第129話 隣国へカチコミ!
隣国は許しちゃおけねえ。
モブ太君と負け坊の悲しみを乗り越えてここまで来たのに、焼きいもタルトを滅亡させてるとか、ふざけんな!
「みんな、ちょっと私行ってくるよ。ブチ猫、ちょっくら乗せてって」
『にゃー』
「リ、リン、どこに」
「GO!」
「おーい!」
「連れ去られた村の人を取り返してくるから、モブ男君たちはこの村でお芋でも掘って待ってて!」
「わかった! リン、気を付けて!」
「モグラを掘って待ってるブヒ!」
モグラはいらないわよ!
幻覚ちゃんに送っておいて!
私を背中に乗せたブチ猫は矢のように山を駆け抜ける。
目指すは隣国、その王都、そして王城だ。
あっという間に国境を越え王都に入った。
めちゃくちゃ早いなこの猫、こりゃどこまでも簡単に逃げてくるわけね。
「猫じゃないけどねリン」
フィギュアちゃんがつっこみを入れている頃にはもう王城である。
城門とか城壁とか一切関係ない、ジャンプ一発で飛び越えてしまうのだ。
ん、あそこにいるのがこの国の国王かしらね。
ヒゲが偉そうな感じだから間違いないだろう。
「陛下、隣国への賠償金の件でございますが」
「ふん、そのようなものは放っておけばよい、何が戦争の賠償だ」
「しかしそれでは協定違反になりませんか、隣国は怒りますよ」
「放っておけ、どうせ奴らの軍事力では国境を越えて攻め込む事はできん。文句があるのなら直接ここに来てみろというのだ、はははは」
「確かにそうですな。文句があるのなら来てみやがれですな、はっはっはっはっは」
「あっはっはっは」
「こらあ! そこの王侯貴族! 文句を言いに来たわよ!」
私は馬鹿笑いしていた連中の前に颯爽と登場した。
突然ドラゴンが目の前に出てきて全員の腰が砕けたようである。
近くにいた護衛の騎士が王を守る。
「ド、ドラゴンだ! 陛下を守れ!」
「な、なんだ貴様は! 何者だ!」
「文句を言いに来たって言ってるでしょ!」
「まさか隣国の使者か! 賠償の件か!」
「単身で殴り込みに来るとは敵ながらあっぱれ、だが我が愛剣のサビにしてくれる!」
なんだか強そうな騎士のおっさんが出てきたけど邪魔ねこの人、どこかに行ってくれないかな。
そこの王族のおっさんに、焼きいもタルトの文句を言えないじゃない。
「サビにする前に、一応名前を聞いておこうか小娘。おおそうだ、名前を聞く前に私が名乗るのが先だな、これは失礼した」
「リンナファナよ! おっさんの名前なんかどうでもいいから、ちょっとどいてくれないかな!」
「お、おっさ――」
「リンナファナですと――!」
騎士のおっさんの声に被せてきたのは神官の人かな、ハニワ君みたいな状態になってるけど偉い人っぽい。
ハニワ君は慌てて王様の所に駆け寄っている。でも腰が抜けてるっぽい。
「へ、陛下、こ、こやつ、いえこの方でございます。ごにょごにょ」
あ、国王の顔もハニワ君になった。
隣国にまで私の村の郷土人形が伝わってるとか、おばば様はやるわね。
「ひいい」
今ひいいって言ったか。乙女の可愛らしい顔を見てその反応なんてある?
「陛下どうなさいましたか。この小娘はこの私めがバッサリと真っ二つにしてご覧に入れましょうぞ!」
「ええい、いいからお前は下がれ!」
「しかし、私の名前がまだ」
「お前の名前なんかどうでもええわ!」
うん、どーせ名前出されても、私覚える気ないしね。王様とは気が合うかも。
騎士のおっちゃんは後ろに下がった後、口をパクパクさせたり身振り手振りで私に知らせようとしてるね。
どんだけ名乗りたいんだよこの人!
「仕方ないなあ、えーと、タ・ヌ・キ・ノ・キ、乙女に何を言わせる気だキサマ!」
「全然違うわ!」
「ええい! お前は下がれと言うのに!」
あーあ、王様にめっちゃ怒られたよあの人。
気を取り直して王様がこちらに向いた。
何その手もみは、どこの商人だあんた。呪いの壺とか売りつけようとする気じゃないでしょうね。そんなの買うのアレンタ君くらいだよ?
「これはこれは、リンナファナ嬢。ようこそ我がダスキアルテ王国へお越しくださりました。何用で? 観光ですかな」
「私はこのペ国の人たちと、そのトップの方々に文句を言いに来たのです」
「ペ、ペ国て」
「長いから略してペ国にしたのです」
「全然略になっておらん気がするが、わしの勘違いか」
「陛下、波風立ててはいけません。我が国の食事がこれ以上ポンコツ化すると、ウ〇コになってしまうかも知れません」
「緊急事態ではないか!」
何の話だよ!
「あなた方はやってはいけない事をやってしまったのです。これにはちょっと私もぷんすかしたんですよ」
「ちょっと怒っただけで王城にカチコミとは、やはりケタ違い」
「本気で怒ったら何が起こるかわかったものではないです」
「国が物理的に折れますぞ」
何をごちゃごちゃ言ってるのかなこの人たちは。
「この度の事はすまんかった。我が国にも事情があったのだ」
うわー、一国の王様が素直に謝ったぞ!
文句だけ言ったら、連行された職人家族と猫を探してさっさと連れて帰るつもりだったんだけど、謝ってくるとは思わなかった。
「こ、国王陛下からのそのようなお言葉を賜り恐縮してしまいます。それでは早速出して頂けますか」
焼きいもタルトを。
職人家族と猫も。
「くうう、直接賠償金を取り立てに来たという事か」
「どういたしましょう、陛下が必要ないとおっしゃった為に何の用意もありません」
「まさかこんな物騒な奴を送り込んでくるとは思わなんだから仕方ないであろう」
「隣国のやつら、最終兵器をぶち込んでくるとは思いませんでしたな」
「先に最終兵器をぶち込んだのは我が国でもあるのだけどな」
「因果応報というやつですか、なんと恐ろしい」
あのさあ、わけがわからない事言ってないでさ。
焼きいもタルトをさっさと出してよ!
次回 「メシマズ国は伊達じゃなかったわ!」
リン、フィギュアちゃんの援軍を絶たれる
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