグローブはよ。お前だけお宝ゲットしてずるいぞ」

「よっしゃ続きやるぞこら、てめえがぶちのめされろや」


「まあまあ二人とも、ゴブゅ」

「今度こそ死ね! ぺっ」


 次回 「なんだこのおかしな村は」


 リン、出身村の変わり様にジト目になる



 面白かったらブクマ、評価、感想その他お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クズ勇者やアホ王子は結構見てきたけど ヘッポコ勇者にウンコ王子とは中々新しい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