第17話 宝箱から何でこんな物が出るかな!
我らお肉探索隊はずんずんとダンジョンを進んでいく。
一向にお肉、じゃなかったモンスターは現れない。お肉にされる危機を感じて出て来ないのだろうか。
「全然お肉が手に入らないんだけど」
「困りましたねえ、早く病気のお母さんにお肉を食べさせてあげたいのに」
親を思う少女の気持ちの為にも、早くお肉を確保しなければいけない。
大きな使命に決意を新たにした私たちパーティーに、前方から迫り来る大きな影があった。
よしきたお肉だ! 大物を仕留めて絶対お肉をゲットするよ!
私の号令にパーティーメンバープラス村娘ちゃんが身構えた。
しかし目の前に現れたそれは――
「ストーンゴーレムじゃないのよ! 岩なんか煮ても焼いても食べられないじゃない! あんた空気を読みなさいよ、健気な村の少女にお肉を持たせて帰してやろうって気配りもないわけ!?」
モンスターに向かって説教を始めた私をモブ男君が慌てて後ろに下がらせると、それまで私が立っていた地面に大穴が開いた。
ゴーレムのパンチが炸裂したのだ。
危なかった、食べられないくせになんて馬鹿力なのこいつ! 迷惑な石ころね!
モブ男君に小脇に抱えられながら私がぷんすか怒っていると、村娘ちゃんがそのゴーレムを指さし叫んだ。
「この人ですよ! 私が依頼した自称最強パーティーを蹴散らしてくれたのは!」
「やばいなこいつ、剣のダメージなんか通りそうにないよ、僕たちの攻撃で倒せるかわからないよ」
「殴ったら魔法のステッキの方が折れそうブヒ」
人間の三倍くらいはありそうな背丈の巨人ゴーレムである、こんなの剣で太刀打ちできる代物じゃないかも知れない。
更に意外にも動きが速くて、拳を避けるだけで精一杯だ。
ドガアアアアアアアア――――!
ズガアアアアアアアア――――!
ボゴオオオオオオオオ――――!
地面や壁のあちこちにゴーレムパンチで開いた穴が増えていく。
もしかしたらこのダンジョンの入り口の岩を吹っ飛ばして開けたのも、こいつじゃないのだろうか。
「撤退しようリン! 相手が強すぎる!」
「これじゃお肉も手に入らないし、わかった――うわっ!」
モブ男君たちと相談してる所へゴーレムパンチが炸裂。私たちは慌てて前後に飛び退いて避ける。
会議中に邪魔しないでくれるかな! ってあれ? これ私やばくない?
そうなのだ。飛び退いた際に、パーティーはゴーレムを挟んで前後に分かれてしまったのである。
分裂したパーティーの内訳は、前・私、後ろ・それ以外だ。
私だけ取り残されたああああ!
ゴーレムが私を見下ろしているのを見て、恐怖で身動きができない。
次の一撃で私はペチャンコになるのだろうか。
終わった――私終わった――!
絶体絶命の危機じゃないの! やっぱり美人はこうやってすぐに死んじゃう運命なんだ!
『ぷい』
しかしゴーレムは私なんて全く気にせずに、他のメンバーたちの方を向いた。
フフ、ザコ過ぎて、ゴーレムにまで放置されるとは……
嬉しいんだか悲しいんだか、この複雑な気持ちをどう表現したらいいのやら。
私の目の前にはそそり立つ山のようなゴーレムの後姿がある。
ゴーレムパンチのせいで、ほ、埃が。
「はっくしょい!」
あらやだ、ゴーレムのお尻の模様みたいな所に私の鼻水がついてしまったわ。これは乙女としては見逃すわけにはいかない。
ハンカチで、そうだ携帯用洗剤持ってたっけ――シュッごしごし――ありゃお尻の模様まで消えちゃった。
「何が起こった! ゴーレムが突然活動を停止したんだけど!?」
モブ男君の声に改めてゴーレムを見上げると、ピクリとも動く様子が無い。置物と化したみたいだ。
「何これ? 何で止まっちゃったの?」
「すごいよリン! やっぱりリンは高レベル冒険者だよ! ゴーレムを倒すなんてさすがリンだね!」
いえ、私鼻水垂らしただけなんですけど。
何故か活動を停止したゴーレムを放置して先に進むと、すぐに大きな部屋に出た。
警戒しながら進んだモブ男君の後に続いて私も部屋に侵入する。
「ここがもしかしてこのダンジョンの最深の部屋かな」
「あそこに宝箱があるね♪」
部屋の一番奥にはキラキラとした宝箱が一つ設置されているのだ。
「でも結局お肉が手に入りませんでした……お母さんが待ってるのに」
「ごめんね、お詫びにあの宝箱を最初に開けてもいいわよ」
がっかりしている村娘ちゃんを慰めつつ宝箱の所まで歩いていく。
彼女がお礼を言って宝箱を開けると、中から一本のポーションが出てきたのである。何のポーションだろうか。
「はっ! 私思い出しました! お母さんのお薬を貰う為にここに来たんでした!」
うん、私も思い出したよ。
このダンジョンに挑んだ全員が本来の目的を忘れていた中で、この宝箱だけがきちんと仕事を忘れずにこなしたのだ。こいつはプロの宝箱である。
「このダンジョンの幻惑魔法で危うく目的を見失うところでしたよ」
うん、たぶん違う。
全員ハラペコだったので自然の摂理だったんだと思う、生き物は自然には逆らえないのだ。
「これ全員一人一人が開けると、その人に見合った装備や必要な物が出てくる宝箱って話だったはず。試しに僕も開けてみるよ」
一回閉めた宝箱をモブ男君が再び開けてみると。
「中から鉄の剣が出てきたよ! うわー嬉しい! さっきのゴーレム戦で、持ってた剣が刃こぼれしまくって落ち込んでたからね!」
なんでそこで伝説の剣みたいなのが出て来ないのよ! ドラゴンファイヤースレイヤーとかボンバーギャラクティカブレードみたいなのとかさ!
鉄の剣て……完全にモブ装備じゃないのよ。
「どれ、私も開けてみましょう」(メガネくいっ)
メガネ君が宝箱を開けると、メガネが出てきた。
メガネは既に装備してるのに! そこはせめてノートが出てくるべきだったんじゃないのかな!
モブ太君も宝箱を開ける。
「フィギュアが出てきたブヒ」
はあ、みんな喜んでるみたいだけど、これだけ苦労して貰ったアイテムがそれでいいのかキミたちは……
だからモブパーティーから脱出できないんだゾ。
よく見てなさい、私が美少女ヒロインのなんたるかを見せてあげるから。
宝箱の蓋を一旦閉めて、気合十分に開ける。
お肉が出てきた。
「なんでなのよ!」
「まあ、こうなるオチは私にも見えていましたけどね」(メガネくいっ)
うるさいな! 私も薄々そうなんじゃないかなーって思ってたわよ!
次回 「ついに私たちパーティーにヒロインが!」
リン、とりあえずお肉をしまう、笑顔で
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