第14話 とうとう王子に見つかった!
王子にいともあっさりと、簡単に見つかった私。
雑踏の中でも私は目立つのがいけないのか、ああ、キラキラ美少女のこの身が辛い! 美女は長生きできないとはよく言ったものである。
パーティーメンバーのあの三人が羨ましい。彼らのモブ力をもってすれば、国軍でさえも雑踏から見つけ出すのは不可能だというのに。
「はあ、はあ」
さっきの兵士から全力で走って逃げたせいで、私の息が上がっている。体力無いんだよ私。
この状態でまるで隙の無いこの王子から逃げるのは至難の業だろう。なんとか許して貰えないか、土下座でもするか、いやそれよりも。
「リンナファナ嬢! ようやく見つけましたよ。さあ、私と一緒に……あの、何をなされているんです?」
「謝罪の最上級の土下寝でございます、殿下!」
「な、なにを……」
王子の前に一本の棒として横たわった私に、彼はうろたえたようだ。
おかしい……うっかり間違えて鼻の穴にスプーンを突っ込んだ時に、勇者パーティーの剣士から最上級の謝罪の作法だと教えて貰ったのだけど。
あいつあの時私の頭を踏みやがったんだぞ。頭に来たから寝てる時に顔にウンコの絵を書いてやったけど。
もしかしてこれ、王族をおちょくってる事になっているのではないのか。
間違えた作法を教えたあいつのせいで、このままだと処刑一直線だよ、嫌だ嫌だ。
「さ、さっき、で、殿下が私になさりたい事を聞きました」
「なら話が早い、どうか私と婚――」
「ごめんなひゃい! ゆるひてくだひゃい!」
必死である。顔だけくいっと上げた私の顔は、涙と鼻水でとても面白い事になっているだろう。もう乙女とか言ってる場合じゃない、そんなのは助かってから取り繕うか。
見ると殿下も死にそうな青い顔をしている。
「くう、女性、しかも貴女からこれほどの拒絶を食らうとは、この前の私の行動に全責任があるとはいえこれは堪える。心がポッキリ折れてしまいそうだ。だがしかし私は諦めてはいけないのだ」
まだ諦めてくれないのか! このままだと私何されるんだっけ、さっき何をするって言われたんだっけ。
『リンナファナ様、貴女にはこれから殿下の片腕として期待しています。大好きなハンバーグステーキも毎晩思いのままに、楽しい事も一杯やって遊びましょう。そして行く行くは国の礎となって頂きたい、と』
うん、さっきの兵士は確かそんな事を宣言していたはずだ。
「私は今から貴女に言わなければいけない事がある、私のプロポ――」
「さっき聞きました! 殿下が私の片腕を斬り飛ばす期待をしてて、それをハンバークステーキにして毎晩食べるって! 私を使って色んな遊びを楽しみたい、そして最期は国の人柱として地中に埋めるんですよね!」
ハンバークステーキは大好きだけど、それになりたいとは思わない。
あ、殿下が面白い顔になってる。私の出身村の郷土人形のハニワ君みたいだ。
「なんだなんだ、王子があんな可愛い女の子に変態願望を押し付けてるぞ」
「なんか無茶苦茶ド鬼畜な要求してんぞ」
「王子様にそんな性癖があったなんてちょっと幻滅」
「結婚したいランキング一位から転落か」
あ、ハニワ君が泣いた。
隙あり!
私は立ち上がると瞬時に逃げる。
「あ、待って、リンナファナ嬢」
王子はハニワ君状態から瞬時には戻れなかったようだ。
逃げ切ったと確信した私が振り向くと、ジト目の町の人たちの視線に心がポッキリ折れたのか『私を見るなあああああ』と反対方向へ走っていく姿が見えた。
九死に一生とはこの事である。
私はこれから先、大好きなハンバーグステーキを食べて、楽しく遊んで、いい男の人と結婚でもしたいのだ。できれば金持ちと、もっとできれば一国の王子様なんかが最高だ。
こんな所で地面の下に埋められている場合ではないのである。
どのくらい歩いただろうか。雑踏の中に紛れたままで、王都の門の所まで辿り着く事に成功した私は周りを見回す。
残念な事だがあの三人の姿は無い。門の周りは行き来する人たちで賑わっている、このまま紛れて王都を脱出するしかないか。
兵士の姿もチラチラ見える為に、もう本当にここに留まっているのは危険だ、パーティーメンバーとは逸れたままだけど私はこのまま進もうと思う。
私と一緒に逃げてくれると言ったその言葉だけで十分なんだ。みんなお元気で、短い間だったけど楽しかったよ。
みんなの事はいい思い出として胸にしまって生きていくよ。
消えた私を探して残念がってくれるかな。
……ごめんね。
一緒に行くよと言ってくれたあの笑顔が浮かんで、ちょっと寂しくて、ちょっと切なくて涙が出た。
さあ進もう。
涙を拭いて一歩進みだした。
「あ、もう出るのリン。王都とのお別れは済んだんだね」
「随分神妙な顔をしていましたね。王都には思い出もあったのでしょうか」
「ここにはいいフィギュア店があったから仕方無いブヒ」
いえフィギュアのお店とのお別れはどうでもいいです。
「っていうか、何? あなたたち居たの? いつから居たの?」
「へ? さっきからずっと横にいたけど」
「門の近くでリンさんを見つけて、ここまで三人で取り囲んで歩いていましたが」
「姫の目の前でフィギュアを振ってたブヒ」
全然気がつかなかったわ! 恐るべしモブ力!
雑踏に紛れるといかんなくその力を発揮してくるとは、なんと恐ろしい連中だろうか!
うわ、声に出して泣かなくてよかったー。
うん、うん、みんな一緒にいる。一人じゃないんだ私。
なんだこの気分は、さっきまで沈みまくってたのに今はふわふわだよ。
「どうしたのリン、顔真っ赤だけど」
「えへへ」
どうだ、最高の美少女の笑顔を食らえ。
次回 「野営道具が何も無いよ!」
恐怖! 着火ウィルオウィスプ
本日夜に投稿します