第138話 闇 VS 光
『御主を、この世界の光を消し飛ばしてしまえばこの世は混沌に戻るのだ! 光よ消滅せよ!』
もの凄い闇の気が私を襲った気がする。頭がぐらんぐらんする。
これは黒髪ちゃんどころの話じゃないかも。
くっ! こいつも光姫のお客さんだったのかよ!
おいこら光姫、何でもかんでも私に押し付けてんじゃねーわよ、いい加減仕事してよね!
邪神の力とんでもない。すごい吐き気がする、死にそう。
でもせっかく体内に取り込んだ美味しい物を、外に吐きだしてたまりますか!
「ふ、踏ん張れ私!」
『ぐおおお! 強力な光で押し戻してきおったか! 何のこれしき! 邪の神髄を食らうがよい!』
押しつぶされそう! あらやだ、こんな所で朽ち果てちゃったら、もう美味しい物を食べられないじゃないの!
倒れるな私! 美味しい物を思い出して踏ん張るんだ!
串焼きお饅頭うなぎめし! 焼きいもタルトにハーブティー! それに――
「ハンバーグステーキ!」
『うおお! 頭が外れよった! 余のヘッドが! く、これ程とは、止むを得ない、世界の半分が吹き飛ぶかも知れぬが、邪神最大奥義を出すしか無いようだな!』
そしてハンバーガーを右手と左手に持って交互に食べる! 何それ凄い! 私の最大奥義にしようっと!
『ぐわああ! 腰が折れたああ! 何という事だ! 最大奥義を出す暇も無く最大奥義で返されるとは!』
「これ何の戦いなのかなリン」
知らないわよ! 私別に何もしてないし!
倒れそうなのを必死に堪えてるだけだもん!
『もうやめた。今回はパスで』
突然邪のオーラを出すのをやめたらしい邪神は、見事に半分に折れていた。小脇には外れた邪神ヘッドを抱えている。
そのヘッドには何故がネギが乗っていて、頭の代わりに首にはカボチャが一つ刺さっていた。
一体何が起きたんだよこいつに。
『邪神をへし折るような相手と戦っても何の得もない、ポンコツ化だけは避けねばならぬ』
十分ポンコツ化してるように見えるんだけど、教えてあげた方がいいかしら。
「よくわからないけど、こ、降参するって事でいいのかな?」
『なに、まだその時期では無いという事だ。余はまた眠りにつくとしよう。光があれば影ができる、影は闇を産み混沌を育むのだ。時が満ちるまで余は眠る』
「お、おやすみなさい邪神」
「グッナイ黒いおっちゃん」
ふむ、フィギュアちゃんとお休みの挨拶をしたものの、邪神がゆらゆらとそこにいるだけで全然消えないんだけど。
さっさと寝なさいよ。半分に折れたわけのわからない姿で、いつまでもいられても迷惑なんだけど。
「寝る前のおトイレ?」
「寝る前は歯を磨かないとだめだよ」
「歯なんてあるの? それに頭は小脇に抱えてるヤツなの? カボチャの方なの?」
『さっさと封印してくれえ! 光が強いと影も消し飛ぶわ。さっきから眩しくなってきてかなわん!』
「封印ったってどうすればいいのかわかんないんだけど、キエエって呪文唱えるのかな」
「お札とか貼るんじゃないの?」
おお、さすがフィギュアちゃん、頭いい。
『だがな覚えておくがいい人間どもよ、次に目覚めた時、余の――』
これでも貼っとくか。
その辺の葉っぱに〝ふういん〟と書いて適当に貼っといた。
あ、よく考えたら邪神ヘッドに貼るべきだったのかな、カボチャに貼っちゃったけど。
『まだ余が喋ってる途中だろうがああああ』
もう、さっさと封印しろって言ったの邪神じゃないの!
ブーブー文句を言いながら邪神は消えた。
と同時にぐにゃっていた空間が元に戻ったよ。
「すごいよリン! 邪神を封印しちゃったよ! さすがリンだね!」
いえ、私、右手と左手でハンバーグを食べるダブルハンバーガーを編み出して、ちょっと夢の世界にトリップしてただけですけど。
涎は垂れてないよね?
