第128話 焼きいもタルトへ一直線、他? 知らぬ
焼きいもタルトを求めて国境付近を進む。
「この辺りは結構山がちなのね」
「火山があるからね」
「火山と言えば、アレが出ますね」(メガネくいっ)
「な、なに? まさか火炎ドラゴン?」
うわーやめてよね。こんな所でそんな物体に出くわしたら、こっちが焼きいもタルトにされちゃうよ。
もう余計なドラゴンは出て来なくていいから。
「違いますよリンさん。出てくるのは湯けむりです」
「なんと温泉があるブヒ!」
へーそーなんだー。
何故だか男子がキラキラしてるように見えるのは気のせいかな。
そう疑問に思っていると村が見えてきた。
ここが焼きいもタルトの……
「えーと焼きいもタルトの村って、何て名前だっけフィギュアちゃん」
「確かなんとかかんとか村だよリン」
「カツアワ村だね」
そうそう、それそれ、焼きいもタルト村。ありがとうモブ男君。
「すみませーん、焼きいもタルト下さい」
「はあん? 焼きいもタルト? 何言ってんだこの姉ちゃん」
第一村人を発見して声をかけた結果がこれである。
まったく、じらすんだから、なかなか高等なテクニックを使ってくる村の人だね。
「ここってカツアワ村でしょ?」
「カツアワ村とかふざけた事言ってると、鼻の穴に指突っ込んで奥歯ガタガタするぞ姉ちゃん!」
なんでだよ!
「こらマケ坊! あんたまた若い子に悪さしてんのかい!」
うわー、なんだかカーチャンみたいなのが出てきた。手に持ったお玉でおっさんの頭をぶん殴ってるよ。
でも〝坊〟って、どう見てもおっさんなんだけどこの人。坊何年選手だ。
「うちのマケ坊がごめんねえ。若い娘さんと見るとすぐに鼻の下伸ばして甘い事を言うんだから」
全然甘くなかったわよ。
鼻の下伸ばすどころか、鼻の穴に指突っ込むとか辛い事を言われたわよ。
「カツアワ村に行きたいのかい? カツアワはこの先だよ」
「村を間違えちゃったのか、でもそこまでキレる必要あったのかな」
「ここはカツアワ村の隣のマケアワ村だね、ごめんリン、地図では殆ど一緒に書かれてて見落としてたよ」
お隣り同士仲が悪いのはよくある事だよね、この村の場合は名前がもう負けちゃってるけど。
「でもリン、ここも別に負けちゃいないんだけどね」
「そうです。この村には、なんと温泉があるのです」(メガネくいっ)
「温泉だブヒ! 温泉だブヒ! 温泉だブヒ!」
へーそーなんだー。
さ、焼きいもタルトが待ってるから焼きいもアワ村に急ぐわよ。
何故だか男子のキラキラが消えた感があるんだけど、気のせいだろうか。
「お、温泉回はどうなるんだブヒ?」
回って何の話かな!
何でそんな絶望したような顔で私を見るのかな!
「くそ、どいつもこいつもカツアワ、カツアワってよう。なんだよあいつら勝ち組かよちくしょー」
「ごめんね、負け坊が張り切って温泉風呂屋を始めて三十年。でも若い女の子はみんな焼きいもタルトを求めて隣に行っちゃって、敗北続きなもんだから完全に拗ねちゃって」
負け坊って言っちゃってますけど。赤さんの命名をミスったんじゃないですかね。
「三十年間来るのは爺婆ばかり、俺はそんな干物の為に三十年間も番台に座り続けてたんじゃねえんだよ!」
知らねーわよ!
「俺は若い子にも温泉の素晴らしさを体感してもらいたいんだ! ピチピチの身体で知って欲しいんだ! 玉のお肌で感じて欲しいんだ!」
いちいち言い方が気持ち悪いんだけど。
「若い子は半額、いやタダにするし。そうだ、今なら無料マッサージと俺の顔の柄の手ぬぐいをプレゼントだ」
いらねーわよ! 何で村のおっさんは自分の柄の手ぬぐいを作るのか!
