第15話 野営道具が何もないよ!
王都をなんとか脱出した私たちパーティー。
出てきたものの特に目的地も目標も無くて、いきなり途方に暮れている。
「はは、困ったね。どこか行きたい所はあるかな?」
リーダーのモブ男君が皆に尋ねだしたが、計画性の無い少女に振り回されて本当に申し訳ない。
「ゆっくり何か珍しい物が観察できる場所がいいですね」
「フィギュア店に行きたいブヒ」
さっき行ってきたばっかりでしょう。
「リンはどこか無いの? 行ってみたい場所とか町とか」
「うーん無いなあ」
勇者パーティーにいた時もただくっついて移動していただけなんだよね。
「そうだ、リンは村から出てきたって言ってたよね。どうかな、ここで一回顔見せに帰ってみるのもいいんじゃないかな。全然帰ってないんでしょ」
「帰ってないけど……」
村かあ……顔が曇りそうになるのを慌てて隠す。
確かに全然帰って顔を見せていないけどさ、村の事は大好きだけどちょっと帰り辛いんだよなあ。
ましてや勇者パーティーをクビになっちゃったから尚更帰り辛い。みんな笑顔で送り出してくれたのに大爆笑されるの間違いなしだ。
「気が進まないならいいんだよ。そうだね良く考えたら勇者パーティーの事もあるし、僕が迂闊だったよ。ごめん」
「え、いや、いいよ。行こう私の村! うん、久しぶりに帰りたい」
王都の外に出てきたのは私の都合なんだから、私の気持ちとか言ってる場合じゃない。
娯楽の無い村に笑いを提供してあげようじゃないの。
「じゃあ決まりだね。他の二人もそれでいいよね」
(メガネくいっ)
「ブヒ」
それで肯定なんだ。
「ようしそれじゃあリンの村に出発だ! 長い長い旅になるかもしれないけど頑張ろう! 辿り着くまで様々な冒険が待ってそうだね!」
「ここから五日くらいで着くよ」
「え」
「ここから五日くらいで着くよ」
『そっかー』と空気の抜ける音がモブ男君から聞こえた。
「ご、ごめんね、とんでもない秘境とか魔境にある、摩訶不思議な一族が住んでる謎の村じゃなくて」
「い、いやいいよ、その方が僕たちモブパーティーにぴったりさ」
自分でモブパーティーって言っちゃったよ。
街道添いを歩くが一応逃亡中の身の上なので、追手が来ても直ぐに隠れられるように警戒しながら進んだ。
兵士みたいな人たちが通り過ぎるのを隠れてやりすごしたら劇団の一行だったり、冷や冷やするけどちょっと楽しい。
パーティーで行動していて楽しいなんて久しぶりの気分だ。
夕方も近づいてきたのでそろそろ野営の準備という事で、道から森に入り豚型のモンスターを一体仕留めた。
低ランクモンスターなので私たちパーティーでも余裕なのである。
そしてこのモンスターはとても美味しいので評判なのだ。
町のレストランや食卓に上がる事の多いこのモンスターは私も大好物。ハンバーグが最高なんだよね。
「トントンのお肉は美味しいから私も大好きなのよね、早速焼こうよ! メガネ君火をお願い」
「わかりました、では誰か火を起こす道具を貸してください」
「え?」
「え?」
「メガネをかざして光を集めて火を点けてよ」
「何をおかしな事を言っているんですか、こんな夕焼けでできるわけがないじゃないですか、常識で物を考えてください」
ポカーンと見つめるメガネ君に、私もポカーンと見つめ返してしまった。
「あなたこの前の地下迷宮でやってたでしょうが! メガネ師だって言って! じゃあ、何でこの前は火が点いたの?」
「あれは私も驚きを禁じ得ない出来事でした」
「自信満々のドヤ顔にしか見えなかったよ! ねえ、モブ男君とモブ太君は火を起こせる?」
私は期待半分、諦め半分で残りの二人にも聞いてみる。
「慌てて王都を出たからねえ、道具を準備するの忘れてたよ」
「フィギュアは持ってきたブヒ」
「私もノートの準備には余念がなかったのですが」
うう、でもこの件に関しては私も同罪なんだよねえ、私の逃亡に巻き込んでるし、そもそも私が道具を用意しとけって話だもんね。
「どうしよう、お肉があるのに食べられないよ。生肉はちょっと乙女的に無理だしなあ」
「そういえば、この辺りで戦いがあって何人か亡くなったみたいですね。墓標がいくつか立てられてました」
「何で急にそんな怖い話をしだすのよ、そういうのは禁止なので、くれぐれも気を付けてください」
「いえ、ちょうどそこに鬼火が」
『はえ?』とメガネ君が指さした方を振り向くと、火の玉がゆらゆらと飛んでいるじゃないか。
「ひいいいいいいい!」
慌ててメガネ君の後ろに隠れてしまった。ひ、火の玉、火の玉飛んでる!
「ちょうどおあつらえ向きじゃないですか、ちょっと火を貸してもらいましょう」
「お、鬼火だよ、人魂だよ! タバコの火を貸してくださいみたいな、そんなあなた。ああ行っちゃった」
鬼火の所でなにやら会話しているメガネ君、いったいなんなのあの人は。
と思っている内にこちらに帰ってきた。お、鬼火を引き連れて来るなああ。
「朗報です、火を貸してくれるそうです」
「何で会話とかできるの? 霊感とか強いの?」
「メガネ師ですから」
メガネ全然関係ないわ!
こちらにやって来た鬼火は三個。それらは組んだ焚き木を通過して、一瞬で着火した。
おおう、意外と便利だなこれ。旅のお供に、いや遠慮するけどね。
でもおかげでお肉が食べられた。
焼けたお肉はとてもジューシーでほっぺたが落ちるほど美味しい!
幸せそうに満面の笑みでお肉を頬張る私を、六人の男女がニコニコと見つめていた。
誰ですかこの人たちは。三人はモブ男君たちだとして、残りの男性二人と女性一人はどこから涌きましたか。
男の人たちも女の人もとても優しそうな笑顔で見守ってくれている。そんなニコニコ見られると照れるんですけど。
「お肉を食べるリンさんを見て、とても幸せになりましたって言ってますね」
――ありがとう――
穏やかな声で何か言われた気がした時には、いつの間にか三人はいなくなっていた。
「あ……」
私の目から涙が零れる。
ここで命を終えた人たちがいたんだね。
仲良しのパーティーだったんだろうなあ。
残念だったんだろう、悲しかったんだろう。そんな気持ちでここに留まっていたけど、ようやく昇ることにしたんだね。
私がお肉を食べる図を見て満足とか、ちょっと乙女的には腑に落ちないんだけど、そんなに幸せ感が滲み出てましたか私。
まあ、お役に立ててなによりです。
「泣くほど美味しかったの?」
「違うわよ!」
モブ男君とモブ太君は気が付かなったみたいだね。
「あれ? もういいの?」
「うん、ちょっと胸が一杯で……」
新しく焼けたお肉を差し出してくるのをつい手に取ってしまう。
「やっぱり食べるんだね」
「もうほっといてよ! もぐもぐ」
うん美味しい。
天国でお肉をいっぱい食べられるといいね。
次回 「イノシシを獲ったら女の子も獲れた」
リン、何故かダンジョンに潜ることになる
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