さて無事ハーブティーも飲んだ事だし、山から下りるとしますか。
ふーまったく、邪神に遭遇するなんて、とんでもない目に遭ったわね。めんどくさいったらありゃしない、さ、帰ろ帰ろ。
帰り支度を済ませて山を下り始めると、ぞろぞろと厳めしい装備の人たちが山を登って来るではないか。
重装備の騎士、煌びやかで高そうな鎧の剣士、何年も修行を積んでいそうな魔術師。
ざっと十数名はいるだろうか。
「そこの者たち、地元の民か。この辺りで邪神が目覚めた予兆があって我らは参った」
「何か火急な物事は無いか」
「隠すと為にならんぞ、このお方はカドダール帝国の皇弟殿下である!」
「このお方もスミライア王国の国王、シャルダイン陛下である!」
「我はイクシャイン聖国の大神官、聖ファルマインじゃ!」
うわー、世界のトップスターの集まりだ。モ国にプ国にヌ国だって?
遅いのよ、もっと早く来てくれていれば私たちもめんどくさい事に巻き込まれずに済んだのに。
「あらあら、リンナファナ様もいらっしゃったのですか」
声をかけてきたのはお姫ちゃん。
参加してたんだね、ご苦労様です。
「兄上が参加すると言って聞かなかったのですが、ポンコツなので辞退してもらったのですよ」
うん、それがいい判断だ。
「先程まで勇者パーティー御一行様ともご一緒していたのですが、ここまでの途中のモンスター戦で転がって撤退されていきました。あのような完璧な転がり具合は見た事がありません、さすが勇者パーティーはプロですね」
何のプロですかね。転がりのエキスパートかな。
「勇者ご一行殿は、使命半ばにして無念の退陣をされたのだ。実に悲しい事である」
「ヒヨドリのモンスター戦であったな。声に驚いて転がって行かれた」
「あの事件はヒヨドリ声の勇者落としと名付けよう」
なんだか知らないけど、アレンタ君たち的に後世まで残していいんだろうかその名前。
「我らはこれより、神々との闘いに赴き、神話となるのだ!」
「世界はただでは亡ばぬ! 我らの決死の戦いを見せてくれるわ!」
「我らが壊滅したのち、世界は我らとともに亡ぶであろう!」
うわーなんだか暑苦しいおっちゃんたちだな。
お姫ちゃんお疲れ様だよ。
「邪神はどこだ! 小娘!」
「邪神なら寝ましたけど」
『ふぁ?』
「リンが額に葉っぱを貼り付けたら、再び封印されちゃったみたい。おっちゃんたち来るの遅いんだもん。あ、そう言えばあの黒いおっちゃん、歯を磨かないで寝ちゃったね」
「こ、こらフィギュアちゃん、一応偉い人たちなんだからちゃんと敬語を使わないとだめだよ」
「えーめんどくさーい」
「葉っぱ? 歯磨き?」
「再び封印とな」
「確かに、邪神の気がきれいさっぱり消えておる」
目の前にハニワ君人形が沢山突っ立っている。
お姫ちゃんだけが『あらあら』と特に動じてないみたいだけど。
葉っぱの種類とか聞かれても困るよ、何の葉っぱかよく知らないし。その辺の名も無き適当草だからね。
「それではみなさんお疲れ様でした」
『お、おう』
ぺこりと一行に頭を下げて山を下って行く事にした。
こんな山の中にいつまでもいたってお腹が減るだけだ、虫にも刺されるし碌な事が無い。
「これからどうしようかリン、何か依頼が無いか見に町のギルドに行こうか」
「一度ロリっ娘ちゃんたちの所を訪問しよう、心配してるだろうし」
「それがいいね」
『あ……』
かすかな声が聞こえたので振り返ると、ポカーンとした世界のトップスターたちがこちらを見送っていた。
どうやらまだ頭の整理がついていないみたいだ。
因みにお姫ちゃんの姿はもう無かった。
猫が迎えに来て、さっさと帰ったみたいである。その証拠に山道にでっかい穴が開いている。まあ猫じゃないけど。
『バンザーイ』
また何か声がしたので再び振り返ると、トップスターたちが両手を上げている。
『モブパーバンザーイ! モブパーバンザーイ! モブパーティーバンザ――――イ!』
次回 「世界は笑顔がいいんだよ」
酒場の客、とんでもねーパーティーの噂知ってるか?
いよいよ次でラストです
ここまでありがとうございました