「俺の三十年にピチピチの輝きをくれよ」
「若い娘さんに無理強いしちゃ悪いよ、さあ家に帰ろう負け坊」
「カーチャン」
なんだかちょっと可哀想になってきたんだけど。
「うーん、どうしようかなあ」
私の呟きに負け坊がソワソワしだした。ついでにモブパーティーの男衆もソワソワだ。
「でもやっぱりこの先に進もう。この先に焼きいもタルトが待ってるのに、その他の事は華麗にスルー推奨だね!」
「私も温泉に沈むより、早く焼きいもタルトを食べたいよリン!」
ちょっとモブ太君、何で負け坊と一緒に地面を叩いてるのよ!
フィギュアを焼かれた時以上の悲しみのオーラ出てるって!
「今のは温泉回になる流れなんじゃなかったブヒか!」
そんな流れは存在せぬ。
人は悲しみを乗り越えて前に進まなければいけないんだよ。
でも大丈夫、この先にはキラッキラに光り輝く焼きいもタルトが待っているんだから!
しばらく山道を進む事三十分、焼きいもタルトの希望にキラキラの私は遂にその村に辿り着いたのである!
「遂に来たんだねリン、なんとかかんとか村!」
「焼きいもタルト村だよフィギュアちゃん」
「カツアワ村だね」
「すみませーん、ここはカツアワ村ですか?」
「はあん? ここがカツアワ村に見えるのか姉ちゃん」
いやもういいっすから。
カツアワ村だってネタは上がってるんだよ! 観念して白状しろ!
「ここはカツアワ村ですよね!」
真剣である。ヒキワケアワ村とか言わないだろうね。
「お、おう。カツアワ村だ」
よし勝った!
「焼きいもタルトを下さい!」
第一村人が逃げた。
おいこらふざけんな、何のつもりだ。
「ちょっと! 何で逃げるんですか!」
「大変だ村の衆! とうとう焼きいもタルトを買いに来やがったあ!」
何でだよ!
逃げる第一村人を追いかけて村の中央に来ると、次々と人々が集まってきた。
「とうとう、とうとう来てしまったのか」
「焼きいもタルトをだと、なんてこった」
「どうして焼きいもタルトを買いに来た」
「やばすぎるだろ、ああ、もう終わりだ」
どういう事かな。
なんだかとんでもない事をしでかしてしまった気がしてきたんだけど。
「娘さんや、あなたは焼きいもタルトを買いに来たのか」
「そ、そうですけど。焼きいもタルトを夢見てやって来ました」
「あああなんてこったああ」
何で村の衆が頭を抱えてるのかさっぱりわからない。
頭を抱えるのは、人が絶望した時にするものでしょう? そうほいほい気軽に頭を抱えないで欲しいんだけど。
「残念なお知らせだがな娘さんや。焼きいもタルトはもう無いのだ」
私は頭を抱えた。こんな絶望は世の中にあるのだろうか。
「リン、ハニワ君人形みたいになってるけどどうしたの?」
「ちょっと横になる」
「リン、大丈夫か」
「すまんなあ、お嬢ちゃん」
村の衆が気の毒そうに私を見つめている。
知らなかった……焼きいもタルトが絶滅していたなんて。
「こんなリンを見てられないよ。一体何がどうなったんですか」
「戦争中に隣国の軍隊がこの村にやって来てな、焼きいもタルトを全て食い尽くされてしまったのだ」
なんですと。
「また作ればいいんじゃないですかね」(メガネくいっ)
「お芋があればできるブヒ」
「それがそうもいかんでなあ」
「お芋が無いブヒか? ちょっと行ってお芋やモグラを掘ってこようブヒか?」
「隣国で作らせるとか言って、焼きいもタルトの職人たちを捕虜として連れて行ってしまったんだよ」
「職人の子供たちや猫も一緒にな」
ふ、ふふふふふふふふ。
ふふふふふふふふふふ。
ふふふふふふふふふふ。
「ねえねえ、リンが壊れちゃったみたいなんだけど。応答せよ、リンただちに応答せよ」
私ちょっと隣国にカチコミに行って来るわ。
次回 「隣国へカチコミ!」
リン、隣の王様に殴り込み