第132話 メガネ回? そんなものは来ぬ
――各国首脳会議――
「邪神が復活したというのは本当なのか!」
ここはこの王国のウズリー要塞である。
戦争の傷跡の再建もままならない状態で、対邪神戦の最前線にされている場所となった。
「皆さま方、このような半壊状態の我が国の砦にお集まりいただいて大変心苦しく思います」
立ち上がったのこの国の王女ルーアミルだ。
彼女の前に座る面々はこの王国の重鎮たちではない、世界中から邪神復活の報を受けて馳せ参じた人々だ。
いわゆる、この世界のトップスターが一堂に会しているのだった。
「我が国の神官長が邪神の復活を察知しております。邪神はまだ鳴りを潜めているものの、近い内に動き出す事と思われます」
「うむ、ルーアミル様のおっしゃられる通りでな、わしも邪神復活を感じておる」
そう発言したのは、イクシャイン聖国の大神官、聖ファルマインだ。
邪神関連の第一人者で、いつか復活するであろう邪神に対し代々研究と対策を重ねてきた大魔術師でもある。
「ファルマイン殿がそうおっしゃられるのであれば、間違いないな」
「なんという事だ……」
納得した男、カドダール帝国の皇弟は屈強な騎士でもあった。世界最強の呼び名も高いトップクラスの戦士である。
その横で頭を抱えたのは、これまた最強の軍勢を束ねて悪魔族と戦争を重ねていたスミライア王国の国王、シャルダインだ。
「もうこの世界は終わりかも知れぬな……」
「あなた方のような世界の中心の方々が結集してもでしょうか」
「邪神はケタ違いなのだルーアミル殿」
「左様、攻撃など一切効かぬ、魔法も効かぬ。神だけあって次元が違う存在でな」
「人間が立ち向かってなんとかなる相手ではない」
「かつて賢者様は封印に成功されているではありませんか」
「二百年前に賢者が封印に成功したのは、世界にまだ邪神を封じ込める方法が残されていただけの事でな」
「封印によってその最後の切り札はとっくに失われておるのだよ」
「つまり最後の一つで何とか封印に成功したと?」
「そういう事だ、ルーアミル殿」
人々の顔は絶望に歪んでいた。
世界が亡ぶのはもう必然となっているのだ。
「もはや世界は救えぬ、その事は覚悟しておいて下され」
聖国の大神官は、その場の者たち一人一人の顔を確認しながら告げる。
「しかし我らはこのまま滅びはせぬ、邪神に我ら人間がいた事を知らしめてから潔く亡ぼうではないか」
「おお! ファルマイン殿のおっしゃる通りだ、我らの最後のあがき、とくと思い知らせてくれる」
「亡ぶは我ら!」
「世界は我らと共に!」
その場にいた全員が一斉に立ち上がる。
「我らは邪神に挑む!」
「人類の有終の美を飾ろうではないか!」
『おおおおおおおおおおお!』
全会一致である。
「あらあら」
ルーアミルはそんな熱いおっさんたちを眺めながら、勇者パーティーも誘った方がいいかしら? みたいな事を考えていた。
「ふぇくちょい」
今度はフィギュアちゃんがくしゃみしてるよ。
「大丈夫フィギュアちゃん、寒い?」
「へーきだよ、リンの髪の毛が胸に落ちてたから、それで鼻こちょこちょしてたらくしゃみでた」
何やってんのよ!
「さてリン、カツアワ村も助けたし、次はこれからどうしよう」
「そんなの決まってるよモブ男君」
「いよいよ邪神封印に行くんだね」
そんな恐ろし気な物体と接触する気なんかないよ!
「焼きいもタルトを食べたと来たら、次はハーブティーでしょ。フィギュアちゃん、何て名前の村だっけ」
「確かなんちゃらかんちゃら村だったよリン」
うむ、ありがとうフィギュアちゃん、完璧な答えだ。
「フランメルア村のハーブティーだね。リンはどこに行っても何かを解決するから、多分そこに行くのも正解なんだと思う」
特に何も解決する気は無いんだけど。喉の渇きは解決するかな。
よし、じゃあ行こうか!
****
ハーブティー村に行く途中で村が一つあった。
ここは何か名物があるのだろうか。予期せぬ遭遇がこの美味しい物漫遊の楽しみでもあるよね。
「ここはアジエ村だね」
「工芸品にも力を入れているブヒ」
「この村はなんとメガネの産地でもあるのですよ」(メガネくいっ)
へーそうなんだー。
何故だろう、男性陣がキラキラしてるのはどうしてだ。
さ、このまま進みましょう、メガネは食べられないし。
私の塩対応に心なしかメガネ君の表情が……うむ、さっぱりわからん。
メガネ君の表情を読み取ろうなんてチャレンジは、私にはまだ早かったのだ。
でもチャレンジしようとした敢闘精神は評価されてもいいのではないだろうか。
でもちょっと待って、考えてみたらこの町に来たのはちょうどいい機会なんだよね。
メガネ君にここで普通のメガネを買ってもらって、怪しげな透視をやめて貰えるチャンスだわこれ。
「やっぱりこの村でメガネを見ていきましょう」
心なしかメガネ君の表情が……うむ、さっぱりわからん。
その代わりにモブ太君がキラキラしだしたよ。
「遂にこの時がやってきましたね」(メガネくいっ)
「ささ、姫にはまずこのメガネをかけて欲しいブヒ!」
「私目が悪くないからメガネはいいよ」
赤いメガネを持って私に迫って来ていたモブ太君が、まるで顎が外れたみたいな顔になった。
そこまで驚愕する事だったのかな! 一体何がどうしたのよ!
「メ、メガネ回はどうなるんだブヒ!」
しらねーわよ!
メガネ回ってなんなのよ!
次回 「工芸品とは実用と美術の合体だね」
フィギュアちゃん、工芸品をキメラと称する