第16話 イノシシを獲ったら女の子も獲れた
街道を進む途中で何人か兵士の姿がちらほら。私を探しているかどうかはわからないけど、安全の為に道から外れて進む事にした。
二日目にリーダーのモブ男君が途中の村に寄り、火の道具を手に入れてきたのでいつでもお肉を迎え入れる体制が整った。なので鬼火はご遠慮頂きたい。
さあ来いお肉!
しかし二日目の夕方に倒したモンスターは植物系で、晩ご飯にしたその酸っぱい実が胃袋に染み渡る。
ダ、ダイエットだし、とか火自体は野営に必須だし、とか暖かいしとか色々理由を付けてお腹の虫を言いくるめても、火はお肉を焼いてこその火なのだ。
そして森の中で迎えた三日目の夕方の事だ、私たちはモンスターではなく一般の動物を捕まえた。確保したのはイノシシと女の子だ。
イノシシを食べようと捕まえたと思ったら、女の子も確保していた。何を言っているのか私にも――
まあいいか。
「リオンと言います、危ないところを助けて頂いてありがとうございました。このイノシシはずっと私を追いかけてきてしつこかったんですよ、ストーカーですよこいつ」
お礼を言う女の子は私より二つくらい年下かな、ピチピチで羨ましい限りだ。
「私はリンナファナ、リンでいいわ、他三名。あなたはこんな時間に何故森の中にいるの? 危ないよね」
モブ男君たちの『おいおい僕たちの紹介それだけかい』という楽しいお約束を尻目に、彼女は『それが聞いてくださいよリンさん!』となにやら訴えてくる。
私はもうちょっとボケとツッコミを楽しみたかったんだけどね、まあいいや。一体この子に何があったんだろうかと話を聞いてみる事にした。
「私のお母さんが病気になって、お医者さんから治る見込みがもう無いって言われました。それでこの先にある〝試練の祠〟に行ってお薬を貰ってこようと思ったんですよ」
「試練の祠って何?」
私の疑問に答えてくれたのはモブ男君だ。
「数ヶ月前にこの辺りで見つかったダンジョンだね、岩が崩れて入り口が発見されたんだよ。最深の部屋に到達してそこの宝箱を開けると、チャレンジしたメンバーそれぞれに見合った装備や、必要な物が出てくるみたいだよ」
「なるほどー、それで彼女には必要なお薬が出てくるというわけね。でもさすがに女の子一人では危険じゃないかな、あなた冒険者なの? 一応武装はしてるっぽいけど」
「村娘Aです。鍋蓋の盾に包丁で武装してみました」
よくそれでダンジョンに挑もうと思ったわね。
「違うんですよ、私だって高いお金を支払って冒険者パーティーに依頼して連れて行って貰ったんですよ。俺たちは最強パーティーだって言うから安心してたのに、いざダンジョンに挑んだらボコボコのボコでした。ダンジョンの外に逃げ出たのはいいけど、私は森に置いてけぼりです」
「そ、それは災難だったわね」
「私なんかまだいい方ですよ、パーティーメンバーの一人なんて逃げる途中でダンジョン内で逸れて置いてけぼりですからね、あの人死んだんじゃないかな?」
全員で手を合わせて見知らぬメンバーにお祈りをする。
どうか鬼火になって出てきませんように。
「あの、お願いがあるんですけど、皆さんのパーティーで私を試練の祠に連れて行ってもらえませんか」
まあダンジョンに潜る場合に限っては、冒険者ギルドを通しての正式な依頼は必要無いけど……ダンジョンは常時依頼案件だしね。
でもこれは受けられないかな、可哀想だけど辞退した方がよさそう。
だってそんな自称最強パーティーが吹っ飛ぶようなダンジョンに、自称モブパーティーが挑んで無事に済むとは到底思えないし。
恐らくモブ男君たちも私もボコボコのボコ。一番怖いのは、最悪この村娘ちゃんも巻き込んで全滅するかも知れんという事なんだよね。この子を危険に晒すわけにはいかないから。
「私もボコボコ……知れん……」
私の呟きを聞いたモブ男君。
「そうだね、リンなら〝試練の祠〟なんかボコボコにできるよね。リンの村へ行くには寄り道になっちゃうけど、僕たちもリンの言う通り〝試練の祠〟にチャレンジしてみよう」
「ありがとうございます! リンさん、モブの人たち!」
「任せて!」
「お安い御用です」(メガネくいっ)
「この子も可愛いブヒ」
何で参加する事になったの? 何が起こったの?
とてつもなく無理矢理な勘違いが起こった気がするところにつっこみを入れたいのに、モブの人たちと言われて普通に返事してるのが気になって仕方が無い。
明日試練の祠に行く事にした私たちは、気を取り直してイノシシのお肉を焼く。
なにしろこれが今日の本番なのだから気合いも入るのだ、今日一日の冒険の集大成がこのイノシシのお肉なのだ。
あらやだ、イノシシも美味しいー。
お肉の美味しさで、何につっこみを入れたかったのかサクっと忘れた。
翌日、私たちは試練の祠の前に立っている。
岩が崩れて出現したという入り口は、そのぽっかりと突如空いた感じも相まって侵入を拒む雰囲気があり入り辛い。
「皆さん何やってるんですか、早く進みましょう」
「ああ、ちょっと待って」
まったく躊躇無しに鍋蓋と包丁を持って進んでいく村娘ちゃんに、慌ててついて行く冒険者集団。これじゃ逆だよ。
鍋の蓋に包丁を持って進むその姿は、これからいっちょ料理でもしばいたろかという料理人を連想してしまう。
このダンジョンにいるモンスターはどんなお肉なのかな、ちょっと楽しみになってきた。
最初に出てきたのはガイコツ兵だ。おわかり頂けただろうか、私のこの不機嫌な顔を。
ちょっと! お肉を付けて来なさいよお肉を、そんなガリガリじゃ食べるとこないじゃないの!
「ガイコツはとにかく打撃を当てまくって、バラバラにしてしまえば倒せるよ!」
村娘ちゃんの的確な指示で難なく倒せた。
モブ太君の魔法のステッキの打撃力は素晴らしいのだ。魔法の要素はどこに行ったと問い質したい気もするけど、まあいいか。
連続でガイコツ兵が出て来た後で登場したのは、木の人形みたいなモンスターである。しかしこれも食べられない。
お肉を持って来いと要求しているのに、なんて気が利かないダンジョンなのだろうか。
ガイコツ兵はDランクパーティーでも楽に倒せたけど、この木の人形は楽というわけにはいかなかった。食べられない上に強い、実に迷惑なモンスターである。
「さすがリンだね! やっぱり感心するよ!」
説明すると私がついうっかり『あらやだ』と火を起こす道具を作動させてしまい、木の人形モンスターは現在メラメラと燃えている最中だ。
こいつは焚き木にちょうどいい、めちゃくちゃよく燃える。
しかし、焚き木があっても残念な事にお肉が無いのである。こいつは盲点だった。
「何が何でもお肉を手に入れるわよ!」
「「「「おー!」」」」
パーティーの目的がいつの間にか変わっているようだ。
次回 「宝箱から何でこんな物が出るかな!」
リン、お肉じゃないゴーレムに説教する
本日夜に投稿します