第137話 最後の晩餐はハーブティー?
「その〝モ薬〟があればなあ」
『おい、さっきは〝ペ薬〟と言っていた気がするのだが』
どっちでもいいでしょ、略なんだから。
『最後の一本が使われてしまった以上は、もうこの世界には聖薬エレクシミリオンは存在せぬ。もうこの世界に夢や光は無い、お前たちが滅び、余の混沌の時代が来たのだ』
夢と共に世界は亡ぶのか。
私の夢は何だろうなあ……少し考えてみる。
美味しい物を食べる事だっただろうか。
最後の晩餐がハーブティーか。
美味しいからいいんだけど、せめてパーティーのみんなと笑顔で飲みたかったよ。
「スポイトがあるよ」
そう言ってフィギュアちゃんが取り出してきたのは、新しく手に入れたオモチャである。
「このスポイトにお茶を入れて、みんなの口に突っ込んで飲ませてくるね」
なるほど、スポイトによるお茶会強制参加か。
これなら意識を失ってても安心だね。
フィギュアちゃんはモブの衆たちの口に次々とスポイトを突っ込んで、中のお茶を注入している。
ちょっとフィギュアちゃん、そこ口じゃなくてモブ太君の鼻の穴だよ。あー入れちゃった。
フィギュアちゃん、それ口じゃなくてメガネ君のメガネだよ。あーメガネに水滴落としちゃった。
「注水完了!」
その時、おかしな事が起きた。
モブの衆がむっくりと起き上ったのだ。
「なんだか口の中がスッキリしてるぞ」
「何故だか鼻もスッキリしてるブヒ」
「おやおやメガネがスッキリしていますね」(メガネくいっ)
よ、良かったね。
フィギュアちゃんに後でお礼言いなよ。
『何故こ奴らは目覚めたのだ。そう簡単に混沌の闇からは戻ってこられるわけがない』
「なんだか真っ暗な闇の中を彷徨っていた気がするよ。夢も希望も無い、何もない闇が広がっているだけだった」
「闇と闇が重なり合って、何層もの闇が混じり合っている感じだったブヒ」
「全ての種類の闇が混沌としていましたね」(メガネくいっ)
モブ男君たちの言葉に少し心配になって来た。
この人たち、もう既に夢や希望を失ったりしてやしないだろうか。
「み、みんなの夢は何?」
『夢?』そう呟いてモブ男君が首を傾げたので、一層不安になる。
まさか……まさか……あなたたち。
「僕の夢は、このパーティーがいつまでも一緒にいる事だよ」
「フィギュア御殿を作りフィギュアと結婚する夢だブヒ」
「メガネの神になる事です」(メガネくいっ)
なんだか一部よくわからない夢を聞いた気がするんだけど、じ、実現するといいわね。
『何故目覚めた、答えよ人間ども』
「闇の中をさ迷っていた時に感じたんだ、力強い光を」
「暖かい光だったブヒ」
「メガネもキラキラ反射していました」(メガネくいっ)
『くだらぬ事を。もう一度混沌の闇の中へと舞い戻るがよい!』
邪神が手を広げると、周りから闇が広がったような気がした。
「とにかくこいつを倒そう、リンは下がって!」
「久しぶりに魔法のステッキの出番だブヒ」
「メガネも戦いの喜びに打ち震えているようです。相手が透明で見えませんが」
「メガネを変えろ!」
ああ、モブパーティーはこの感じだよ! これだよ、みんなが倒れていた時の、さっきまでの不安な感じが全部飛んだよ。
思い出したよ、私の夢は美味しい物を食べる事だけじゃない、仲間たちといっぱいいっぱい冒険する事なんだ!
それが私の夢なんだ――!
「モブパーティーやっちゃえー!」
『何故だ! 何故こ奴らは動ける、何故闇に沈まぬ、何故――ぐあああああああ!』
モブ男君が剣で斬りつけてモブ太君がステッキで殴り、メガネ君がクロスボウで叩いている。
なんだ、普通の攻撃が効くんじゃん。メガネ君には叩くんじゃなくて矢を刺せと言いたいんだけど。
「先の戦争で矢の在庫が無くなりました」(メガネくいっ)
あー補充忘れてたかー!
『何故このような普通の攻撃で余がダメージを受けるのだ。まさか、余の力が封じ込められているだと!』
邪神が驚愕の眼差しで私を見た――
ような気がする。だって真っ黒でよくわらないんだもん。
『小娘、一体余に何をした。先程の茶、まさかあれは聖薬エレク……いやまさか、もうこの世界には存在していないはず。精製の仕方も誰にもわからぬし、そもそも材料ももはやこの世界には存在せぬ。それにこの威力は聖薬エレクシミリオンどころの話ではないわ!』
「ただのハーブティーだけど?」
『ただのハーブティーにこんなクソ強力な効果があるかあああ!』
ホントにただのハーブティーだもの。
泉の水が良かった?
「そうか、聖なる泉がなんちゃらって言ってたっけ。ああ、だから村のお爺さんは二回繰り返したのね。二回繰り返す重要なあのセリフにヒントが隠されていたなんて」
「お爺さんは『その水がちべたくて美味いんじゃ』としか言ってなかった気がするけど」
そうか、さてはその〝ちべたさ〟に秘密があるのね!
『この付近の水源の水か? あんなものは単なる冷たくて清らかな山の水にすぎぬわ。邪神を舐めるなよ』
それはごめんなさい。プライドの高い人には逆らわずにとりあえず謝っておこう。
王侯貴族もだけど、この黒いのも一応神様なんだもんね。世界にろくでもない状況をもたらす邪神だけど。
「じゃ、このハーブに秘密があるのかも!」
私はお茶にした葉っぱを取り出した。
どうだ邪神! この葉っぱが怖いか! 恐れおののけ!
『そんなもの、その辺のただの草ではないか。そんな草が怖いわけがあるか、邪神を舐めるなよ。何故その辺の水とその辺の適当な草で強力な聖薬が出現したのだ』
知らないわよ、あんた本当はその辺の適当な物で倒せるヤツなんじゃないの?
『うはははははははははは!』
何? 私を見て突然笑い出したわよ。怖い怖い、この邪神怖い。頭のネジが外れちゃった?
プライド高い人はわけがわからない。
『そういう事か小娘! 闇を照らすのは光、この世界にはまだ光が残っておるという事か。それも一際強力な光がな』
そういう事ってどういう事?
わけがわからない事を言い出したぞ。怖いよ。
『闇である余が封印から目覚めたのも必然なら、それに対する光が出現するのもまた必然!』
はあ。
『それこそが光姫――余の対極に存在せしもの!』
次回 「闇 VS 光」
モブパーティーバンザ――――イ!
本日、最終話まで投稿します
ラスト2話となりました!