第125話 ポンコツ化! はーつどーう!
まさかこの戦争騒ぎがメシマズから起こったとは。
美味しい物は皆を幸せにするんだと信じ切っていたけど、その逆もあったのか。
食の世界は深くて、若干十七の小娘はまだまだ理解が足りていないという事だよね。精進してもっと美味しい物に出会わないといけない。
頑張るぞ。
「決めた、私この国の味方になる。うなぎめしもめちゃくちゃ美味しかったしね。カツアワ村の焼きいもタルトも、フランメルア村のハーブティーも良かった」
「うう、私も知らない美味しそうな物の名前が出て来てる。なにそれずるい」
しかし、何故お隣りの国は料理がそこまで残念なのだろうか。
もしかして隣の国の料理がポンコツなのは、黒髪ちゃんのせいなのではなかろうか。
この子にこの国にいられたらまずいんじゃないかなあ。
「たまにこの国の国境の町に行って、美味しい物食べて暮らそうっと。私、戦争に勝ったら美味しい物食べさせてあげるって言われて、張り切ってポンコツ化のオーラを出しまくってたから疲れちゃったよ」
「ならポンコツ化もしないのかな? お姫ちゃんに言って、国境の町に美味しい料理を集めてレストラン通りを作ってもらう事にするよ」
「ありがとう! あんた、国をへし折る嫌な奴だと聞いてたけど、いい奴なんだね」
誰が何をへし折るって?
「あーあ、ほんと王侯貴族どもの言う事は当てにならないわ。軍人もね」
「それは同意するよ」
私たちはお腹を抱えて笑った。今日私に友達が一人できた。
笑った後で、すっきりした顔で黒髪ちゃんが立ち上がる。
「じゃ、私は帰るわね。やっぱり我が家が一番だし」
「あ、送って行くよ。移動速度抜群の猫がいるからさ。おーいモブ男君! ちょっとブチ猫でこの子送って行ってもらえないかな!」
黒髪ちゃんを乗せたブチ猫が全力疾走していくのを見送る。
あの猫ならきっと数十分もしないうちに国境を超えるわね。戦争中の戦場に女の子がいつまでもいてはいけない。
一番の懸念だった闇姫はお家に帰った。
さて、残ったのは隣国の地上軍だけだ。
「アケミン殿はどこに行ったのだ!」
「アケミン殿はさっき国に帰るって言ってたぞ!」
「うわあああああ、何でだあああああ」
隣国の兵隊さんたちがパニックになりかけてるよ。
「アケミン殿が光姫にやられただと!?」
「コードル将軍! アケミン殿亡き今、我が軍はどうすればいいのですか!」
「ええい、うろたえるな! 態勢を立て直せ! ドラゴンを何とかすればまだ勝機はある!」
向こうで隣国の将軍が叫んでるけど、しぶといなあ。もう帰ればいいのに。
十万を超える軍隊を相手にしては、さすがに四体のドラゴンじゃ荷が重すぎるかも知れない。
ましてやブチ猫は黒髪ちゃんを送って行っちゃったし、白猫はさっきから私の横でフィギュアちゃんにせっせとかき氷を作ってる。
残ってるのは、時々物資をかっぱらってる黒猫と、穴から顔を出しては隣国軍とモグラ叩きゲームをやっている、お姫ちゃんと土ドラゴンだけだ。
なんとなくわかる。お姫ちゃん、相当楽しそうだなあれ。
「全軍! 対ドラゴン戦闘用意!」
「蒼穹のドラゴンスレイヤー参る!」
「漆黒のドラゴンスレイヤー見参!」
「翠緑のドラゴンスレイヤー出陣!」
「黄口のドラゴンスレイヤー参上!」
どれだけドラゴンスレイヤーがいるんだよ!
それに一人だけかっこいい意味で使ってるんだろうけど、間違ってる奴がいるから! 黄色! あんただ!
あ、白銀のドラゴンスレイヤーのおっちゃんと、真紅のドラゴンスレイヤーの息子さんが慌てて走って来た。
遅刻!
どうしよう、あんなに〝ドラゴン殺し〟がいたんじゃ、こっちが負けちゃうんじゃないの?
もう帰ってよ! もういいから、か・え・れ!
「全軍! 抜剣! 弓兵は矢を放て! 目標は敵のドラゴン及び光姫!」
その時、隣国軍の中で謎の爆発音がした。
「なんだ!?」
「炊事兵のキッチンセットが爆発しました! 竜騎兵が落とした炸裂弾の不発弾をスイカと間違えたようです!」
あーあるある、いやねーよ!
「うわあああ! 矢が全てもやしになっています!」
「剣が大根になってる!」
「盾がタマネギに! 目がー目がー!」
「ドラゴンスレイヤーの方々の鎧の色が落ちて、誰が誰だかわからなくなってます!」
一体何の騒ぎよこれは!
ドラゴンスレイヤーの人たちは、どうやら誰が黄口をやるかで喧嘩してるみたい。
「なんという事だ! アケミン殿がいなくなった途端に、我が軍がこんなにあっさりポンコツ化するとは! これが光姫の恐ろしさか!」
私はここに誓う。光姫と出会っても、私は絶対に喧嘩はしない。
「報告します! 国から狼煙で通達! 改善し始めていた食事がまたもやポンコツ化したとの事です」
「ぎゃあああああ!」
黒髪ちゃんは無事にお家に帰ったみたいだね。
ブチ猫はお疲れ様、後でいっぱい喉をゴロゴロしてあげるからね。
「もう終わった……」
「軍のポンコツ化に食事のポンコツ化」
「こうまで軍の士気をへし折られるとは思わなかった」
隣国の兵隊さんたちが持っていた武器、いや野菜を地面に投げ捨ててその場にへたり込んだ。
ちょっと、食べ物を粗末にするの禁止!
「もうメシマズ国は嫌だああああ!」
「俺はこの国の兵になる!」
「俺も降伏して傭兵になるわ」
「さらばメシマズ国!」
「住民票を移します!」
こうして隣国十数万の軍勢は壊滅したのである。
町の人たちを処刑するとか抜かしていた隣国の将軍は、こっそり他の人たちに溶け込んで、うなぎめしを食べようとした所をとっ捕まえて黒猫で強制的に隣国へ追放。
「せめて、せめて一口だけでも。うなぎめし! うなぎめしをおおお。もうメシマズは嫌なんだ!」
泣いて懇願するけど容赦はしないのだ。ちょっと可哀想だったので天まんじゅうを一個あげた。
「これは宝物として我が家で代々飾ろう」
いや、さっさと食べなさいよ!
食べ物にカビなんか生やしたら承知しないんだからね!
次回 「ハンバーガーで大団円にしようと思ったのに!」
リン、うなぎめしが高騰して泣く
物語の終わりも見えてきました!